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12 会いたい
夜。
当然、一日中寝ていたから眠くない訳で。
「夜風にあたってこよう」
「お母様も、お父様も、お兄様も……ミアも、元気かしら」
あれから一度も会っていない家族の顔が、ふと心に浮かぶ。
——少しだけなら、会ってもいいよね?
私はそっと目を閉じ、転移魔法を発動させる。
転移魔法は、想いを具現化する魔法。
思い描くのは、懐かしき我が家、エバンス子爵家の屋敷の前。
風が頬を撫でる。
目を開けると、私は確かにそこに立っていた。
懐かしい屋敷の景色。
けれど、その美しさが胸に痛い。
みんなが私を忘れてしまっている。
自分がしたことなのに、胸が張り裂けそうになる。
覚悟、したはずなのに。
でも、家族だけなら……記憶を戻しても、いいよね?
本当は、それすらも許されないのかもしれない。
でも私は、自分の部屋へと転移した。
貴族の屋敷には、魔道士が張る結界がある。
許可された者しか入れない強固な魔術の壁。
けれど今の私なら、どんな屋敷でも突破できる。
「……私の部屋なのに、まるで別の場所みたい」
そう。私の存在が消され、記憶も消えた。
だから、私の痕跡もすべて消えてしまったのだ。