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じゃんけん  作者: 冬花
16/16

十月(救)

 "子の不始末は親の責任" とは言うが、正直子分の喧嘩が原因で親の俺がガサかけられるなんてのは不条理極まりない。


そんな風に冗談を言って笑い合ってる俺達にはまだ余裕があった。


この時俺達は"被害者"の立場だったから、なおさらそう思えたのだ。


傘下の草心会の若い衆が弾かれた事で、草野達が返しをするんじゃないかと恐れた大原のサツが、本家の俺達にもガサをかけたのはつい先日。


この日も昼を過ぎた頃、大原署の連中が俺達を訪ねて来た。まるで蟻の行列だ。


「やっぱり桑子が絡んでいたようです。」


大原から戻った宮川からそう聞かされた俺は、草野に撤退するように命令しようと受話器を取ったが、すでに当人が連行された事を併せ聞き、受話器を置いた。






「しかしまぁ、仕事が早いよな警察も。」


宮川からそんな報告を聞いた翌日には()()()は俺達の元を訪ねて来た。


「山梨県警も居るようです。」


飯田はそう言って二階から下を見下す。


「地元も来てんのか。」


それもそうだろう、今回は"加害者"の立場だ。


俺は草野に桑子の影があれば退くように伝えていた。


あの"ドラ息子"はやはりそれを聴くハズもなく、大原連合の不良を拷問の末に殺したらしい。


「まぁ仕方ねぇか。"潰せ"って言ったのも俺だしなぁ。」


俺はそう呟くと、下で騒いでいる連中を家に招き入れた。


「まったく、草野の野郎。」


飯田はため息混じりにサツの応待に向かった。


「永田はどうしたんだ?」


宮川と大原から帰ってきた永田は、調子が悪いと言って自分の家で寝込んでいると宮川は言った。


「珍しいな。」


俺は宮川にそう言うと、宮川は茶を啜って俺を見る。


「総長、草心会はキチガイの集まりです。股間まで潰しやがったんですよ。」


宮川は俺の耳元でそう呟くと、後はサツの質問に淡々と応える事に終始した。


テレビもラジオも連日のように今回の"抗争"を報じている。


草心会が殺したのは1人。もう1人は重傷らしい。

相手は不良と言えどもカタギには変わりない。


「極刑は免れると思いますが、無期は食うでしょうね。」


逮捕された草野の所のカシラ…梅津と言ったか。


小沼一家にも顧問弁護士は付いている。

俺はすぐに弁護士に相談したが、出てきた答えはソレだった。


弁護士には草野と梅津の間を取り持つようにと頼んだ。

恐らく草野はすぐに釈放になるだろう、宮川の話では()()にサツが来た時には草野はその場に居なかったらしい。






 警察がガサを終えたのは夕暮れ時だ。

特に成果もなく、一行は元来た道を戻って行った。


「宮川、桑子がこの話に絡んでるってのをもう一度説明してくれ。」


俺は夕日の指す執務室に宮川と飯田を呼び出して、当時の状況を宮川に訊ねた。


「確実な証拠がある訳じゃないんですが、大原連合の頭が東台に隠れてるって話が出たんです。」


宮川は続ける。


「その隠れてる場所に永田と草野会長が行ったところ、すでに大原連合の頭は死んでたそうです。」



ヤクザは基本的に他組織の縄張り(しま)に事務所を出したりする時は、何らかの断りを入れる。

喧嘩になっていれば話は別だが、ガキの集まりが桑子と喧嘩なんて出来るハズもない。


"敵の敵は味方" って事か。


「いいかお前ら、これから桑子組はウチに報復(かえし)に来るぞ。」


突拍子もない俺の発言に、宮川は目を丸くした。


「その大原連合のガキは桑子の仕掛けた()()()だ。」


飯田は俺の台詞を代弁する。


「本当ならこうなる前に草野を止めたかったんだけどな。」


宮川はしばらく考えた後、そう言って無言になった俺に言い寄って来た。


「じゃあ桑子の狙いは、大原のガキをただ匿うと言うよりは…」


「先に手を出させるって事だよ。」


俺は宮川の方を見向くと、結論を告げた。


ただ、一つ解せない事がある。


公に大原連合が桑子組の傘下になっている事実はない。

桑子はどういう理由で返しをするつもりなのか…?

それともこれは()()()()の出来事なのだろうか?


俺達は執務室でしばらく考え込んでいた。






 「総長、先手を取る必要があります。」


長い沈黙を破ったのは飯田だった。


「どうする?」


俺は飯田を見向く。


「桑子から動きがまだ無ければ、こちらから会合を持ち掛けます。」


東台は桑子組のシマだ。

そのシマ内でウチの組が、()()の一環として義理も通さずに立ち入っている。

幸いにして「殺し」はやっていないし、まだ本当に桑子がガキ共を飼っていたかも分からない。


ただ、宮川の話からして他組織のシマ内で「騒ぎ」を起こした事は事実だ。


「要するに詫びを入れるって事か?」


俺は少し納得のいかないような言い方をした。


「いえ、こちらが桑子組の関与を疑っている事は伏せて、探りを入れるんです。」


飯田は怪訝な俺の表情を読み取り、間髪入れずに説明をする。


「よし、分かった。宮川、桑子にアポ取ってくれ。」


こういう状況の場合は、いかに先手を打っていくかという事だ。


少し考えて俺は飯田の提案を了承した。






 意外にも桑子側とのアポはすんなりと通った。

東台での一件を桑子組に伝えると、向こうは驚いた様子だったと宮川から聴いた俺は、この一件は桑子の関知しない出来事だったのではなかろうかと少し安堵した。


約束の日、桑子との会談の場所としては馴染みの店、涼味屋には俺と飯田、桑子と桑子組若頭で飯田の兄弟分である鈴木が席を囲んだ。


桑子とは高階組継承式以来だ。


「桑子組長、この度はウチとガキの集まりとの間でお見苦しい所をお見せしてしまいました。」


継承式の話もそこそこに、俺は桑子に挨拶をする。


詫びとも取られかねない発言だが、あくまで"説明"の域を出ない俺の挨拶に桑子は微笑みを見せた。


「小沼さんとこも大変だねぇ。まあ警察にはウチも疑われたんだけど、大原連合だったか、あんなのがウチの縄張(しま)に居たとは知らなかったから、何てこたぁねえさ。」


警察も桑子組が大原連合の人間を匿っている事を疑って、桑子組に捜査の手が及んでいたらしい。


「まったく、ガキの集まりに手こずるようでは草野さんも()()()ないですね。」


鈴木はそう言って笑った。


「やめねぇか鈴木。」


桑子は鈴木を咎めると、鈴木は桑子に頭を下げる。


鈴木としては小沼一家のおかげでサツにあらぬ疑いをかけられたのが不満なのだろう。


しかし俺達は桑子が関与している事への疑いを抱いているのだから、この点においてはサツと同意見である。


「害虫退治は仕方ない、他所の縄張に入ってでもやらなくちゃならん。ただ、相談してくれたらウチで始末しましたよ小沼さん。」


桑子はそう言うと微笑んだ。

桑子も今回の出来事は面白くないのだろう、皮肉にも聞こえた彼の優しさは不気味な雰囲気がある。


「ありがとうございます。」


俺と飯田は桑子に礼を告げると、桑子は少し苦い顔になって考え込んだ。


箸で刺身を拾い上げると桑子は口に刺身を放り込み、俺達に嘆く。


「いやね、さっき言ってたアパートがある場所ね、あそこはたしかにウチの物件なんですよ。ただ、どうして大原の不良が入り込んだのか分からない。それでウチも調べたんだけど、ウチにも草心会のようなイケイケの連中が居ましてね、今日呼んでるんだけどいい?」


想定外の告白に俺達は顔を見合わせる。


「おい、入れ。」


ドスの効いた鈴木の声に反応するかのように、隣りの(ふすま)が開く。


「紹介します。桑子組若頭補佐の安藤です。」


そこには今にも人を斬りつけそうな鋭い目つきの男が立っていた。


「安藤です。お見知りおきを。」


桑子はため息をつくと口を開く。


「この安藤はまぁ懲役太郎でね、こないだ出所してきたんですよ。10年だったよな?」


「はい。」


「で、ムショ呆けしてたようで、飲み屋で知り合った大原の不良に(やさ)を提供したってんですよ。それがあのアパート。」


桑子が安藤を俺達に紹介すると、鈴木が口を開く。


「小沼総長、兄弟。申し訳ない。この野郎、何にも知らねぇで大原連合のガキ、連れ込んでたみたいで。」


鈴木は俺と飯田に謝罪の言葉を口にした後、キッと安藤を睨む。


「いえ、今回の一件ではウチも断りなしに縄張に土足で上がり込んでしまった、ウチから言うのも変ですが、この話は終わりにしましょう。」


俺はそう言って桑子に酒を注いだ。


「紹介させてもらって何だが、安藤はヤクザを辞める事になってるんですよ。」


桑子は俺に酒を注ぎ返すと、突如として安藤の引退について話し始めた。


俺達は突拍子もない桑子の発言に再び顔を見合わせる。


「何でまた?」


俺は安藤を見ながら桑子に訳を問う。


「今回の事はウチが大原連合を匿っていたと思われても仕方ない。今日だってソレを確かめに来たんでしょう?」


桑子はそっと猪口を置くと、俺達を見渡した。


「調べてみりゃ安藤が関わっていたのは事実だ。これが関係ない組同士なら話は別だが、桑子組と小沼一家は親戚団体だからね。このままいけば間違いが起きないとも言えない。だから安藤は破門にするよ。」



飯田と鈴木は兄弟分だ。それ故小沼一家と桑子組は親戚となる。

親戚同士の争いに発展する事を危惧して、今回の責任を安藤に負わせるというのが桑子組長の意見だった。


「組長、何もそこまでされなくても。」


俺は徹底的な桑子の姿勢に、若干の嫌悪を抱いた。


「小沼さん、コレが筋ってもんでしょ。」


さっきまでの和やかではあるも不気味な桑子の雰囲気は無い。

あるのは不気味さだけだ。


「そうですか。」


俺はそう呟くと、安藤を見つめた。


「申し訳ありませんでした。」


俺に頭を下げる安藤の目には、正直言って殺気しか感じる事ができなかった。






 「一本取られたな。」


帰りの車中、俺は飯田にそう呟いた。


「すみません総長。自分が(なし)持ってったばっかりに。」


飯田はひどく落ち込んだ様子だ。


「大丈夫だよ。向こうの腹も読めたじゃねぇか。」


俺は飯田の作戦が功を奏している事を告げて励ました。


「何かあったんですか?」


運転席の永田は不思議そうな表情を浮かべる。



「桑子組は幹部一人破門にするんだから、小沼一家(うち)も何らかの対応をしろって事だな。」


俺は永田に会談の要旨を説明した。


「しかし、これじゃあまるで…」


飯田の腹の内を俺は代弁した。


「そうだ。草野を破門にしろって事だ。」


「草野がそんな話を受け入れる訳がないですよね、どうしますか?」


飯田が珍しく辿々しくなる。


「とにかくだ。まずは草野を大原署(サツ)から出す事が先だ。」


サツは草心会を集中的に取り締まっている。

何か手を打たなければ草野も逮捕される事は間違いないが、逆にその方が何かと都合が良いかもしれない。


(しかし草野不在の大原は誰が…?

下手すりゃ桑子の手に落ちる可能性もある…。)


「永田、ここへ向かってくれ。」


俺は永田に住所を書いた紙を渡した。


(簡単には草野をサツから戻せない…この手は使いたくはなかったが、仕方ない。)


「わかりました。でもコレって誰の住所なんです?」


永田はそう言ってアクセルを踏み込んだ。






「勝間田久雄。元県警本部長だ。」








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