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14 模擬戦

 大演習場。そこは地上での戦闘を想定された区画であり、日光が降り注いでいるかのような明るさを有していた。

 一辺が200m、天井高が15mにもなる大規模な区画が完成するまでに約十日の歳月が費やされた。因みにここは、ダンジョン内にある最大の区画でもある。壁には等間隔に光源が設置され、床や天井にも等間隔に光源となる魔力の込められた石が埋められている。魔力石の設置や区画の整備は訓練の一環としてミノタウロス、スケルトンが行った。

 本来であれば、ゴブリンが担当すべき作業ではあったが、現在オイルーンの採掘に大半のゴブリンが借り出されている為、クリーチャーの数が不足して為の代替処置でもあった。

 

 その大演習場に本日、王であるグルンがオリビアやゼルダ、ヒルダ、シュミットなど側近の者と共に訓練の視察に来る予定となっていた。

 大演習場の中央付近に720体のミノタウロス、80体のスケルトンが8個中隊を二つに分け、4個中隊づつに分かれ、向かい合うように整列している。4個中隊づつに分かれた二つの大隊、西側に陣取る方をフィジャックが、東側に陣取る方をゾンヌがそれぞれ指揮官として就いていた。

 東西に分かれた軍勢が一糸乱さぬように整列し、王であるグルンが大演習場へ入ると同時に、その場に居る全兵士が跪く。


 東西の指揮官であるフィジャックとゾンヌがグルンの目前までやや早い足取りで向かい跪く。


「本日は我らの演習のご視察に玉体をお運び頂き、僥倖の極みで御座います。グルン様から預かる兵の日頃の訓練の成果を本日は余すところ無く御覧頂けますよう、兵共々奮闘することをお約束致します」

「うむ。今日はフィジャックとゾンヌが東西に分かれての模擬戦か、双方奮戦を期待する」

「は!」


 東西に分かれた兵を代表して、フィジャックが王に対して口上を述べた。

 すぐにフィジャックとゾンヌは王に一礼し兵の元へ戻っていく。これから東西に分かれての実戦形式の模擬戦であり、各中隊長との最終的な打ち合わせを双方開始している。模擬戦と云っても実戦にかなり近い形式で行われ、双方の兵士全員に一定の衝撃が加えられると消滅する魔石を胸に装着されている。その魔石が消滅した者は戦線を離脱する事となっている。

 大演習場内には5mほどの高さの演習場を見渡せるよう作られた小さな展望台が設置されており、配下二人の姿を展望台内に設置された貴賓席に座り、グルンは観察する。


「西がフィジャック、東がゾンヌの指揮か。皆はどちらが勝つと予想する?」

「ミノタウロスの訓練を主に担当していますフィジャックが有利かと考えます。ゾンヌはスケルトンの生成、訓練を担当して居りますが弓を扱うスケルトンの数が少数であるのと、実戦形式とは云え模擬戦での射撃による攻撃はあまり有効には働かないかと。鏃部分も刃引きされておりますので胸の的部分への射撃を行えるほどの錬度は現状ないと見ます」

「ふむ、妥当な勝敗の帰結という予想か。他の者はどうだ?」


「私もオリビア様と同じ理由から、フィジャック様が有利と見ますわね」

「え、えとーあたくしはゾンヌ様だと思います」

「ほう、ヒルダはゾンヌか、その理由は?」


 少し戸惑いながらもオリビアやゼルダとは異なる意見をヒルダが述べる。


「この演習場って高低差はほとんどなく平らですけど、開けた場所ですよね。スケルトンが双方に40体づつですし、ゾンヌ様から見て右翼方向からの射撃はかなり有効だと思います。ミノタウロスの武装は右手に各自が斧の代わりに棍棒を装備していますし、左手には射線を遮る盾を持っていませんよね。スケルトンの運用に長けるゾンヌ様であればこの点に活路見出し、有利に展開させると思うんです」

「しかし40体のスケルトンの射撃が大勢に影響を与えるほどの効果が出るか?」

「スケルトンが所持しているのは全て合成弓ですから、速射性、威力、射程距離に優れ40体であっても脅威となるかと、それとミノタウロスは胸甲と手首、脛に皮の防具を装備しているのみで、これも射撃攻撃への脆さに繋がると思います。」


 ヒルダはややゆっくりとした口調ではあるが、理路整然と歩兵の運用に長けるフィジャックよりも弓兵の運用に長けるゾンヌの勝利を予想した。そして現在の歩兵であるミノタウロスの武装の弱点についても指摘している。

 これに対しては普段からやや愚鈍な印象をゼルダと比べ抱いていたグルンも驚いていた。グルン以外のオリビアやゼルダ、シュミットは彼女のこういった論理的な考え方を普段から見ているからなのか、感心はしてはいるが驚きはしていなかった。


「ヒルダの考えは確かに理に適っている部分もあるな、しかしその弱点はフィジャックも同様に考えにあるであろう。ゾンヌの優位性がヒルダの言う通りに表れるかは些か疑問が残るな。しかし結果がどう出るかはまだわからぬが、良い観察力だ」

「お、ほ、有難う御座います!で、では」

「褒美などは特にないぞ。シュミットはどう考える、申してみよ」


 ヒルダが頬を上気させ喜び勇みグルンへ褒美を強請ろうとするも、グルンによって封殺され、話題がシュミットへと移される。


「は!恐れながら皆様のご見識に及ばぬと承知致しておりますが、申し上げます。えー、わ、私は双方のお方の布陣を見るところやはりフィジャック様が有利かと考えます。横陣の薄い隊列が突破された場合に備え、半個中隊を予備兵力として運用するおつもりかと、的確な兵力の投入があればミノタウロスの運用に長けるフィジャック様がやはり有利となりましょうか」

「ほう、シュミットは陣形についても見識があるのか。しかしその予備兵力を使うタイミングを見誤ればゾンヌに勝利が傾くとも言えるな」

「はい、同兵力での戦闘でありますので指揮官の判断ミスが全てを決する要因になるかと」


 グルンはシュミットの最後の言葉に強く頷いて満足気な顔で布陣しはじめている東西に分かれた兵を観察している。シュミットが言うように確かに西側のフィジャックは半個中隊の50体ほどを後方に配置し、残りの3個中隊と半個中隊を前面に横陣で展開させている。これも側面からのゾンヌによる弓での攻撃を意識しての陣形であるのはすぐに見て取れる。

 一方東に布陣するゾンヌも既に陣形を整えつつあり、Vの字になる形の鶴翼かくよくを取り両翼が突出する形を取っている。右翼側には小隊事に配備されているスケルトンを再編成し弓部隊の比率を高めた小隊を密集させている。




「日々の訓練の成果を王に見て頂ける絶好の日を諸君らは迎えたのだ、我ら中隊が最精鋭だと云う事を今日証明しようではないか!各中隊長、小隊長の命に従えば我々は必ず勝利を掴み取ることが出来る!諸君らの奮闘を期待する!」


 フィジャックは西側の兵の先頭に立ち全ての兵に聞こえるよう大声で演説し、士気を高める。

 その言葉にミノタウロスが雄叫びを上げ指揮官の激励に応える。戦いを前に強靭な肉体に宿る筋肉の塊を隆起させる。雄叫びが次第に足で地面を鳴らす音へと変化し、演習場内の全てを揺れ動かす程の轟音となって響き渡る。



 その西側の兵の士気の高さを見ながらもゾンヌは表情を一切変えずに東側の兵の前で演説を開始する。


「あちらの愚かな者達に我々が呼応する必要を認めません。これは模擬戦であり実戦ではないのです、各自が指示された通りの事をいつも通り行使する事。勝利など意識しなくて結構です」


 フィジャックと比べてあまりにも冷淡であり兵の士気を上げるという意識が皆無であるかのようなゾンヌの演説は端的に短い物であった。

 何の力も持たない指揮官の言葉であれば兵の士気は否応にも下がったであろうが、ゾンヌは彼ら兵にとってはフィジャックよりも恐怖の対象としての印象が強かった。普段はスケルトンの訓練を担当する彼女との接点が少ない大半のミノタウロスの一般兵だが、中隊長や小隊長といった士官クラスはゾンヌとは嫌でも顔を合わせる機会が多く、彼女の命に逆らうことは即、死を意味する事を理解している。

 王に任命されているとは云え、一般の兵で訓練中助かる見込みがないと判断された者はゾンヌによって早々に処分され、墓場へと運搬されて行く姿を士官達は嫌になるほど見ているのだ。そして少なくない数の一般兵も、同僚がゾンヌによって処分され墓場へ連れて行かれるのを知っていた。

 彼らは思う。勝利など必要ない、模擬戦であれ瀕死の重傷になれば即処分されるのだ、生き残る為に少しでも敵を戦場から排除するしかないと。死なない事が最優先。勝利など既に彼らの頭には無かった。



「オリビア、そろそろだ。合図を」

「畏まりました」


 両軍の演説が終ったのを見計らいグルンがオリビアに合図を出すよう促す。


 オリビアは展望台から音も無く地上へ飛び降り、すぐに魔法陣を地面に浮かび上がらせる。魔法陣からは青白い光が漏れ始め魔力が辺りを駆け巡る。オリビアの黒と紫の織り交ざる長い髪が魔力で起こされた風に激しくなびきだす。


【雷大波】ライトニングサージ


 オリビアから放たれた【雷大波】ライトニングサージによって、西と東に分かれ布陣する兵の間に異常高圧で放電された雷が顕在化し300㎡の大演習場全てを青白い光で瞬時に包み込む。「光」と云えば害はないが、その強すぎる光はしばらくの間、その光景を目にした者の視力を失わせるほどの膨大な量の光量であった。その光の源泉である放電された雷は、目標を定めてはいないのか演習場の中空ですぐに四散して消滅した。


 これが開戦の合図となり両軍は数秒の硬直後、各中隊長の大声を張り上げる指揮により幕を上げた。


「オリビア様~目、目が~~~サキュバスは強烈な光に弱いんですわよ!」

「オリビア様、絶対わざとです……」

「フィジャックとゾンヌもかなりのダメージを負っているかもしれん」


 展望台で目を抑えるサキュバスの二人と少々目を細める王が階段を登り戻ってくるオリビアを非難していた。シュミットは立ったままの姿勢で白目を剥いて気絶し、涎を盛大に床に零していた。

 そんなオリビアは展望台の光景を見て何か問題があったのかという表情でグルンを見つめていた。



■グルン Lv6 (next300/1000)

■残り時間[24(d):12(h):21(m):43(s)]

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