ep31 2つの名
『名を、水大蛇と称す』
「ミズ……オロ……チ?」
『エイド…… 悪ふざけは程々にしてください。私だって怒りますわよ?』
『我、水大蛇以外の何人にも在らず』
しっかりした声で返答が返ってきた。
『汝、我が血族を傷付けたなり。その代償、決闘にて払おうぞ』
青龍は歩みを進める。戦う気満々なようで、敵とのちょうどいい距離に着くと、構えた。
『汝、覚悟は良いか?』
『どうやら、本気で戦ってくれそうですね。覚悟はできてますよ』
嬉々とした近衛兵の返答の後、しばらくのにらみ合いが続いた。
先に動いたのは青龍だった。毒々しい緑の残像を残し、機械とは思えない速度でナックルを打ち込んでいく。金属のこすれる音で、うなるような駆動音は掻き消えた。
『すごいですわ……』
思わずつぶやいたと思われるリリのつぶやきに、同意せざるをえなかった。
「でも、敵もついていってるよね?」
反撃こそしてはいないが、的確にすばやい攻撃をさばいているように見える。だが、心なしか腕の装甲がへこんでいるようにも見える。
『ぐぅ……。は……速い……』
敵の回線が入り込んだままだったようで、そんな声が聞こえてきた。そして、懐かしい声も聞こえてきた。
――あやつ、楽しんでおるな……
「あやつ? ……なぁ、お前は誰なんだ?」
――我か? 我は“中央の守護神”
「中央の……守護神?」
――四神と共に汝らを守りし守護神
懐かしい声が聞こえる後ろで、金属がぶつかり合う音が聞こえている。はっきりと聞こえるはずの周りの音すら、声よりも小さく聞こえる気がする。
――名を麒麟という
「きりん……」