第73話 3人目のチームメイト
グロスターダンジョンの63階を徘徊している魔物は存在しない、居るのはボスとガーディアンの2体だけなので、宝箱付近に転送装置を設置して、ホームに帰った。
宝箱の宝石は全て端末ショップで売却して、薬は後日、鑑定をして貰う事にしたが、武器や防具は俺達には必要ないので、共有倉庫に入れてどうするかは、後日、決める事にした。
フレイヤさんが帰って来たタイミングで、簡単に明日の打ち合わせをする。
「6本首のヒュドラーで、レベルは63です。フレイヤさんはヒュドラーと戦った経験がありますか?」
「最初に、マサキが見た書物は古い。私の父が幼い頃に書かれた書物だから、私の頃には『ヒドラ』と呼ばれていたぞ。
で、戦った経験はない。あれは海蛇の魔物だから、森の奥の沼地や辺境の海辺に生息しているが、そういった場所は、近付かない様に言伝えが残っていて、人は近付かないから戦う事は稀だ」
フレイヤさんの話を聞きながら、ご機嫌な顔でアサルトライフルの手入れをしている浩史。
ゲーム世界では、一応、銃のメンテナンスも出来たが、実際はメンテナンスフリーなので必要な行為だが、コアなユーザーからの要望で、ゲーム内で可能になった。
俺は、この世界で一度も銃のメンテナンスをしていないが、ジャムった事はないし、不発も起こった事はない。
では何故、浩史が銃のメンテナンスをしているのか?やる気の表れだ。ゲームでもボス戦の前によくやっていた。俺はゲームじゃないから、強い敵と戦いたい欲求は無いが、浩史は嬉しくて仕様がない様だ。
ご機嫌な浩史は放って置いて、話を進める。
「フレイヤさんも戦った事が無いのでは、本に書いてある事を参考にして話を進めます。
本に書いてあるヒドラの特徴は、首毎に違うブレス攻撃と噛み付き攻撃の2種類で攻撃するみたいです。
ブレスの種類は、炎、冷気、雷、突風、石礫、毒ガス、酸、煙幕の8種類で、噛み付き攻撃の首は鱗が硬く、有効な攻撃は噛み付く瞬間の口の中だけと書かれています。
ブレス攻撃の対策ですが、俺達はアーマーで防ぎますけど、フレイヤさんは?」
レベル差もあるので、コンバットアーマーを展開していれば、ブレス攻撃は防げる。毒ガスもフィルターで遮断出来るし、煙幕はサーモグラフィーでは多少輪郭がぼやけるが、骨があればX線で正確な動きも分かる。
「結界で防ぐから問題ないぞ」
「結界ですか…?それは煙幕に対しても有効ですか?」
結界を言葉通りに解釈すると、特定の場所への侵入を防ぐ事だと思うのだが?そうすると煙幕対策にはならない。
「私の眼は暗闇でも良く見えるし、熱を捉える事も可能だ。それに秘策もある」
フレイヤさんがニヤッと笑ったが、秘策は説明してくれそうもない。
バンパイアだから夜目が利くのは解るが、熱を捉える事も出来るとは、コンバットアーマーは高性能なので、人の事は言えないが、便利な目だ。
「じゃあ、フレイヤさんも問題なし。浩史、これで打ち合わせを終わるけど、聞いてたか?」
「聞いてたよ。全て了解。明日は扉に入って、真っ向勝負!」
本当に聞いていたのか疑問は残るが、レベル63なので問題ないと思う。
「しかし、レベルか…、今一ピンと来ないな。63はどの程度、強いんだ?」
フレイヤさんから難しい質問をされた。
どの程度?この世界で、他にレベル63でボスクラスの魔物は疎か、普通の魔物でも見た事が無いので、答え様がない。
「大丈夫です、フレイヤさんより弱いですよ。兄貴が心配性なだけです」
「それはそうだろ、私に勝てる者と言えば、老龍クラス以上だからな。6本首のヒドラは、ヒドラの中でも中位の強さだ。私達なら問題ないだろう。
さてマサキ、1つ使いを頼みたいのだが?」
フレイヤさんが俺も前に1通の手紙を取り出した。
「これは?」
「今からヴィクターに届けて欲しい。まだ、ファンドラ城に居るはずだ」
届けるのは構わないが、何故、俺が?フレイヤさんの執事は陛下とも面識があるので、手紙を届けるなら適任だと思うが?
でも、フレイヤさんには今まで色々な頼み事をしているので、この程度で借りを返せるなら。
「では、今から届けて来ます」
手紙を受け取りファンドラ王都に転送した。
城に到着して、ヴィクター宰相にフレイヤさんの使いだと、面会を申し込むと、直ぐに応接室に通された。
応接室では既にヴィクター宰相が待って居たので、挨拶を済ませて手紙を渡すと、開封して手紙に目を通した。
「マサキ殿、今から返事を認めるので、暫しお待ち下さい」
手紙を読み終えたヴィクター宰相は、頭を下げて手紙の返事を届けて欲しいと言うが、何か引っかかる。
「緊急なら、直接フレイヤさんに話した方がいいのでは?その方がフレイヤさんも助かると思いますよ」
「い、いや…。しかし…。手紙の方が、フレイヤ様も…。それに仕事の方が…」
物凄く怪しい。フレイヤさんの前に引き連れて行った方がいいのか?
「まさか、フレイヤさんに会う事を拒否されるのですか?」
「滅相も無い!フレイヤ様に呼ばれたら、直ぐに参上致しますが…、今回は、何分…、手紙を認めますので、フレイヤ様にお渡し下さい」
話にならない。手紙を書く間にフレイヤさんに会って話す事も可能だ。既に、この話をしている時間も勿体ない。実力行使に出るか?
ファンドラ国には、帰還魔法の研究をして貰っているので、手荒な事は避けたいが、ファンドラ国とフレイヤさんを天秤に掛けると、フレイヤさんに傾く。
「いい加減にして下さい。カーロイ陛下から命令して貰った方がいいですか?」
「…それがいいと思います」
少し悩んだヴィクター宰相が部下を呼び出して、手紙を渡し陛下を連れて来る様に命令した。
俺の勘違いか、カーロイ陛下はフレイヤさんの味方だと思っているので、俺の意見に賛成すると思っていたが、ヴィクター宰相は違う意見の様だ。
この国のエルフは大抵フレイヤさんに会えると言われれば、喜んで付いて来ると思っている。それが全く乗って来ないとなると…、急にフレイヤさんか書いた手紙の内容が気になりだした。
何が書いてあったのか…、カーロイ陛下からもヴィクター宰相と同じ意見なら、フレイヤさんが俺の足止めをしている?
「では、一度、ホームに帰って、1時間程したら手紙を取りに戻ります」
「お待ち下さい!…もう暫くで、陛下が参ります!」
ヴィクター宰相がカーロイ陛下を呼び出したので、陛下が来るまで待つ様に言われた。一応、俺の話の流れで、陛下を呼び出す事になったが、今は一刻も早くホームに帰りたい。
「ヴィクター宰相、手紙に書かれていた内容を教えて貰えますか?」
「マサキ殿には関係ない」
きっぱりと否定されたが、もう少し確認してみる。
「陛下には後で謝りますので、一度、ホームに戻ります」
椅子から立ち上がってドアに向かうと、両腕を広げてドアを塞ぐ様に立ちはだかった。
ドアの前に立ち塞がったヴィクター宰相の意思は固い様だ。
俺も力尽くで、出て行く訳にもいかないので、そのまま睨み合っていると、ドアが開いて陛下が入って来た。
「2人して立って何をしておる。マサキも一度、席に着け」
陛下に言われて、俺達が席に着くと陛下も座って話を再開した。
「ヴィクター、フレイヤ様からの手紙は読ませて貰った。それでマサキ、暫くこの部屋で過ごして欲しい」
「理由を聞いても?」
「フレイヤ様から、マサキを足止めしておく様に、手紙で指示があった」
「陛下!」
陛下が手紙の内容を俺に打ち明け、ヴィクター宰相が陛下を止め様としたが、もう遅い。
「手紙には、マサキに秘密にしろとは書かれてない。説明して協力して貰った方が早い」
「それでもマサキ殿が出て行かれ様としたら?」
「近衛が装備を外して待機している。マサキ、外は裸の男で一杯だぞ」
ドアの外に50人程が待機しているのは知っているが、裸の男?
「裸の男とは?」
「マサキが部屋から出たら、裸の男共に揉みくちゃにされるぞ」
ドアを開け、顔だけ出して確認すると、左右の廊下に何も身に着けていない男達が集まっていた。1人の男と目が合うと、笑顔でポージングして体を見せて来る。
直ぐにドアを閉めて席に着く。あれに揉みくちゃにされるのは避けたい。
「あの変態共は?」
「我が国の近衛第3部隊だが?趣味は肉体を極限まで鍛える事だ。変態ではない!」
「城の廊下を裸で歩いている奴は変態で十分だと思いますが?」
「肉体の強さは勿論、魔法の才能もある。我が国、最強の部隊だぞ」
カーロイ陛下が言うには、あの変態共がファンドラ国、最強の部隊だそうだ。二度と関りになりたくない!
変態共の事は忘れて、フレイヤさんの話に戻す。
「それでフレイヤさんは何を企んでいるのですか?」
「その前に、マサキには1時間この部屋で過ごしてくれ。必要な物があるなら、ヴィクターに言えは用意させる。
ヴィクター!フレイヤ様からの頼みだ。最優先で対応しろ!」
「はっ!」
陛下は帰って行ったが、廊下には変態共がいる。
このまま、ホームに転送しようかと思ったが、フレイヤさんが俺に内緒にしたい事を考えると、端末ショップでの買い物?ガーディアンとの戦闘?後、思いつく事は大した事ではない。
一番フレイヤさんらしい事は、端末ショップで買い物だろう。浩史に言えば、止める者が居ないので、端末ショップで買い物し放題だ。この程度なら黙認するか。
飲み物を貰って、ヴィクター宰相と一緒に部屋で時間を過ごして、1時間が経過したのでホームに戻る。
ホームに転送すると、最悪の事態になっている事が判った。
俺が今まで絶対に避けていた事!この世界で俺達のアドバンテージになっている、ゲームシステムを他の人に使わせない事だが、俺のレーダーには仲間の緑点が2つある。
自分は常にレーダーの中心に居るので色付けはされていない。
緑点が2つ、仲間が俺を除いて2人居る。1人は当然、浩史だが、もう1人は?…フレイヤさんだろうな。2人共、多目的ルームに居るので、俺も合流する。
「あっ、兄貴帰って来た?フレイヤさんにチームに入って貰ったよ」
レーダーと簡易メニューで確認したから知っている。
チームに入るには、リーダーかサブリーダーの承認が必要なので、浩史が承認を済ませたのだろう。
「フレイヤさん、これからも宜しくお願いします」
「マサキ、このレーダーシステムと言う物は素晴らしいな。敵の位置が正確に判り、自分の意志で色々な設定が出来るぞ」
フレイヤさんが興奮気味に、レーダーシステムに付いて説明してくれるが、知ってるし使っている。
さて、もう1つの重要な事を聞かないと、話が進まない。
「で、フレイヤさんのレベルが上がっているのは何故ですか?」
フレイヤさんに尋ねたのだが、浩史が説明し始めた。
「兄貴も気が付いた?でも、最初から順を追って説明するよ。
始めに、メイン端末でチーム申請にフレイヤさんの名前を打ち込むと、医療カプセルに入れるメッセージが出たからフレイヤさんに入って貰ったら、体内通信機と網膜システム、コンバットアーマーの入手に成功した。
ここまでは、あれのチュートリアルと同じ流れだったけど、医療カプセルを出たフレイヤさんはレベル87から、なんと!93レベルになりました!!」
…説明が終わったのか?自分の言いたい事だけを言って、俺の質問に回答する気は無い様だ。
「何故、レベルが上がったんだ」
「コンバットアーマーを入手したからでしょ」
俺と浩史が話をしている横で、真赤にカスタマイズしたコンバットアーマーを展開して、こっちを見ているフレイヤさん。
「フレイヤさん、コンバットアーマーを頭まで展開していると、外部スピーカーをONにするか、体内通信機能をONにしないと、何を喋っているのか聞えません」
「…これで聞こえるか?」
「聞こえます」
「レベルの話だったな。確かに、コンバットアーマーを展開していると、今までよりも力が出せる。レベルが上がった原因はヒロシの言った通りだと思うぞ」
フレイヤさんは話しながら、体を動かしながら、力の入り具合を確認している様だ。
コンバットアーマーにはパワーアシストもあるし、防御力も高いので、6レベル位は上がるのか。
「それよりも、明日のガーディアン戦は少し伸ばしてくれ。そうだな…10日後でどうだ?それまでには、使いこなせる様にしたい」
浩史は明日のガーディアン戦が無くなった事で愕然をしている。いい気味だ。
明日から10日間は、浩史と交代でフレイヤさんと行動して、このシステムに慣れて貰う事になった。しかし、これでフレイヤさんとの練習で勝利を収める事が遠のいた。最悪、一生勝てない事も考えられる。
その後も、機能や使い方を説明して、最後にフレイヤさんの装備を購入して終了した。
体内通信機:声を出さなくても通信出来るし、衛星を介せば距離が離れていても通信可能。
網膜システム:視線を向けるとレベルと種族が表示。他にもレーダー機能、録画機能、翻訳機能などがある。
コンバットアーマー:腰のベルトがアーマー装置で自分のレベルに応じて強化されるパワーアシスト機能付き。全身アーマーで3秒間ダメージを受けないと自己修復する。フラッシュライト、ナイトビジョン、高感度カメラ、サーモグラフィー、レーダー波、X線、心音センサーなど内蔵されている。




