第30話 バンパイアロード
「良く来たな、私がこの森を統べるバンパイアロードだ!冒険者は久しぶりじゃ」と『L87 バンパイア』が喋ってる。俺達よりレベルが高い!!
「この森から出たいので結界を解いて下さい」と話して様子を見る。
「ゆっくりして行け、私の下部達も歓迎するぞ」と3人のバンパイアが襲って来た。
ボス戦も後に控えているのでスキルを使わないで対応する。1人が詠唱を始め、2人が接近戦を挑んで来たので浩史とアサルトライフルで迎え撃つ、1マガジンを撃ち終わる頃には灰の塊が3つ出来た。
「ほう、やるではないか。それにしてもその武器と鎧はなんじゃ?」
「日本の物です」
「二ホンとな?聞いた事がない」
「異世界の事はご存知ですか?」
「異世界?あぁ古代龍達が何やら騒いでおった件か」
「古代龍が…?バンパイアロードさんは知らないのですか?」
「フレイヤと呼ぶ事を許す、そなた達の名は?」
「正樹と弟の浩史です」
「マサキとヒロシか、異世界の事だったか?何やら本で読んだ気はするが探したのであれば私の書庫を探すがよい」
「後で見せて貰います、で結界を解いて貰えますか?」
「そう焦るでない、次は私の分身が歓迎するぞ」と両腕がそれぞれ2匹の狼の形へ変わり、切り離されると威嚇をして襲い掛かって来た。
4匹の狼はスピードが速いので狙いを定めきれない、コンバットアーマーの耐久ゲージも一撃事に少しづつ確実に減っている。今までの敵ならダメージを受けたかどうかも判らない程度の攻撃だったが、流石にレベル87は違う。この狼も『L87 バンパイア』となっている。
「浩史、スロウで倒す」とスキルを発動、狼の着地地点を狙って着地前から撃ち始めて1体を倒して、浩史の腕に噛み付いた1匹に狙いを定めて胴体を撃ち抜くと浩史が止めを刺す。
直ぐ後ろから襲って来た狼に腕を差し出し、噛み付かせている隙に0距離で銃弾を撃ち込み転がった隙に頭を撃つ。最後の1匹は浩史に襲い掛かる瞬間に浩史がバニッシュを発動させて目標をロストさせ、その隙に俺が倒して終了した。
「おお!分身でも倒せぬか、人の身でありながら大したものよ。どうやって消えたのだ?」
「内緒です。フレイヤさん、結界を解いて下さい。お願いするのはこれで最後です」戦闘はしたくないが、戦うなら強化魔法が切れる前に決着をつけたい。
「解かなかったらどうするのじゃ」
「フレイヤさん、語尾が変ですよ。誰に習ったのですか?馬鹿みたいだから止めた方がいいですよ」
「何が変なのじゃ!!」と血の気がない顔で怒った。
「何か変ですか?とか、何が変なの?ですよ」
「私はバンパイアロードだ!変ではない!!」
「まあ合格です。語尾に『じゃ・ぞ』はつけないで下さい」
フレイヤさんは怒りの為か恥ずかしいのか震えている。
「兄貴気付いてる、レベルが上がって81になってる」
浩史を見ると本当に81レベルに上がっている。まあレベル87が居るので当然か、そうするとこのバンパイアロードを倒すともっと経験値が入る!だけど1回だけ、狼なら何回でも経験値が貰える?ゲームだと85レベルまではすんなりと上がるはずだ。
「フレイヤさん、狼はもっと出せますか?」
「何じ…、何だ、もっと戦いたいの…か?10体までが限界…だ。数日で回復する…」と語尾に気を遣いながら喋っている。
「じゃあ、残りの狼6体と戦ってもいいですか?」
「別に良いぞ」と6体の狼に腕を変化させる。
俺も直ぐにスロウを使って戦闘に入り、浩史も光学迷彩で姿を消して俺に噛み付いている時を狙って狼を倒して行く。残り3体でアーマーの耐久ゲージが赤に変わった。
3秒間ダメージを受けないとアーマーの自動回復が働き始めるので「浩史、10秒稼いで」と距離を取って魔造弾に交換し、ピンポイントで狙っていた射撃を制圧射撃に切り替え浩史と協力して時間を稼ぐ。
2人での制圧射撃でも狼達も回避行動を取るので少しは時間を稼いだが、1体が俺に突進して来て横から銃弾を撃ち込まれ灰となる。2体の狼も攻めあぐねているのでスキルを解除してスキルゲージを少しでも回復させる。
10秒経過して耐久ゲージは半分まで回復しスキルゲージも少し回復したので2体を倒す。浩史が狼の後ろ側にフラググレネードを投げて注意が逸れたら攻撃を開始して倒すつもりだったが狼の1体がフラググレネードを口でキャッチしやがった。チャンスなのでスロウを発動して、もう1体の近くまで弾幕を張って押し返すとフラググレネードが爆発して、もう1体も巻き込まれた。巻き込まれた狼は傷が徐々に塞がって行くので魔造弾で止めを刺した。
「お前達は鬼か!?」と大変怒っているし浩史も心做しか落ち込んでいる。
吸血鬼に言われたくはないが堪えて「近い内にまた来てもいいですか?」
「お前達はバンパイアロードの私が怖くないのか?」
「怖がった方がいいですか?」
「変わった奴だ、次からは客として持成そう。付いてまいれ」と石造りの屋敷に案内された。
「マサキ、相手は伝説のバンパイアロードだぞ!機嫌を損ねると殺されるから注意しろ!」とファビオが血の気のない顔で注意してきた。子供達を見るとみんな物凄く緊張している。
「フレイヤさんは、ここで何をしているのですか?」
「この森には私が出られない様に結界が張ってある」
「その結界が俺達を外に出さない様に働いているのですか?」
「それとは別に私が張った」
「今日中に帰りますので結界は解いて下さい」
「少し前に魔力の供給を絶ったから、いつでも帰れるぞ」
「女性らしく語尾は『です・ます』の方が好ましいですよ」
「本当に変わっておるな、それに人とは思えぬ程強い、何者じゃ」
「じゃ?」
「いや、何者なんだ」
「何者かは追々話しますが、狼はいつ頃出せる様になりますか?」
「4~5日後だな」
少し予定を思い出し「3日後に来てもいいですか?」
「良いが分身は出せん…出ない」
「3日後に書庫を拝見させて下さい」
「ああ、異世界の調べ物か、良い…です」
「では3日後に、フレイヤさんは何が食べられるのですか?」
「人の生き血だ」
「生き血ですか、血を吸われた人はバンパイアになりますか?」
「今の時代はその様に語り継がれているのか、血を吸われてもバンパイアにはならん。私の血を飲んで契約した者がバンパイアになる。グールは死人に私の血を掛けると変容する」
「量はどれぐらい必要なのですか?」
「コップ2杯程度を月に1回だな、後は普通の食事だ」
「ではどうぞ」と腕のアーマーを解除して差し出すとファビオ達が何か言いたそうにしている。
「良いのか?」
「死なないしグールにもならないのなら問題ないです、これからも頻繁に遊びに来ますのでお願いします。切ってコップに入れた方がいいですか?」と言うと肘の内側に噛み付かれ血を吸われた。痛くはないがくすぐったい。
「中々変わった味だな、それと血以外にも美味しい物は歓迎する」
「ではバナナと言う果物を持って来ます。遅くなりましたので今日はこれで失礼します」
「ではそこまで送ってやろう」とビーコンから3kmの所まで見送ってくれた。
「ここが私を閉じ込めている結界範囲だ、次から魔物達に出来るだけ襲わぬ様に言っておくが、頭が悪いのでどこまで効果があるのか、気を付けて来い」
「では3日後にお邪魔致しますのでお願いします」とフレイヤさんと別れて森を出る。
「兄貴!レベル82だ!!」と嬉しそうな浩史が拳を硬く握っている。
ゲーム設定では8レベル差までは経験値が貰えるので時間は掛かるがレベル96までは上げられるが、実際は86、良くて87までしか上げられない。4~5日に10体だと時間が掛かり過ぎる。俺達のレベルが低い分には経験値にプラスの補正が掛かり多くの経験値を貰えるが、高くなるとマイナス補正が掛かり9レベルで経験値が0になる。
「85まで上げてスキルポイントを取る。理想は同レベルの87までだな」5レベル毎にスキルポイントが貰えるので、最低でもそこまでは上げたい。
疲れ切っているファビオと子供達をハンヴィーに乗せ、浩史のバギーとグロスターへ戻る途中で今日の事を口止めしておく。
ファビオの鍛冶屋で、昨日の試した魔造鋼の配合を話すと3:7~4:6が魔造鋼の剣には最適の様だ。今度は3.2、3.4、3.6、3.8まで配合を変えた剣を作りデボラとロンに数日使わせて確認する事にした。それまでは3.5:6.5の配合で作成して注文を受けるそうだ。
「マサキ、バンパイアロードの事だが、相手は伝説の魔物だぞ。どうする気だ?」
「友好を築きたいです」
「友好って、魔物だぞ!」
「知能も高い、会話も出来る。しかもあの森から出れない!安全です」
「確かに森に行かなければ安全だが…、冒険者ギルドに報告した方がいいぞ」
「相手が裏切らない限り、こちらから裏切る事はありません。大体、伝説とは何ですか?」
「バンパイアロードは今から数百年前に1つの国を1人で滅ぼしたと言われている。聞いた事位あるだろ」
「そうですか。何かあれば俺と浩史で対応しますのでフレイヤさんの事は秘密にして下さい」
「うむ…、被害が出るまでは秘密にしよう。剣は明日の夕方には完成するので店に届けるか?」
「いえ、デボラとロンに取りに行かせます」と鍛冶屋を後にする。