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シェフの処方箋  作者: ソルファ
9/27

少女と表裏

本月の相変わらずの威勢の良さを内心喜びつつ、夕焼け空の下目的の場所へ向かう。

本月と会うのは数年ぶりだ。

少し前は今よりも身長が小さかった。

その時はまだあんなに生意気じゃない普通の少女だった。

たしか場所は殺し屋労働組合の本部だったかな。

そんなことを考えながら歩くこと2時間。

距離にしておよそ4キロほど。


着いたのは市街地のど真ん中に建つ立派なビルの1階にある美容室。

そこは業界最大手美容チェーン

”ザ ビューティーフル”。

この街に住む大半の人がここを利用している。

店名はダサいがそこには確かな腕と実績がある。

ただ1人を除いて。

それにしても相変わらずダサい名前だなと思いつつガラス張りの扉を開ける。


「いらっしゃいませ!」


まず店内に入ると、息の揃った美容師さんの声に出迎えられる。

ここは数回来たことがあるが

その時も素晴らしい対応だったのを覚えている。

まさに接客のスペシャリストといってふさわしいだろう。

ただ1人を除いて。


次に目に入るのが一際輝くシャンデリア。

一つ何千万円もするであろう代物に圧倒される。

その少し奥には口から綺麗な滝を作り出すマーライオンがある。

そして壁や天井は真っ白でその清潔感が心地よく、店全体がお客さんを楽しませようとしてるのがよくわかる。


俺が美容室評論家だったら間違いなく100点満点を付けるだろうと腕を組み、頷きながら確信する。



するとあたりが静まり返る。

次の瞬間……


「キャーキャー!」

「え! 本物? 本物の四つ星さん」

「信じられない!嘘」



日が暮れるまでには着きたいと

急いでいる内に変装が乱れきっていて完全に正体がバレていた。


気絶するお客さん。

よそ見をしている美容師さん。

客のヘアースタイルが凄いことになっている。


「そこ! パンチパーマになってるよ!そこもリーゼントになってる!」


手当たり次第に突っ込みまくる。

辺りが慌ただしいまま店員さんが尋ねてくる。


「いらっしゃいませ。本日はカットですか? 」

「いや今日はちょっと野暮用でして。戸小谷さんいますか?」


店中が再び静まり返る。

周りでヒソヒソと耳打ちをし出す。


「戸小谷ですか?」

「はい」


無理も無い。

戸小谷さんとはここザ ビューティフルの美容師で指名率は毎年最下位。

美容師と言うよりはむしろ雑用アシスタントとして働いている。

そのため滅多に店先には顔を出さない。

それが戸小谷さんだ。

俺と戸小谷さんは地球が3回壊滅しても出会うはずのない関係だと周りは思っているだろう。



「いやぁ……あの戸小谷さんとは母親の兄弟の子供の従兄弟の親戚の……そんな感じです」

「そ、そうなんですか……少々お待ちください」


顔が引きつる従業員。

程なくして奥から戸小谷さんが現れる。


「あ……はい……」

ボサボサの黒髪でやや大きめの黒縁メガネをかけていて少し猫背。

服は紺色のオーバーオールに黒い靴。俺たちに店中の視線が集まる。

そしてこの場のなんとも言えない空気が漂い始める。

時間がない焦りから、俺は戸小谷さんの腕を掴みドアの方に走る。


「少し戸小谷さん借りまーす!」


去り際に店員さんとお客さんのひそひそ話してるのがかすかに聞こた。

「あの2人出来てるの?」

「まさかねぇ」

「ないでしょー」


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