第十九話 上級冒険者来訪
「通してくれよ!」
「あ゛あ゛っ!? 俺が先だ!!」
「あっちが入り口だよね?」
「武器のレンタルはどこでできるんだ?」
「あちらの列にお並びください!」
「早くしろよ!!」
馬車の発着場はとても混み合っていた。
発着場だけではなくダンジョンの出入り口も行列が出来ており、シンディー達が必死に客を捌いている。
「なんとかなったね」
「一時はどうなるかと思ったが」
打った手が功を奏し、妨害工作前より冒険者は大幅に増えている。
今では宿が足りず、近くの町まで無料の臨時馬車を出してそちらに泊まってもらっているくらいだ。
「バザーも好評だね」
「ああ、ゲバーさんには感謝しないとな」
冒険者同士が物資を融通し合うバザー、これがなかなか好評なのだ。
ナリキン商会に所属している行商人や紹介を受けた行商人も多数訪れ、出店を多数出店している。
ダンジョン周辺は毎日がお祭り騒ぎと行った様相で活気にあふれていた。
「洞窟宿も人気だね」
「あ、ああ」
あまりの宿不足にダンジョンを拡張し宿としたのだが、これが思いの外人気を博したのだ。
何もしなくてもDPが勝手に入ってくる素敵オブジェクトだ。
いいのかこれでと思ってしまう。
「なぁ、あんた、喰われるところがあるって聞いたんだが」
「おうっ、こっちだ、出張サービスも有るぜ?」
「ゴクリ……」
悪い噂も今では逆転し、態々それを目当てに来る連中もいる。
流石ギルフォード、これからはあれ関係は全部任せることとしよう。
バレた時のベル達の怒りも含めて。
ちらりとメニューを見るとかなりの勢いでDPが増えていっている。
明るい未来に思いを馳せながら俺は珈琲に手を伸ばした。
「ん……?」
「ダンジョンで何かあったのかい?」
「え?」
「ほら、レオってダンジョン関係のことで悩んでると指をこう空中で動かす癖があるからさ」
一応隠しているつもりだったんだがバレバレだったか、まぁいいや。
「ああ、いや……、なんでもない」
メニューは俺にしか見えないから説明ができないのだが、いきなりDPの入手量がどかっと増えたのだ。
はて、なんだろうと思いながらメニューを操作して確認をすることにした。
……、は?
なんか一人で一日あたり四十DP貰えるやつがいるんだが、それも複数。
何だこれ。
普通一人一日十DP前後なのに。
「ああ、そういえば上級冒険者パーティーが来たらしいよ」
「それを早く言え!」
「ええ……」
マップ機能で確認すると赤い点が四つ確認できる。
……、赤?
他の冒険者連中は皆緑だが、彼らだけ何故か赤色だ。
「ちょっと竜牙さんのところ行ってくる」
そうアルに告げると俺は急ぎ最下層で冒険者を待ち受ける竜牙さんのもとへと走った。
「竜牙さん!」
「レオ君、敵ですね?」
「わかりますか」
「ええ、気配で」
「大丈夫ですか?」
「なかなか手強そうではありますが、まぁ問題ありませんよ」
「一応俺の方でも手は打ちますね」
「そうですか? たまには私にも出番がほしいのですが……」
残念そうにする竜牙さんには申し訳ないがそう簡単に突破されても困るんだよね。
それにせっかくだからどのくらい通用するのかみたい気持ちもある。
さて、パーティーの始まりだ。
◆◆◆
◆◆
◆
「へぇ、聞いていたより賑わってるじゃん」
「そうだな。まぁなんでもいい、早く仕事に取り掛かろう」
「レザドはマジメだねぇ? そんな急がなくてもダンジョンは逃げないって」
「お前、他の連中の弔い戦でもあるんだぞ……」
レザドと呼ばれた冒険者は指で眉間を抑えながら呆れたように首を横に振った。
「へいへい、わかってますよーっと」
「それにラーダス閣下から急ぐように言われている」
「ベルとか言ったっけ? 雌ガキ一匹に随分なご執心なこって」
「ブリッツさん、口が過ぎますよ」
「チッ、ラークもいい子ちゃんぶってんじゃねーぞ」
「そういうわけでは……」
ふむ、やはり奴の手の者か。
タイミングがあからさますぎるしな。
それにしてもフロア追加して外もダンジョン扱いにしておいてよかった。
これなら監視し放題だからな。
……、風呂とかは覗いてないぞ。
本当に。
「冒険者カードはお持ちですか?」
「冒険者カード? いや、ないが」
「それでしたらまず冒険者カードを発行しますのであちらの窓口へどうぞ」
「ああ、わかった」
「なんだよ、めんどくせぇなぁ」
「ほら、いくぞ」
「へいへい」
しばらく彼らの様子を窺っていたが、レベル測定と適正クラス診断はしないようだ。
それに復活の首飾りもバッグにそのまま突っ込みやがった。
DPからおおよそのレベルはわかるし、装備からクラスもだいたい分かるから俺には問題ないけど……。
首飾りはまずいんじゃないのか?
まぁいいや、どうせ敵だ。
「うーん、大丈夫かい?」
「ルーシー、心配はわかるが敵から渡されたアイテムを装備するよりかはマシだろう」
「そーそー、それに新しく出来たばっかりのダンジョンだぜ? 俺達からすれば朝飯前よ」
あ、ポーションの空き瓶を放り投げやがった。
おいおい、割れた瓶で誰かが怪我したらどうするんだ。
まったく、マナーは守って欲しいんだがなぁ。
「チェエエエストオオオオ!」
「なっ!? おい!? 俺達は人間っギャアアアア!!」
……、あいつら他の冒険者まで無差別で攻撃してやがる。
何考えているんだ。
「おっと間違えた、人間だったか」
「ちょっと……」
「弱すぎるのが悪いんだろうよ、弱い奴に生きる資格なんてねー」
「それには同意するがね、遊びは仕事が終わってからにしてくれ」
「はっ、目の前にある障害物をどかしたただけじゃねーか」
ちょっと調子に乗り過ぎじゃないか?
それに上層で高位の冒険者に暴れられるのは迷惑なんだよな。
しかたない、近くに階段作って早いところ下に行かせるか。
「お、階段みっけ」
「幸先がいいな、さっさと奥へ行くぞ」
「そういえばダンジョンコアは誰が破壊するだい?」
「前回はブリッツだったから、今回はルーシーかな」
おいおい、コア破壊する気かよ。
管理されているダンジョンコアの破壊はご法度なのに。
大方豚が守ってくれると思っているのだろうが、それは帰れてからの話だ。
首飾り無しなら初見殺しトラップで余裕だし、せいぜい俺の経験値となって消えてくれ。
「お、また人形モンスターだ」
「はぁ……、全くお前は……」
「へへっ、お宝ゲットだぜ!」
「別に本当に死ぬわけじゃないんだしいいんじゃないかい?」
「それはそうだがなぁ」
「まぁ本当に死ぬとしても殺っちゃうけどよ!」
ああ、もうっ!
仕方がない、あまりやりたくなかったがダンジョンの通路をいじって他の冒険者と接触しないようにしよう。
くそ、そうするとダンジョンが狭くなりすぎるな。
同じ階層にフロア追加して拡張せざるを得ないか。
ん……?
なんだこれ。
っと、今はそれどころじゃない。
ダンジョンの拡張に合わせてモンスターの姿を見せて誘導させてっと……。
「お! モンスターちゃんはっけーん!」
「今度は本物だな」
「あ! 待て! 逃げんな!?」
「モンスターが逃げるってはじめてみたなぁ」
「悠長なこと言ってるんじゃねー! 追うぞ!」
おー順調順調。
こいつら本当に上級冒険者かってくらいあっさり囮に喰いついてくれた。
中層まではさっさと進んでもらわないとな。
って、中層から底層まで全部拡張しなくちゃいけないじゃないか!
ああ、DPの無駄遣い……。
いや、冒険者増えてたしこれでいいんだ、きっと。
「はぁっ、はぁっ……」
「なんとか仕留めれたが、ここはどこだ?」
「途中何度か階段を降りたからねぇ、七階層ってところじゃないかい?」
「まぁ順調ではあるよね」
さてっと、それでは歓迎会を始めよう。
「ん、待て、なにか来る」
「この足音、オーガだな」
ここに来て漸く彼らは隊列を組み始めた。
斥候、盾、槍、魔法使いとなかなかバランスの良いパーティーだ。
腐っても上級冒険者、お手本と言える編成だろう。
それじゃその実力見せてもらいましょうか。
「GURAAAAAAA!!!!」
「おいおい、こいつら俺らと同じ編成かよ!?」
「油断するな! こいつらかなりヤるぞ!」
「わかってる!!」
オーガランサーの突きをブリッツが短剣でいなす。
そこへオーガガードナーがシールドバッシュを入れてブリッツを吹き飛ばした。
「SYAAAAAA!!!!」
「ぐあっ!?」
「モンスターが連携!? レザド! フォロー入って!」
「わかってる!」
オーガシーフの追撃はレザドに防がれる。
一瞬固まったオーガシーフの首に槍が突き刺さるとオーガシーフは光の粒子となって消えていった。
「まず一体! 次!」
「RUAAAAA!!」
「しまっ!?」
オーガランサーの槍がラークの槍を絡め取り跳ね上げる。
カランッカランッ……。
無情にもラークの手から槍は離れ、床に落ちた。
「ラーク下がれ!」
「すまん!」
「魔法行くわよ! ウィンドエッジ!!」
風の刃がオーガランサーを襲う。
が、それは土の壁に阻まれる。
「そんな!?」
「ルーシー! 落ち着け!」
「っ! わかってるわよ!!」
更に反撃で土の槍がルーシーの首を狙うがレザドに防がれた。
「くっ! 重い!!」
「ハァ!!」
「GULAAAA!!!」
いつの間にか復活していたブリッツが魔法を打って硬直しているオーガウィザードに襲いかかりその首を刈り取る。
「ブリッツ! 大丈夫か!?」
「くそがっ! 大丈夫な訳ねーだろうがよ!!」
「それだけ言えれば上等だ! 残り二体だ!」
「今度は防がせないよ!! ウィンドニードル!!」
「GRYUUUUAAAAA!!!」
オーガランサーの目に不可視の針が突き刺さり、そのまま中身をシェイク。
光の粒子を振りまきながら倒れるオーガランサーの影から飛び出したのは予備の槍に持ち替えたラークだった。
「最後はもらうよ!!」
オーガガードナーに向かって突きを連打する。
そのまま体力を削り取られオーガガードナーは膝を屈し、その頭に槍が突き立てられると光の粒子となって消えていった。
「やった……?」
「あ、ああ……。なんとかなったみたいだ……」
「よかった……」
「よくねえよ、まだ中層だろうが。しかもオーガごときにこんなに苦戦するとかありえねーだろ! 痛っ……」
「ブリッツ、大丈夫か?」
「チッ……、肋骨がやられた。ポーションくれ」
オーガ、レベル三十と結構強いんだけど、一人も取れないとは少し予想外だ。
流石は上級冒険者といったところかね。
「このダンジョンはやばいぞ……」
「ああ、モンスターが連携してくるなんてはじめてみたしね」
「一旦引いて体制を立て直そう。少なくとも今手持ちのアイテムだけでは困難だ」
「マナポーション持ってくればよかったわねぇ」
「クソがっ……、ぜってーぶっ潰してやる……」
四人は来た道を戻り始めたが、直後足を止めた。
「おい……、ここ、壁なんてあったか?」
「いや、なかったはずだ……」
「……。ルーシー、トレースルート使ってくれ」
「あいよ。……」
へー、そんな魔法あるのか。
見た感じ自分達の魔力の痕跡を見る魔法っぽいな。
「どうだ?」
「はは……」
「どうした?」
「来た道の反応、この壁の向こうに続いているわ」
「は……?」
「どういうことだ?」
「ダンジョンの構成が変わっている……」
ルーシーの言葉に他のメンバーは驚愕をその顔に浮かべた。
まぁ来た道がなくなってたらそりゃ驚くよね。
俺も普段はそんなことはしないけど、今回は特別だ。
「そんなバカな」
「ダンジョンの構成なんて早々変わるもんじゃないだろう。罠ならともかく道が変わったなんて出来たばかりのダンジョンである訳がない!」
「ある訳がないと言われてもね。実際そうなってるんだから」
「……」
「他の通路を探索しよう。来た道がなくても他の上り階段を使えばいいだけだ」
「ああ、そうだね……」
そういうと四人は上り階段を探して再び探索を開始したのだった。
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