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第54章 可憐な乙女の情

豊豊ちゃり大陸 のある 煙と雨 の漂う場所 に、神秘 な種族 が存在 していた――玄天族 である。

ただ一人 の猟師 が入った という が、そこ は世外の桃源郷 であり、山 は清く、水 は麗しく、日月 は明るく、戦争 も偽り もない という。

ここ は豊豊ちゃり大陸 で最後 の清らかな土地 だった。


今、この 道 とも言えぬ小径 を、一人 の疲れ切った影 がゆっくり と歩いてきた――紫煙 だった。

大陸 の依り代 を失った軍師 であり、人界 に珍しい 絶世 の妖姫 である。

家 に着いて も、彼女 の顔 の布 はまだ 外されず、黒い髪 には 水晶 のような露 がかかり、その神秘性 がさらに 妖艶 な魅力 を放って いた。


「誰だ! 」


林 の中 から一声 の軽い叫び が響き、幻影 が次々 と現れた。

一人 の紅い鎧 の少女 が紫煙 の前 に威風堂々 と現れた。

純美 な瞳、翡翠 のような鼻、秀麗 な絶世 の顔、香しい姿――冷たい気配 が全身 を覆って いたが、朝の霧 の中 に現れた その姿 は春の妖精 のように 美しかった。


紫煙 は媚びた瞳 から温かい笑み を浮かべ、そっと 面紗 を外した。

怒り も喜び も適 な顔 は紅潮 し、青春 の活力 を放って いた。

赤電帝国 の大軍 の中 で、いつも 寡黙 で黒いベール をつけていた軍師 が、こんな 可憐 で美しい美人 だとは 誰も 知らなかった。


「紫煙姉――帰ってきた のだね! よかった!

紫根(しこん)姉 に救い が来た ! 」


手 の銀槍 が閃き、消え、少女 は大きく 駆け寄って 紫煙 をきつく抱きしめた。

三年 ぶりの帰還 で、家 の温かさ を感じた。

もし族長 の厳命 がなければ、誰 もここ を離れたく はなかった。


しかしすべて の興奮 は、この小女 の言葉 にかき消された。


「紫根(しこん) はどうした の? 」


紫根(しこん) は彼女 の姉 であり、族長・紫香心(しかおしん) の娘 だった。

二人 は母 の絶世 の美貌 を継ぐ だけでなく、家族 の迷心術 も継ぎ、一族 では 珍しい霊者 であった。

特に姉 の霊術 は鋭く、彼女 が何か がある はずがない。


「紫根姉 も数日前 に戻ってきた の。任務失敗 で……

それに ……それに…… 」


「それに」 を何度 も繰り返し、恥ずかしくて 言えない。

紫煙 は焦り、急かした。


「海棠花――何 なの? 早く 言って ! 」


姉 の安否 が気がかり で、この小娘 に優しく している 暇はなかった。

海棠花(かいどうはな)は玄天族 の第一長老・海青(かいあお)の娘 である が、彼女 も遠慮 しなかった。


「紫根姉 は処女 を失った だけでなく、妊娠 している の…… 」


まさに 晴天 の霹靂 だった。

紫煙 の心 はその知らせ で打ちのめされ、帰還 の興奮 は消え去った。

姉 はどうして こんなに 愚かな のか?

たとえ 処女 を失って も、長老たち に証拠 を掴ませる わけにはいかない。

彼女 は慌てて 前 へ急いだ。


「紫煙姉――紫根姉 は玄宗堂 に閉じ込められて いて、三日後 に族規 で極刑 に処される の 」


紫煙 がうろたえる のを見て、海棠花 は親切 に場所 を教えた。

彼女 は幼い頃 から二人 の姉 と一緒 に育ち、母 が多忙 で彼女 を見られなかった ため、彼女 は二人 の姉 に育てられた のだった。

だから 実の姉 のよう に慕って いた。


三年 の歳月 が過ぎ、帰れば すべてが 変わって いたが、

紫煙 は姉・紫根 のやつれた姿 を見て、心 の中 で強く あろう として きた彼女 も悲しみ の涙 を流した。

姉 は一族 で最も 優秀 な者 だった が、今 はこんな 酷刑 を受けている――天理 はあまりに 不公 だった。


紫根 の顔 には 驚きもなく、大きな喜びもなく、ただ 優しい微笑み があった。

その口調 は穏やか で優しかった。


「紫煙――帰ってきた のね。死ぬ前 にもう一度 会える とは思わなかった。

天 は私 にまだ 情け をかけて くれた みたい 」


軽く 笑いながら、涙 を浮かべ たが、後悔 も罪悪感 もなかった。


「姉さん……どうして こんな こと になった の? 」


紫煙 の心 は砕けそう になった。

姉 の手 には 重い鉄鎖 が巻かれ、動くたび に音 がした。

彼女 は信じられなかった――姉 が自ら堕落 した者 である とは。

たとえ 愛する にしても、天を衝く男 を愛する はずだ。

こんな 苦しみ を一人 で背負う はずがない。


紫根 はそれほど 動揺 していなかった。

母 である族長 の足元 に跪き、すべて を認めた ときに、彼女 は後悔 しない と決めて いた。

あの男 に強引 に奪われた が、彼女 は彼 を恨んで はいなかった。少し も恨んで はいなかった。

もしできる のなら、お腹 の子 を産みたかった。


柔城 を離れ、心 を鎮める ために 大陸 をゆっくり と旅し、家 への道 を修行 の場 にして いた。

しかし世 の中 は本当 に不思議 であった――たった一夜 であの男 の子 を宿して しまったのだ。

彼女自身 でさえ 戸惑った。

家族 の清らかさ に向き合う とき、自分 の罪 が許されない ことを 知った。


「姉さん――あいつ は誰 だの? あの クソ野郎 は?

私 が行って ぶっ殺して やる! 」


紫煙 は歯を食いしばった――姉 は世 の中 で最も 尊敬する者 だった。

男 にこんな 辱め を受ける ことなど 許せない。


紫根 はすべて を見抜いて いた――罪 が許されない のなら、すべて はどうでもいい。

すべて の罪 は自分一人 が背負う。


「紫煙――彼 のせいじゃない。本当 に彼 のせいじゃない。

すべて は姉 の過ち。過ち を犯した のなら、罰 を受ける べきだ 」


玄天族 は神秘 である が、使命 と未来 も持って いた。

紫根 と紫煙 が大陸 に派遣 されたのは、霊者 の迷心術 で権力 を得て、玄天族 の存続 をより安全 にする ためだ。


しかし一人 の男 が二人 の計画 をすべて 狂わせた。

雲音奈 の失敗 で紫根 はすべて を失い、舞焔将軍 の失踪 と赤電帝国大軍 の壊滅 で紫煙 も三年 の功績 を失った。

二人 の任務 は失敗 に終わり、頼れる勢力 は見つからなかった。


姉 の言葉 に紫煙 は再び 気を失いそう になった――こんな 時 でも 姉 はあの男 のために 弁護 するのか?

大陸 の男 は皆 役立たず だと 知っている が、姉 の心 を動かす男 がいる とは思わなかった。

もし 心 が動かなければ、姉 は彼女 にも 隠して いるはず がない。


「死 に際し てなお 改心せず とは……

母 の情 も顧みず とも 言わせてもらう 」


鋭い気配 を纏い、一人 の花信風の若妻 のよう な尊い女 が静かに 現れた。

その後ろ には 二人 の髪 を高く結った中年女 が従う――玄天族 の二大長老 だった。


話 した のは 玄天族 の族長・紫香心 だった。

娘 がここ まで追い詰められ ても あの男 をかばう のを見て、心 は痛んだ。

母娘 の情 を無視 できない が、族長 として家族 の権威 と規律 を守らねばならない――一人 が従わなければ、皆 が従わない。


二人 の長老 のうち、背 の高い方 が一歩 前に出 て紫根 に言った。


「紫根――海青おばちゃん はお前 が小さい頃 から見てきた。

本当 にこんな ことを するのは 忍びない。

あの男 が誰 なのか 教えなさい。

おばちゃん がお前 のために 正義 を取り戻す。

もし お前 の望み でなければ、お前 のせい には しない 」


明らか に生存 のチャンス を示して いたが、紫根 は生きる ことを 望んで いなかった。

あの男 に身体 を奪われた 瞬間から、忠義 と愛情 は両立 しない ことを 知った。

家族 の重責 に向き合う とき、死 こそが 母 に対する 最高 の報い だった。


彼女 は思わなかった――自分 が男 に惑わされる とは。

その評判 は悪名高い 男に。

しかし誰 も知らない――愛の種 は土地 の痩せ にかかわらず 花 を咲かせる ことを。

むしろ 過酷 な環境 で生まれた愛の花 はより 輝く のだ。


「おばちゃん の気遣い ありがとう ございます。

紫根 はこの決心 を固めて います。すべて の罪 を負います 」


悔い はなかった――遠く の彼 は覚えて いない だろうが、あの一夕の極楽 の芙蓉の帳 で、彼女 は本当 に彼 のために 心 を動かした。


「ふん――大長老、無駄話 はやめろ。

玄天神 への祭祀 を準備 せよ。先祖 の霊力 で彼女 の罪 を清めよ 」


紫香心 は心 の中 で怒り、恨んで いたが、口 では 冷淡 に言った。

大勢 の前 で弱さ を見せる わけには いかなかった――たとえ あっても、うまく隠す のが 彼女 の使命 だった。


「母上――どうか 姉 をお許し ください! 」


「黙れ!

お前 も任務失敗 で重罪 だ。何 の権利 があって 彼女 のために 懇願 するのか?

この件 が終わったら、お前 の処分 も行う 」


激怒 した心 は娘 が恩 を知らない ことに さらに 燃え上がった。


紫香心 は背 を向け、二大長老 も続いた。

海青 だけが かすかなため息 を漏らした――その言葉 は族長 が娘 に与えた 最後 のチャンス だった。

しかし小娘 の頑固さ がその機会 を失わせた。


牢 には 再び 二人 だけが 残った。

静か に死 のよう に。

姉 を見て、紫煙 は本当 に敬服 した――

彼女 なら男 のために そんなこと はしない だろう。

なぜなら 本当 に愛する 気持ちが 分からない からだ。


「姉さん――本当 に妹 や母上 を置いて いけるの? 」


母 は厳しい が、娘 として その慈愛 を感じて いた。

紫煙 は誰 も失いたく はなかった。


「姉 もしたくない よ。

でも お腹の子 も姉 の家族 だ。

彼 を犠牲 にして 生きる よりも、共に死 ぬほう を選ぶ。

妹 のわがまま を許して……

母上 のこと、よろしく ね 」


母 のこと を言う ときに は初めて 感情 が動いた。

しかしその時 になって、母 の気持ち を本当 に理解 できた。


たとえ お腹の子 の父 が何者 でも、彼女 は彼 を愛して いなかった かもしれない が、子 は無実 だった。

だから 紫根 は母 の責任 を果たそう とした。


紫根 の言葉 を聞いて、紫煙 は姉 が子 を守ろう としている ことを 理解 した。

彼女 は知って いた――いずれ にせよ、妊娠 は家族 の恥 であり、容赦 はない ことを。

しかしどうやって 姉 とその子 を守る か、家族 の恥 を免れる かが 考えるべきこと だった。

ここ が地下牢 であること も忘れ、彼女 は深い考え に沈んだ。



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