自衛官、転移する
――耳鳴りがした。
次の瞬間、神代恒一は地面へ転がっていた。
「……っ!」
湿った土の匂い。
肌を撫でる生ぬるい風。
頭上では、見たこともないほど青い空が広がっている。
「ここは……どこだ?」
さっきまで演習場にいたはずだった。
陸上自衛隊としての訓練中、突然視界が白く染まり――記憶はそこまでしかない。
訓練中に気絶して夢でも見ているのだろうか。
そんなことを考えながら周囲を見回す。舗装道路はない。電柱もない。
そこは山の麓付近の丘だった。遠くには古都を想起させるような建造物や城が建っていた。
映画の撮影所……ではない。規模があまりにも大きすぎる。
そのときだった。
視界の中央に、青白い光が浮かぶ。
まるで空中にディスプレイが投影されたように。
《A.R.G.O.S. 起動》
戦闘支援システム A.R.G.O.S. Ver.1.00
こんにちは、ユーザー。
システムを起動しました。
言語調整を開始……完了しました。
これよりチュートリアルクエストを開始します。
「……は?」
恒一は思わず声を漏らした。
幻覚か。脳震盪でも起こしたのか。
彼はディスプレイを手で払うが素通りするだけで表示は消えない。
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【チュートリアルクエスト】
周囲の検索
報酬:20ポイント
失敗ペナルティ:なし
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「クエスト……? 夢の中でゲームかよ……」
思わず苦笑した。
だが、その笑みはすぐに消えることになる。
遠くから聞こえてきた悲鳴。
「誰か……! 助けっ、助けてっ!」
若い女性の声だった。
続いて馬のいななき。
数は複数で、男の怒声も聞こえてきた。
「えらいリアルな夢だな……」
夢だとわかっていたが、恒一は走り出していた。
理由なんて考えていない。身体が先に動いた。
林を抜けて、坂を駆け下りる。
すると開けた街道で、若い女性が必死に逃げていた。
水色の上品な着物は泥だらけ。走りにくそうによたよたと駆けている。
長い黒髪は乱れていたが、気品に溢れる時代劇の姫のようで絶世の美女と評しても過言ではないほどの美しさだった。
その後ろには刀を持った男が五人。
ボロボロの服で、いかにも盗賊といった様相だった。
「逃がすな! この姫で最後だ! 生け捕りにしろ!」
女性が石につまずくと、前のめりに転んだ。
男の一人が女性の髪の毛を掴み上げると怒鳴る。
「観念しろ!」
その瞬間。
恒一は地面を蹴った。
「なんだっ!?」
男の懐へ飛び込み、恒一の拳がみぞおちに突き刺さる。
「がっ……!」
男は脇腹を押さえながら悶え苦しみ、その場に崩れた。
残る四人が一気に恒一へと注意を向けた。
「何者だ!」
恒一は答えず、ただ相手の足運びを見る。
刀の握り、重心、全員、素人ではない。
やけにリアルだった。まるで本物の戦闘に慣れている者の動き。
相手は刀。本来なら近接戦闘は危険極まりないが、それでも間合いとタイミング読めば勝機はあった。
恒一は、相手が刀を振り上げた瞬間を狙い、集中力を高めて間合に入る準備をする。
斬撃を紙一重でかわすと、相手の手を包み込んで捻り、合気道の技、小手返しで相手を投げた。男は腕を軸として一回転して地面に叩きつけらた。
そして刀を取り上げると、相手に向けて構えた。
「いやっ!」
女性の悲鳴が上がる。恒一声のもとに目を向けると、男2人が彼女を引っ張っていた。
「近寄んなよ! お頭から味見さえしなけりゃ、腕一本くらいは落としてもいいって言われてんだ」
そう言って男は女性の腕を斬り落とすような素振りを見せる。
男達は恒一が近づかないように脅しながら、女性の腕を縛り馬に乗せた。
「死にたくなきゃしっかり掴んどけよ」
さらに奥には馬に乗せられた女性が2人いた。
1人は袴を着た剣術家のような女性、もう1人は褐色のみすぼらしい格好をした女性だった。
「てめえ、見ねえ顔だが畠山の武士か?」
賊は恒一に問うた。
「畠山の当主も死んだ! 後継も全員死んだ! もう諦めろ!」
その言葉に着物の女性は涙を流す。
「あとはお頭がこの姫様にガキ産ませりゃ、もう俺たちのもんだ!」
賊達は、姫と呼ばれる女性を舐めるように下劣な目で見つめる。
「無礼者!」
そう言って姫と呼ばれる女性は、顔を近づける賊の顔を平手打ちした。
彼女は涙を流しながら震えている。
男は綾姫の腕を掴み、馬へ引き上げた。
「ほぉ……さすが畠山の姫様だ」
乱れた水色の着物の奥からのぞく白いうなじ。
泥に汚れてなお失われない気品。
細い腰を乱暴に抱えられても、その瞳だけは強く賊を睨んでいた。
「この姫ァ、上玉だ、お頭が羨ましいなぁ!」
別の男が鼻で笑う。
「こっちの女も悪くねぇ」
袴姿の女は両手を縛られながらも背筋を崩さない。
長い黒髪を高く結い上げ、鋭い眼差しで賊を睨み返している。
白い道着の胸元は乱れ、激しく抵抗したせいか肩口が覗いていた。
「まぁだ俺を睨むか」
男が頬を掴むと、袴の女性はその顔へ迷わず唾を吐きつけた。
「……殺すぞ」
「はっ! さすがは武家の娘、気の強ぇ女だ!」
賊は顔にかけられた唾を指で拭いとると舐めとった。
さらに最後尾の馬。
みすぼらしい布を纏った褐色の女性が縄で縛られている。
痩せてはいるが、布越しにも分かる豊満な体つき。
ぼさぼさの黒色の癖毛と大きな瞳が異国を思わせる。
「異国の女なんざ初めて見た」
「肌はクルミみたいや色だな」
男が顎を持ち上げる。
褐色の女性は震えながら顔を逸らした。
「でけぇ乳だ。お頭も珍しいもん拾ったな」
「追ってこようだなんて考えんなよ!」
そう言って恒一に釘を刺すと賊は馬を走らせた。
一気にあたりは静まり返る。
隠れていたのか、いつのまにか村人達が出てきてコソコソと喋っている。
すると、宙に青い電子的な表示が現れた。
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チュートリアルクエスト達成。
周囲を散策した。
報酬:200ポイント
新機能「スキルツリー」解放。
未知の敵勢力を確認しました。
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緊急クエスト
〜姫達を救え〜
期限:24時間
報酬:500ポイント
失敗ペナルティ:死
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「死……?」




