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青春短歌〜言葉にできない気持ちを、私たちは三十一文字にする〜  作者: 老川
一年生二学期

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届いておくれ

 文化祭当日。私はクラスの出し物の担当で慌ただしい時間を過ごしていた。訪れるお客さんの対応をするのは大変だったし、以前なら誰かに任せて裏に引っ込んでしまっただろうが、今日は少し頑張ってみた。


 担当の時間以外には、まひると一緒に他のクラスを見て回った。一緒にお化け屋敷で悲鳴をあげたり、出店のたこ焼きを一緒につついたり。そんなことを自然にできることが嬉しかった。


 短歌部の展示コーナーにも一緒に行った。これまでに作った歌をまひるに見られるのは、やっぱり恥ずかしかったが、それ以上に、今の私のことをよく知ってほしいと思った。


「これがしずくの短歌?」


 まひるが展示の一角で立ち止まる。私の歌を展示したところだ。まひるとの喧嘩を経て、言葉にできるようになった気持ちを込めた歌も書いてある。


 –––––霧の中言葉探して辿り着く届いておくれこの思いよ


「うん、そうだよ…」


 まひるの反応が怖くて、目をそらしてしまいそうになる。二人の間の無言がやけに長く感じられる。


「しずく…」


 勇気を出してまひるの方へ顔を向ける。そこには目を輝かせたまひるの表情があった。


「とってもきれいだね!しずくがこんなに部活頑張ってること、知らなかったよ!」


 勢いのある、しかし優しいまひるの言葉に拍子抜けしてしまう。


「えっと…変とか思わなかった?」


「思わないよ。難しいことはわからないけど、一生懸命考えてるんだろうなってことはわかるもん!」


 肩の力が抜けたのが分かった。どうやら自分で思っていた以上に、まひるに歌を見られることに緊張していたらしい。


 一度は私の部活のせいで喧嘩をした。それなのにまひるは優しく私の言葉を受け入れてくれた。思いを言葉にすればきっと届く、そんなありきたりなフレーズが頭に思い浮かんだ。ありきたりだけれど、この胸の温かさは大事なものだと思えた。


 人の入りはそれほど良くない短歌部の展示の中で、一箇所だけ少し人だかりができている場所があった。確か、三上の歌を展示した場所だ。


 まひると一緒に人だかりの中の歌を覗き込む。そこには、三上の、部長としての、最後の一首が書かれていた。


 –––––おもしろき時は疾く過ぎにけり思ひ出どもといざ旅立ちぬ


 文化祭はクラスの出し物も短歌部の展示も無事に終わった。私はクラスメイトと距離が縮まったおかげもあって、楽しく文化祭を過ごすことができた。


「朝倉さんって短歌部なんだよね」


 クラスの打ち上げの最中、向かいに座る桐生に尋ねられた。一瞬、自分の心に小さな緊張が走るのが分かった。


「展示見たよ。ああいうのできるのすごいなーって」


「へえ、短歌部なんてあったんだ」


「私も見た!地味な展示だったけど、素敵だったよ」


 クラスメイトたちの肯定的な反応に心が弛んだ。私はずっと自分の言葉を伝えることを怖がっていたけれど、そんな必要はなかったのかもしれない。胸の中の霧が少しだけ晴れた気がした。

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