隣立つ
その日の放課後、文化祭準備が一段落した頃、私はまひるの元へ向かった。
「少しだけ、時間ある?」
短く告げるだけで精一杯だった。
クラスメイトたちが帰り、夕陽が差し込む教室にまひると二人で向かい立つ。まひるの顔に視線を向けても、そっと視線を避けられてしまう。二人の間に沈黙が落ちた。小さく息を整えた後に、必死に言葉を絞り出す。
「この間は、ごめんなさい…」
喉が張り付き、思うように声が出ない。足は震え、気を抜くと立っていられ無くなってしまいそうだった。逃げ出してしまいたいと思う気持ちを必死に押し留め、言葉を続ける。
「まひる。これ、読んでもらいたい…」
–––––隣立つ友のなき間にふと気づく彼女の照らす私の心
今日のために用意した便箋に、書き留めた私の気持ち。必死に絞り出した私の言葉。それをまひるに受け取って欲しかった。
まひるは私の差し出す手紙を受け取ってくれた。そこに書かれた文字を見て、少しこちらに視線を向ける。何か言いたそうに口を開いて閉じて。それを何度か繰り返してから、小さくため息をついた。
「…ほんと、不器用だよね」
そういって諦めたように小さく笑ってくれた。でもその目は夕陽のおかげか少し赤く見えた。
それから私たちは二人並んで教室を出た。最寄り駅までの並木道を足並みをそろえて歩いていく。二人で一緒に歩くのは久しぶりだった。
二人の間に会話はなかった。私たちの関係は全く元通りというわけでもないと思う。けれど、こうして時間をともに過ごせるだけで嬉しかった。
「…また明日の朝ね」
別れ際、まひるは小さな声でそう言った。今はそれだけで十分だった。




