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青春短歌〜言葉にできない気持ちを、私たちは三十一文字にする〜  作者: 老川
一年生二学期

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22/26

出ない言葉

 翌朝、登校のための待ち合わせ場所にまひるは姿を現さなかった。ぎりぎりまで待って遅刻寸前になりながら登校すると、教室にはすでにまひるの姿があった。声をかけ昨日のことを謝ろうと思うが、私が近づくと距離を取るように離れていってしまう。結局、朝のホームルームの始まりを告げる教師の声に阻まれて、私はまひると話をすることが出来なかった。


 クラスでは普段通りの授業と文化祭に向けた準備が進んでいた。私は相変わらず授業に集中しきれない日が続いていたが、その理由は以前とは変わっていた。


 まひるは私とのいざこざを感じさせることなく、クラスの中心になって文化祭への話し合いを元気に仕切っている。そんな彼女を羨ましく–––––恨めしさもあったかもしれない–––––眺めながら、盛り上がるクラスの話を聞き流していた。ふと、まひるがこちらに目を向け、一瞬彼女と目が合った。笑顔が一瞬顔に張り付くように固まった気がした。今何か伝えれば元に戻れるかもしれない。喉の奥で言葉が震えた。しかし、すぐに視線を逸らし、彼女は再び笑顔を浮かべると、話し合いに戻ってしまった。そんなまひるの反応に私の胸は激しく揺さぶられ、穴が空いてしまったような虚しさに襲われた。


 まひると思うように話ができない日が続くにつれて、私の中でのまひるの存在の大きさを感じるようになっていた。高校に入学して不安だった私に声をかけてくれたのもまひるだった。短歌部に入部する背中を押してくれたのもまひるだった。部活の話を嫌な顔せず聞いてくれたのもまひるだった。そのどれか一つでも欠けていたら、今の私はいなかったかもしれない。そんなことに今更気がついた。


 家に帰りスマホのメッセージアプリを立ち上げ、まひるのアイコンをタップする。最後の履歴はあの電話で止まっていた。謝らなければ、何か伝えなければと思い、指を動かすが、ありきたりで場当たり的な言葉しか出てこない。書いては消して、書いては消して。何も送ることが出来ないまま時間ばかりが経ってゆく。光が消えた暗い画面に映るのは、力なく、泣く寸前の子供のような自分の顔だった。


 気持ちを切り替えるために飲み物でも取ってこようと立ち上がったところで、カバンからはみ出た荷物が視界の端に映った。教科書に授業のノート、筆箱、それから部活で使っているノートだ。自分の歌や先輩からのアドバイスを書き連ねているノートを手に取る。そこには、いつも恥ずかしくて口に出せない、SNSにも書けない、自分の言葉があった。歓迎会で初めて詠んだ歌、見も知らぬ誰かへの嫉妬に突き動かされた歌、それにまひるが見せてくれた写真から読んだ歌もあった。


 これなら伝えられるかもしれない。そう思った。不器用で自分の気持ちを伝えることもできない私だけれど、短歌に頼ればまひるに心を伝えられそうな気がした。


「頑張ろう…」


 誰に聞かせるでもなく、自分に言い聞かせるように言葉を漏らす。これほどまでに誰かに言葉を届けたいと思ったのは、初めての経験だった。


 今度こそ、逃げずに怯えずに、向き合いたい。

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