夏祭りの夜
集合時間の少し前、私とひより先輩はロビーに来ていた。
「しずくちゃん、浴衣ばっちりだね」
私が着ている浴衣はひより先輩から借りたものだ。なんでも母親の趣味らしく、着物や浴衣が何着も家にあるらしい。私が着ているのもその中の一つで、水仙の花が描かれたものだ。ひよりは向日葵の花が描かれた夏らしい浴衣を身にまとっている。明るいひよりの雰囲気とよく合っていて、とても似合って見えた。
「待たせたかな?」
そこへ三上と藤原がやってきた。こちらも浴衣を身につけている。二人とも男性らしい落ち着いた色柄のものだ。
「いえ、時間ちょうどですよ」
「そうか。二人ともよく似合ってるな」
「ありがとうございます!哲平、こういうところ見習いなさいよ」
「うるさいな。…似合ってるよ」
「まあ、ありがと」
「ほら、じゃれあってないで、祭りに行くぞ」
先頭を切って宿から表に出る三上を三人で追いかける。気のせいかみんな足取りが軽かった。
浴衣を着ているのでいつもよりゆったりとしたペースだったが、十分も歩くと祭りの明かりが見えてきた。通りに沿って屋台が並んでいるようだ。
「あっ、もう始まってる!」
そう言って走り出そうとしたひよりの手を藤原が掴んだ。
「浴衣を着てるし、人も多いんだからあんまりはしゃぎすぎるなよ」
「分かってるよ、心配性だなー」
二人はそんなことを言いながらも仲良く先を歩いて行ってしまう。三上先輩と私は置いてけぼりをくらってしまった。
「まあ、二人で行かせてやるか…朝倉さんは何か見たい屋台はあるかい?俺で悪いけど、付き合うよ」
「…ありがとうございます。じゃあ、わたあめ食べたいです」
三上にエスコートしてもらいながら、屋台を見て回る。小さな夏祭りだが、出店も色々と出ているし、人出もそれなりにあった。そんな中、無言に耐えきれず、つい気になったことを聞いてしまう。
「あの、三上先輩…」
「なんだ?」
「藤原先輩って、ひより先輩のことが好きなんですか?」
三上は問いかけに対して一瞬眉をぴくりと動かすと、改めて顔をこちらに向けた。
「いつ気がついたんだ?」
「なんとなくそうかなって…さっきもひより先輩と一緒に行く藤原先輩、楽しそうな顔してましたし…」
右手で軽く頭をかいてから三上が答えてくれた。
「まあ、そうなんだ。あいつ分かりやすいからな。あっ、でも…」
そこで、わずかに真面目な表情をして三上が続けた。
「木暮には秘密だぞ。まだ本人にはバレてないらしいからな」
「分かりました。ひより先輩には内緒にしておきます」
そのまま屋台を見て歩いていると、祭りの締めとなる花火の時間がやってきた。三上と並んで花火を見上げていると、少し離れた場所にひよりと藤原が立っていることに気づいた。
二人はこちらに気づかずに静かに並んで花火を見上げていた。花火の打ち上がる音が響き、色とりどりの火花が夜空を照らす中、静かな二人の姿は絵になっていた。
良い歌というものが少し分かった気がした。




