エピローグ 我が愛しき娘たちへ
ベットに一人のおばあさんが寝ていました。
大晦日の夜です。
外は雪が降っていました。
おばあさんは心静かに自分の人生を振り返って見ました。
果たして上手くやれたのだろうか、と。
自分がやった事で死んでしまった人や不幸になった人がいました。
逆に、自分がやった事で助かった人や幸せになった人もいました。
比べたらどっちが多いのかしら。
おばあさんは数えてみようとしましたが答えは出ませんでした。
ペニシリンの発見は多くの人を救ったでしょう。一早い衛生医療の導入もそうです。
ハーバー・ボッシュ法やダイナマイトは微妙でした。
戦争回避や女性開放、人種差別問題は手に余りました。正直、上手くできたとは言えません。
きっと、後15年もすると世界を巻き込む大戦争が始まるでしょう。
なんとかして止めたいのですが、もうおばあさんには時間がありませんでした。
寿命なのです。
家族への挨拶は既に済ませていました。
後を託す人材も育てたつもりです。
無責任なようですが、後はその人達に任すしかないと割りきってもいました。
だから、今、おばあさんが悩んでいたのはマッチを擦ろうかどうかでした。
あの時、この世界に転移した時から大事に取っておいたマッチです。これを全て燃やしてしまえば、おばあさんのおばあさんが迎えに来てくれる筈です。
でも、おばあさんは本当に天国に行く資格が自分にあるのか自信がありませんでした。
おばあさんはもう一度、自分のせいで不幸になった人の数と幸せになった人の数はどちらが多いのだろうと考えて見ることにしました。
もしも幸せになった人の方が多そうならマッチを擦ろうと思ったのです。
しかし、どんなに考えてもやっぱり分かりません。おばあさんは、小さなため息をつくとマッチをそっとベットの脇に置きました。
マッチの力なんかには頼らず今までの自分の行いに審判を任せることにしたのです。
例え天国に行けなくても、おばあさんが迎えに来てくれなくても良いとおばあさんは思いました。
傍にいた看護師が心配そうにおばあさんの方を見ました。おばあさんは心配させまいと、ニッコリと笑って見せました。
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新年の朝
新聞の号外は発行された
号外は世界的富豪であり、発明家であった一人の女性の訃報を報じていた
その女性は世界規模の女性や子供に対する支援や人種差別撤廃の活動の中心的存在であり、彼女の死を世界中の人々が哀しんでいると記されていた
号外は彼女が最後に『おばあさん、来てくれたんだ』と言い、微笑みながら息を引き取ったと伝えていた
2018/01/15 初稿
2018/01/22 誤字修正。一部表現変更。
2018/12/25 おばあさんがマッチを擦らなかった事を明記する文章を追加
ようやく完結です。
最後までお付き合いいただきありがとうございます。
経済は元々、経世済民という四字熟語だったそうです。
本来はお金を稼ぐ事ではなく、世の中を経営して人々を救うのが経済の大目標なのだそうです。
題名の『彼女のため』とはマッチ売りの少女だけだはなく、その他の少女達も含め、皆が助かるといいねと言う願いを込めて書きました。