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第53話 始まりに過ぎなかった (第1部 最終話)

 読者の皆様はどんな風に朝を過ごしますか?

「ダンベル追加!」

強のように筋トレをする人。

「行け行け行けー!しゃあ!勝った!」

「くっそ~」

リゼとキンバのように友達とオンラインゲームをする人。

「ケ・・・」

「何か言ったか?」

「ああ、いや、良い天気だと思っての~。庭で空を見ながら、お茶を飲むのは最高じゃ」

「ああ」

不死長老とマンのように縁側でまったりティータイムをする者。

「新しい化粧品を試そう~」

「あら。昨日から使っている化粧水かなり良いわね。後で黒葉にも教えましょ」

黒葉と四葉のように肌のスキンケアをする者。

「今日はどんなのにしようかな・・・これ良いわね。やってみよう」

南のようにメイクが得意でありながらも、動画を見て調べて実践して更にメイクが上手くなって綺麗になる努力を重ねる者。

「今日は何を研究しようかしら」

ユミのように日々、科学を研究している者。いくつになっても勉強してる何て偉い。

「今月から新しいアニメか。チェックしなきゃ」

茅野のように好きなアニメを増やしていく者。

「うまぁ~い!」

メガネのように好き嫌いせずにパクパクいっぱい食べる者。健康的で良いことだな。

「これ良いな。和夜ちゃん、甘い物が好きだから。これを用意して家にまた呼ぼ」

イカ天のようにパソコンでネットサーフィンをしながら優雅にティーカップでお茶を飲む者。お茶・・・お茶はお茶でも和風と洋風で異なるが、微妙に不死長老達と被ってんじゃねぇよ。

「和夜ちゃん。いつもより起きるのが遅いな~・・・疲れてるだろうからしょうがないか」

騎士のように好きな人を想いながら料理をする者。

「体が動けん・・・まぁ、時間があるからいっか・・・良いべ良いべ」

和夜のように起きているが体を動かすのが面倒で取り合えずスマホを見ている者。

「スピー、スピー、スピー」

伸郎のようにリビングのソファーで寝る者。その近くで美智子のようにテレビで推理ドラマや海外ドラマを見る者。


 騎士は和夜が体調不良で起きれないのではないかと心配になったので、和夜の部屋のドアを軽くノックしてから静かに開ける。寝ているところを起こすのは申し訳ないからだ。だが、和夜はとっくに起きてはいるのでベットで寝っ転がりながら騎士の方を見る。

「おはよう」

「おはよう。起きてたんだね」

「うん。体が動かなくてさ~」

和夜は笑いながら答える。具合が悪い訳ではないことを知り、騎士は安心した。

「もし良ければで良いんだけど、午後の会議前に行きたい場所があるんだ」


 午後、いつもの幹部達による会議が始まる前、2人の女性の悲鳴が響いた。

「和夜さん達、急にどうしたんだよ」

「和夜ちゃん、顔色悪いよ?大丈夫?」

「和夜ちゃ~ん、また、お姫様抱っこで運んであげようか?」

「は?」

騎士はイカ天を睨む。和夜と黒葉はガタガタと震えて伸郎、騎士、イカ天に対しての質問に返答しない。騎士はイカ天の発言に殺意を向けるが、和夜が心配なため直ぐに和夜の方を心配そうに見つめる。リゼ、キンバ、強も悲鳴に驚き女性2人に聞く。

「黒葉さんも和夜姉さんも急にどうしたんだよ」

「そうっすよ~。ナンバー2の和夜先輩まで」

「本当にどうしたんだ?」

和夜は指1本をある場所へ指す。黒葉は和夜に抱き付いているが今回ばかりは和夜は役に立たないだろう。

「そこに・・・」

だが、1人の男以外は指している場所が分からなかった。

「あっ、蜘蛛か。和夜ちゃん、蜘蛛が1番に嫌いなんだもんね」

「そう!」

「今、取るから大丈夫だよ」

流石、騎士くんは和夜の理解者である。瞬時に近くにあったホウキとチリトリを使い、外へ逃がす。

「助かった~・・・ありがとう。騎士くん」

「騎士・・・今だけは感謝してあげるわ」

「和夜ちゃんのためだけにしただけだから」

和夜以外には塩対応の騎士であった。助けて貰ったとは言え、黒葉は内心、騎士にイラつく。伸郎がいつもの呑気なテンションでまた言う。

「蜘蛛?あんな小さいのに気づくなんて目が良いな~」

「そんな生き物が怖いのかい?私の細胞のお陰もあって更に強くなっているのに」

「虫は苦手なんだよ。特に蜘蛛は嫌いなんだ。生理的に受け付けないんだよ・・・強いとかは関係ない!」

「ふふふ」

「この・・・覚えてろ」

イカ天に馬鹿にするように笑われ、悔しがる和夜であった。

「黒葉さんは分かりますが、和夜姉さんまで悲鳴あげなくても」

「そうですよ。虫1匹であんな悲鳴あげないでくださいよ~」

「まぁ、2人共・・・人にはどうしても苦手な物があるんだから、そう言うな」

優しい強は和夜を庇い、リゼとキンバに話す。

「つよっしーは優しいな」

和夜は強の優しさに癒される。だが、発言には気を付けなさい。後ろの騎士が怖い。強は軽くビビる。

「今の蜘蛛がまさにそうっすけど、別に人間に害はないんすよ?」

キンバが蜘蛛の説明をする。

「分かっているけど、どうしても駄目なんだよ。見た目がどうしても苦手だ」

「ええ、虫が平気な貴方達には分からないでしょうけど・・・天敵、いや、宿敵なのよ。私達にとって虫は」

和夜に合わせて黒葉も言う。

「黒葉さんが言うなら~」

リゼとキンバは黒葉にデレデレである。若干、強もデレている。和夜は悲しくも心の中で、お前等ー・・・と呆れていた。可愛い子は本当に得である。

「そうか~・・・和夜ちゃんはトマトだけじゃなく、虫も苦手なのか~」

馬鹿にしたように言うイカ天にただただイライラを募らせる和夜であった。

「おい、イカ・・・」

騎士がイカに声を掛ける。和夜にとって心強い助っ人である。

「騎士くん。イカ天になら何しても良いよ。サンドバックにしちゃって」

待ってました!と和夜は内心しめしめと思っていた。

「そんなことしか知らないの?和夜ちゃんは辛い物は苦手だし、コーヒーや紅茶も苦手なんだよ」

「それ位、私も知っている」

「後はにんにくも嫌いだし」

「ストッープ!人の苦手な物を何ペラペラと、味方かと思わせて敵なんかい!?」

「俺は絶対に和夜ちゃんの味方だよ。このイカは和夜ちゃんのことを何も分かってない、知らないことが多いから俺の方が知っていると示したんだよ」

「・・・ああ、そうかい」

騎士のズレた行動に和夜は力が抜け、イライラはすっかり消えた。

「辛い物は辛いからうまいのに~」

「口の中が耐えられないのよ」

「にんにくもうまいのに~」

「臭いに耐えられん」

伸郎の呑気な発言に和夜はだるそうに答える。


 虫を追い出し落ち着いたところで、それぞれ席に着く。そこで、イカ天があることに気付く。

「ちょっと和夜ちゃん。何で私のあげたイヤリング。今日は片方しかしてないのかな?」

「あっ、えっと・・・騎士くんにもイヤリングを貰って・・・せっかくだから片方ずつ付けたんだ」

イカ天の圧が怖かったので目を少し泳がせながらも和夜は答える。

「・・・納得が行かないな~」

「どれを付けるかは和夜ちゃんの自由だよ」

正直、騎士も自分のあげた物を片方しか付けて貰えないことに不満はあったが表には出さない。

「まぁ、お守りの効果はあるか・・・片方だけでも良いから付けてね?」

「うん。分かった」

和夜の右耳にはイカ天から貰った物、左耳には騎士から貰ったイヤリングを身に付けていた。新しく付けたイヤリングはナイトに見える形をしたイヤリングだった。ちなみに、騎士の耳にもイヤリングはつけている。それは月や星の形をしており、和やかな夜を連想させる物だった。


 まだ会議室に来ていなかった1人の人物が顔を出す。

「すまんすまん。つい、のんびりして遅れてしまった」

不死長老の登場で全員は笑顔になり、いつもの会議を始める。


 会議が終わり和夜は帰ろうとしていたところ、黒葉に声を掛けられる。

「和夜。今日、皆で食事会するのよ」

「へぇー」

「へぇーじゃないわよ」

「ん?・・・うわっ」

騎士は和夜を丁寧にお米様抱っこする。イカ天は今回は自分が和夜を持てなかったので少し残念そうにしていた。和夜は突然の出来事に焦る。

「騎士くん、ちょっと!何、急に」

「騎士、和夜が逃げないように頼んだわよ」

「言われなくても逃がさないよ」

「逃げないよ!っていうか逃げるって何!?」

「ふふふ、焦ってて面白いね~」

「そこ!イカリングにするぞ!」

「お~、怖い」

和夜が一方的にイカ天にバチバチした視線を送る場面を見た伸郎や強、リゼ、キンバは笑っていた。

「和夜ちゃんも食事会に一緒に行こう」

「そうよ。和夜も行くわよ」

「えっ、私も?」

恐る恐る強、リゼ、キンバの3人を和夜は見る。

「俺達のせいで、今までは本当に申し訳なかった。良ければ是非、いらして下さい」

「強さんの言う通り、今までのことは悪い・・・出来れば、和夜姉さんと仲良く食事したいです」

「俺もすみません・・・和夜先輩、行きましょう」

今度は伸郎の方を和夜は見る。グッジョブサインをしていた。

「飯がうまいぜ」

「うん・・・そうだね。皆、ありがとう」

安心した表情に和夜は変わる。黒葉が言う。

「大人数が苦手って言ってたけど、皆がワイワイ楽しそうにしているのを見るのは好きなんでしょ」

「・・・良くぞ見破った」

「格好つけてるのかい?その体制で?ふふふ」

「イカリング・・・」

イカ天だけには怒りを向ける和夜だった。騎士は丁寧に和夜を降ろす。

「・・・騎士くん・・・こんなことしなくても逃げないよ」

「一応ね」

後ろから抱き締められて足が宙に浮く和夜であった。まぁ、お米様抱っこよりはマシだし、歩かなくて楽だから良いか、となるべくポジティブに考える和夜であった。皆、食事会前にある場所へ向かう。


 マンは不死長老の綺麗な庭の見える部屋でお茶を飲みながらスケッチブックにイラストを描いていた。伸郎をモデルに漫画を描いているのだ。そこで、あることを思い出す。

「そろそろ、あれをもっとちゃんとした場所にしまわないとな・・・」

部屋のタンスからノートのような物を取り出し、テーブルに置く。これは、この漫画世界でキャラ設定をする場合に使用する物である。例えば、騎士と書かれたページに『運命の人とは離れない』と記載し、そのキャラに合致すれば、その通りになる。まるで名簿のような物だ。

「1度、書いたことは消せないからな~。念のため金庫でも買って、それに入れるか~」

パラパラとノートをめくりながら独り言を言っていた。

「・・・こんなレイアウトだったか?何かちょっとだけ変わったような・・・まさかな」

「マンせんせー!」

和夜に呼ばれたマンはノートを閉じて、タンスにしまってから皆に会いに行った。強、リゼ、キンバ達にも姿は現しても良いことになっているので安心して下さい。


 食事会は今までで1番、楽しいものとなった。皆の大切な思い出となるだろう。


 食事会の一部始終をお送りしよう。飲み会ではないが成人組だけはお酒を飲んでいる者も居た。和夜は久々にお店でお酒を飲むことにした。

「ふふふ。酔ってるね」

「和夜ちゃん、さっき頭をぶつけそうになったから気を付けてね」

「そんな酔ってないよー。ぶつけてないよー」

フラフラしている訳ではないがお酒で酔っている和夜であった。リゼも笑って言う。

「和夜姉さん、最初から2杯同時に頼むからっすよ」

「そりゃ、チェイサーは大事だからね」

「ジュースはなりませんって」

最初のオーダーからカシスオレンジと一緒にジュースも頼んでチェイサーにしていたのだ。ジュースの様に甘い物しか飲めない和夜であった。

「伸郎さんは焼酎もビールも飲めて、お酒に強いんですね」

「うまいからな~」

「次は何を頼みます?」

「とりあえず焼酎とビールかな。後、からあげとラーメンも」

伸郎は和夜の居る食事会が嬉しいのか、いつも以上に飲み食いをしている。家に帰って、お腹がピーピーならないと良いが、強が隣で気を使っているから大丈夫かな。

「リゼ、足元に何か落ちてるよ」

「あっ、トランプだな。昨日、親戚の子供の面倒を見た時にやったんだよ。ポケットに入れっぱなしだったな」

「せっかくだしババ抜きとかでもしない?」

「別に良いけど」

酒を飲んだり、食事を食べたりしながらカードゲームもしたのであった。

「和夜さん、さっきのゲームは得意だったのにババ抜きはそんなに上手くないな」

「ババ抜きは専門外だ・・・」

和夜はババ抜きではない別のトランプゲームで大勝利をしていたのだ。

「ババ抜きでは勝ってやるぜ!そこだ!」

「うっ」

「よし!揃った!」

リゼにババを引かせるつもりがなかなかババを引いてくれず残念そうな和夜であった。パチンコで勝つ運を持っている和夜だが、ババ抜きではトランプの答えが顔に諸に出てしまい負けるのであった。


 食事会が終わり、解散となったが

「新しく出来たゲームセンターにでも行かね?」

とリゼの一声から行くことになった。まだまだ終わらないぜ。

「わしはお先に失礼するよ。皆、これからもよろしくな。気を付けて帰るんだよ」

「私も失礼するわ。遅い時間だし」

不死長老と四葉以外はゲームセンターへ向かった。

「ゲームセンター何て久々だな~」

「そうなんですか。実は俺は初めてです」

伸郎と強は久々のゲームセンターをウロウロして見ている。

「キンバ、いつものあのゲームでもやろうぜ」

「やるか」

リゼとキンバのしているゲームは昔ながらの格闘技ゲームだった。

「見て和夜。このぬいぐるみ可愛い」

「可愛いね。イケメンの推しもどこかに居ないかな~」

UFOキャッチャーを和夜、騎士、黒葉、イカ天が見ていた。和夜はリゼとキンバが格闘技ゲームをしていることに気づき見に行く。

「おお、こういうのはあまりやったことないけど面白そう」

「和夜ちゃん。まだ空いてる所があるし、やってみたら」

「騎士くん、一緒にやろう」

和夜と騎士はリゼとキンバがやっているゲームを行う。

「騎士くん、ゲームでも強いね~」

「そんなことないよ」

「和夜、適当にボタン操作してるでしょ」

「バレた?こういうのは好きだけど苦手だから適当に押してる」

キャッキャっと楽しく皆、過ごしている。

「ふふふ、いつも以上に笑ってるね。そりゃ、お酒に強くない人がカルアミルク3杯、飲んでたからね」

「えっ、違うよ。2杯しか飲んでないよ」

「数えていたけど2杯だったよ」

「イカ天も酔ってるんじゃないの?」

「私は飲んでも直ぐに体内で分解されるから酔わないんだ」

「へぇー・・・でも、私は3杯も飲んでないはずだよ」

「ふふふ、飲んでたよ」

いつも以上にジトっとした目でイカ天を見る和夜はある物を見つけ、思いっきり指を指す。

「イカ天、これで勝負しろ。お前に対して日頃の恨みもあるし、今からイカリングにしてやる」

和夜が指を刺した方をイカ天は見る。

「良いよ~。私も結構、早い方だと思うよ?」

格闘技ゲームの勝負を和夜はイカ天に申し込んだ。それは、普通の格闘技ゲームとコントローラーが異なり、キーボードとなっている。画面に表示される文字をタイピングして成功させると次々と相手に攻撃をすることが出来るのである。勿論、騎士と黒葉は和夜を応援する。

「和夜ちゃんなら勝てるよ。イカには絶対に」

「勝ってね!恨みが何かは分からないけど、ちゃんと晴らすのよ!内容は聞かないでおくわ!」

「任せとけ!イカリングにしてやる!」

「ふふふ・・・って誰も私を援しないんだね」

イカ天は人間になったばかりの頃、パソコンで調べ物をしていることが多かったのでタイピングには慣れていた。しかし、和夜が勝った。宣言通りにイカ天をボコボコである。見ていたリゼが声を出す。

「早っ・・・」

「へへーん。ここに来る前の世界で頑張って鍛えたからね~」

「ここに来る前?の世界?」

学生時代のあの時は大変だったな~、慣れないパソコンを練習してブラインドタッチを出来るようになって、それだけじゃなく夜中まで資格の勉強をしたこともあったな~、簿記2級とかFP2級とか、私の頭には難しくて厳しかったけど何だかんだ運良く1発で受かったから良かったよ、先生ありがとう、と心の中で恩師に感謝しながら思い出に浸っていた。

「和夜姉さん、ここの世界に来る前って何すか?」

「え?・・・はっ・・・」

和夜は焦る。冷や汗をかき、目を泳がせている。もう完全に酔いが覚めている。

「冗談だよー・・・学生時代に鍛えた話をしただけだよー」

「お前はアホか」

マンがしれっと現れ、和夜が更に焦って驚く。

「別にコイツ等にもバレて良い」

「良かった・・・ありがとうございます。すみません」

伸郎、和夜、美智子の3人は漫画世界に来たことの話は結局、幹部全員にバレた。


 ゲームセンターで遊んだ後に全員は解散をして、それぞれの家に帰る。リゼ達は後ろめたい気持ちから振り返り、騎士と一緒に帰る和夜の後ろ姿を一瞬だけ見て真っ直ぐ、家に帰るのであった。


 和夜と騎士は勿論、2人で帰る。騎士が2人きりになったところで言う。

「帰るついでに公園でも見に行く?」

「良いね」

2人の思い出の公園に向かう。その2人の後ろ姿をどこか寂しそうに高みの見物をしている人物が居た。

「喉が渇いてしまった」

「俺が買って来るよ。いつもので良い?」

「悪いよ」

「良いんだよ」

公園にあるベンチに和夜を座らせた騎士は近くの自販機に向かう。和夜はチラッと後ろを振り返る。


 2人を高みの見物をしている人物は勿論、この人達である。

「隙がないな~」

「おい、何さっきから覗いてんだよ」

「それは君もだろ?」

イカ天とマンが高い建物の屋上から気配を消して見ていたのである。

「な~にしてんの?」

2人は驚き、声のする方に振り返ると和夜が居た。

「お前、いつの間に」

「バレてた?」

「普通にバレるだろ」

騎士が自販機に行っている間に高みの見物をしている2人の元へ移動したのである。かなり前から気付いており、何か企んでいるのかと伺う。

「何かあったの?」

「い、いや!何でもない!またな!」

「そうですか?では、また」

「私もそろそろ帰るよ。君達と違って1人でね」

「またね」

そう言った和夜は騎士が戻って来る前にベンチに座って何事もなかった顔をしている。

「和夜ちゃん。はい、いつもの」

「ありがとう」

チラッと騎士は建物の屋上に目を向け、既にイカ天とマンが居なくなっていることを確認する。


 会議も食事会も終わり、不死長老とマンはお互い部屋の中で向かい合ってお茶を飲んでいた。不死長老はマンが帰って来るまでお茶とお茶菓子を用意して待っていたのだ。

「伸郎くんが来てくれて本当に良かった」

「俺が選んだ人間だからな」

「・・・そうじゃの。ただ伸郎くんが居るうちに黒幕まで追い詰めることが出来れば、未来が変えられれば良いんじゃが・・・」

「未来が変わるかは分からんが、この世界の主人公はアイツだ」

マンはお茶を飲み干す。

「例え何百年という月日が経とうが黒幕を追い詰めるのはアイツであることに変わりはない。俺の目に狂いはないんだからな」

自信があるマンの言葉に不死長老は笑顔になった。

「・・・わしもそう思う。伸郎くんなら、信じられる」

「後・・・」

「どうしたんだい?マンくん」

「物語の悪役の呼び方は黒幕というより、ラスボスじゃないか?俺達が追い詰めるべき怪化薬の犯人であり、この漫画世界の最後の敵だろ?」

「確かに、そうじゃの」


 食事会を終えた伸郎は家に帰った。美智子は家事を終わらせて伸郎と一緒にリビングに居てテレビを見ている。

「あの日から2年以上?は経ったわよね・・・ラスボスまで行けそう?」

「いや~、まだ尻尾すら掴めていない。どこに居るんだよ・・・」

「100年以上も跡を追っている方がいる位ですものね」

「せっかく俺が主人公として来たなら未来を変えないとな~。じゃないと200年以上も先になっちまう。その頃には俺達はこの世界でとっくに死んでるよ」

「そうね。未来を変えれれば良いけど・・・まぁ・・・どっちにしても良いんじゃない?」

「は?」

「貴方1人でこの世界に来た訳じゃないんだし」

「・・・家族全員一緒だもんな」

伸郎はビールを飲み干し、焼酎の準備をする。

「エンプティー」

「はいはい」

美智子は伸郎が焼酎を注ごうと立ったのを良いことに自分の分もお願いをするためにコップを渡す。

「家族一緒だから別に元の世界に戻れなくても良いけどよ。俺が主人公なんだから主人公らしく最後まで戦って終わらせてやるぜ」

「そう、頑張ってね」

「おう!任せとけっ」


 彼らはまだ知らない。彼らが思っている以上に怪化薬の犯人を追い詰めるまで、彼らの望む漫画世界の最終回まで、長い戦いになることを。

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