第22話 任務後
ほとんどの幹部達が初である任務を終えた次の日、全員また会議室に集まった。不死長老が言った。
「無事に皆、任務を終えたようじゃの。初めての者達が多かったが上手く行って良かった。昨日、話をした時に気になった情報を伝えてくれたのは和夜くんのみだったの。紫だらけの男だっけかの?」
「はい。髪もスーツも紫でイカみたいな男でした」
「イカ?なんだそりゃ」
和夜の発言に伸郎は不思議に思った。
「別に誰かに危害を加えてる人ではなさそうで悪い人ではないと思いますが、私達と同じ目的であそこに居たのが気になりまして」
「あれじゃねぇか?イカイケメン」
「イカ・・・イケメン?」
変な名前、と思いながらリゼの言ったことに和夜は答えた。
「知らねぇのかよ。結構、有名だぜ?単独で活動しているヒーローだ。顔も整っていて俺達みたいに悪い奴を倒しているから女性ファンも多い。イケメンヒーローはうちの怪力イケメンの騎士さんも負けてないがな。あっ、伸郎さんもトップヒーローでファンが多いっす!」
伸郎の鼻が高くなり、堀の深めな顔が更に深く見える。
「悪い人じゃないなら安心したよ。教えてくれてありがとうございます」
リゼは和夜が感謝したことに対して鼻で笑った。
「イケメンで強いヒーロー。うちにも欲しいわね。イカイケメンは前から狙ってたけど会えたことがないのよね」
黒葉が目をキラッとさせて言った。
「へぇー、そんな有名人に会っちゃったのか」
「悪い奴じゃなくて安心したのぉ」
「はい。むしろラッキーでした」
伸郎と騎士は少し面白くなさそうな顔をしていた。
任務の報告が終わると次々と席を立ち会議室から出て行く。黒葉はリゼとキンバに捕まり座ったままだった。強は会話に入ってはいないが黒葉の近くに居座っていた。可愛い子は羨ましいなぁ、と和夜は思いながら通り過ぎる。騎士と一緒にそのまま帰るのだ。その際にリゼの指に切り傷があることに気付いた。和夜は乾燥肌で指がよく切れるため絆創膏を常備していたが、リゼが怖いので渡す勇気はなかった。また男に媚びてると言われても嫌だしな、と思い少しだけ罪悪感を抱きながらも帰ろうと会議室を出た。廊下を歩いていると後ろから声が聞こえた。
「和夜ー!ついでに騎士ー」
「ついでとか言わないであげて黒葉ちゃん」
後ろから黒葉が追いかけて来た。
「今日、幹部の皆で打ち上げをするみたいなの。まぁアイツ等も居るけど・・・私も一緒だから行かない?」
「打ち上げかー。私はいいや。人数多いのは得意じゃないし」
「そう・・・」
黒葉は残念そうに答えるが、しょうがないかと諦める。
「じゃあ今度2人きりでお茶でもしましょ!」
「うん。良いね」
「俺も打ち上げはいいや」
「えっ・・・騎士くんは行った方が良いんじゃ」
和夜は騎士を見て答えた。
「騎士くんはリゼさんやキンバさんと年も近いし、人気者は顔を出さないと。私は気にせず行って来なよ。大人数が苦手なだけだからさ」
「和夜ちゃんが行かないなら、俺もいいや」
「多分、騎士くんが行かないと私が行かせなかったとか言われるかもだし、ゆっくり楽しんでおいで」
「そんな・・・」
騎士を置いて和夜は帰ろうとしたが思い出したことがあり振り返る。
「黒葉ちゃん。お願いがあるんだけどリゼさんに渡しておいて欲しい」
絆創膏を黒葉に手渡した。
「私だって言わないで渡してね。またねー。騎士くん、ちゃんと行けよー」
和夜は2人に手を振る。
「ちょっ、和夜ちゃん、待って!」
「ビューン!ササササササササっ」
逃げ足は速い和夜であった。
伸郎と不死長老はマンも呼び3人だけで話をしていた。絆慈との戦いのことだ。この話はとりあえず他の者にはしないことになったのだ。
「まさか未来から来るとは・・・しかも、その時もまだ怪化薬はある。何年先から来たと言っていたかね?」
「それが聞き逃し」
「何だと!?何やってんだ!」
マンが伸郎の話を遮って怒る。
「まだ話をしてる途中だろ!最後まで聞け!・・・ソイツの持っている娘と思われる写真には年代が書かれていて、今から200年以上先だった。そして、残念なことにソイツは怪化薬について詳しいことは分からないと言っていた」
「そうか・・・いや、まだ分からん」
2人はマンを見た。
「何度も言うが、お前はこの世界の最強キャラ、主人公なんだ。絶対にお前が蹴りをつけることが出来る、いやそういう設定のはずなんだ」
「どっちにしろ。俺はやれることはやるつもりだ。未来は変わるかもしれないからな」
和夜は寮に真っすぐ帰るのは止めて建物の探検をしようとぶらぶら歩いてた。不死長老に資料室とか自由に出入りして良いと言われたことを思い出したからだ。廊下で何人かすれ違い緊張しながらも挨拶をするが、冷たい目をする者しかいない。酷い時は挨拶が返って来ず、睨まれることもある。自分を良く思っていない人が多いんだと痛感した。落ち込みながら帰ろうとすると科学室から何人かの女性が出て来た。
「お疲れ様です・・・って、南ちゃん!?茅野ちゃんとメガネまで!何でここに?」
「実は私達、ここでアルバイトすることになったの」
「アルバイト!ここってアルバイトも雇ってたのか・・・えっ!?戦うの!?」
「戦わないわよ」
南が笑いながら答えた。茅野が説明をした。
「私達は科学室で皆の武器とかを作るお手伝いをするの。まぁメインで作るのはユミさんだから私達はちょっとしたお手伝いだけだけど」
「どうもーエンジェル!ユミです!」
とても元気溌剌とした白衣の若い女性が立っていた。
「私は松石和夜です。宜しくお願いします」
「宜しくね!」
和夜はこの人は私に明るく挨拶してくれるんだと感動した。
「もし何か作って欲しい物があったら遠慮なく言ってね。和夜ちゃんは幹部リーダー補佐役だから優先して作っちゃう!」
「ありがとうございます」
笑った後に和夜はお礼を言った。
「そうだ。せっかくだから遊んで行ってよ」
ユミは科学室に和夜を案内する。色んな薬品や武器があった。メガネが言った。
「ユミさんから面白いゲームを貰って遊ぼうとしてたんだけど和夜もやろうよ」
「おおー、良いねぇって!アルバイト!アルバイト中でしょ!?」
驚きながら和夜は聞いた。
「実は今日はもうやることが終わったから遊べるんだ」
「おお。終わってたのか。お疲れさん」
「一緒にやろうよー、やろうよー、ねぇ、やろうよー、やろうよー、ねぇ」
「分かったから、いちいちベタベタ微妙に触れるんじゃない!」
ユミは科学室でまだ仕事があったので4人はメガネの家に行く。そこでユミから貰ったゲームをすることにした。
「探偵ゲームかー。面白そうだな。推理苦手なんだけど大丈夫かな」
「皆で協力するから大丈夫よ」
和夜が友達とゲームをしていた頃に騎士達は打ち上げをしていた。未成年が多いので勿論、明るい時間帯に行う。場所は居酒屋じゃないが居酒屋みたいな雰囲気の店だった。メンバーは騎士、黒葉、不死長老、伸郎、四葉、リゼ、キンバ、強、強の舎弟達だった。ガンバも誘おうかと一瞬だけ話は出たが結局、誘うのを忘れてガンバは不在となった。不死長老は黒葉へ言った。
「和夜くんは来なかったか・・・」
「ええ・・・」
伸郎は周りをキョロキョロしていた。
「あれ?和夜さんがいない」
「お父さん、和夜ちゃんは不在です・・・」
「えっ、そうか・・・って!誰がお父さんだ!」
何も知らない男であった。リゼ達は黒葉にまたまた夢中だった。黒葉がリゼの顔を見て思い出した。
「そうだ。はい。これ」
「黒葉さん・・・俺はこんな傷くらい大丈夫なのに・・・嬉しいです!ありがとうございます」
「私じゃないわよ。ある優しい女性から渡して欲しいと頼まれただけ」
「女性!?誰ですか?黒葉先輩」
「口止めされてるから言えないわ」
全員、誰か分からず不思議に思った。とりあえずリゼは絆創膏は付けずに大事そうに制服の胸ポケットに入れる。その絆創膏は付けている人があまり見ない変わったデザインの物だった。
「・・・和夜ちゃんが居ないとやっぱりつまらないなぁ」
「騎士さん!炭酸飲めます?俺、騎士さんのグラスに注いで良いっすか?」
和夜達が探偵ゲームをして数時間が経つ。和夜はうとうとしながら机で寝ていた。ガチ寝だ。南は眠そうな顔をしてスマホを見ていたと思えば和夜みたいに眠っていることもあった。茅野は推理が得意なためずっと考えていた。メガネはただ頑張っていた。
幹部達の打ち上げが終わりメンバーそれぞれ家に帰宅する。リゼは帰宅後に風呂に入り、上がるとタオルを首に巻きながら自分の部屋の椅子に座る。そして、黒葉から貰った絆創膏を手に取った。
「黒葉さんから貰ったけど黒葉さんからじゃないって、誰からだ?柄も変わってて、変な切り込みも入っているし」
独り言を言いながら不思議そうに絆創膏を色んな角度から眺めていた。誰だか分からないが自分に絆創膏を渡してくれる親切な女性がいるのは嬉しかった。
打ち上げが終った後の騎士は急いで寮へ帰る。予定より長引き遅くなったからだ。寮に入ると和夜が居ないので少し心配になり連絡をした。その頃、和夜達は探偵ゲームで結末を迎えていた。
「いやー、終わったねー。難しかったわ」
和夜は1番ぐでっとしていた。
「茅野が居て助かったよ!」
「メガネは分からないなりに頑張ってたもんね」
「うるせーうるせー」
茅野はメガネをからかっていた。南があることに気付く。
「和夜。何かスマホ鳴ってない?」
「本当だ」
和夜はスマホを手に取り確認する。
「騎士くんから何か来てるな・・・帰って来たのか・・・やべっ!皆と遊んでるって連絡してなかった!」
「ちゃんとしてあげなよー」
和夜は騎士に謝罪しメガネの家に居ることを伝えた。探偵ゲームはとても時間がかかり20時を超えていた。近くのレストランで夕食を食べたら、和夜が3人の女友達を家まで送る。寮までの通り道だからだ。年下なんだし、ちゃんと成人した自分が責任を持って送り届けないとな、という使命感もあった。成人していても若い女性が夜道を1人で歩くんじゃないと思う方もいらっしゃるだろうが和夜は気にしない。実は和夜のスマホには騎士から迎えに行くから帰りの時間を教えてね、と連絡が来ている。しかし、和夜は女友達とおしゃべりに夢中で連絡が来ていることに気付いていない。
南は和夜と別れた後に振り返る。
「いくら年上でも夜道はやっぱり心配ね。でも騎士くんと連絡してるなら途中で合流するのよね。きっと。騎士くんが居るなら心配ないか」
ちゃんと騎士が迎えに来る約束をしているのだろうと女友達3人は思い込み、勘違いをしていた。
3人の女友達を送り届けた和夜はそそくさと寮へ帰る。
「ただいまー」
「おかえり・・・1人で歩いて帰って来たの?」
「うん。最後に南ちゃんを送ってからは1人だったな」
答えた後、一瞬ゾッとして騎士を見る。良かった、怒ってないね、うんうん、と和夜は安心した。
「夜道は危ないから今度は連絡してね。迎えに行くから」
「うん・・・うん?いや年下の君が言うことじゃな・・・」
和夜は言いかけたことを止めた。爽やかな笑顔の無言の圧力が怖かったのだ。




