表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第二章 異人の歌姫 ――雷氷の邂逅編――
47/287

第四十七話 ここにはいない彼女

 シュウは病室で目を覚ました。どうやら個室に寝かされているようだ。


「いって……。何日寝ていたんだ、俺は」


 身体を起こすと、リンが自分の膝の上で寝ている姿が見える。徹夜で付き添ってくれていたのかもしれない。


 窓から外を見ると、快晴である。今日も暑そうだった。照りつける日差しにうんざりしていると、病室の扉がノックされた。シュウの返事を待たず、入ってきたのはランである。


「やっほー。しゅうちん。目が覚めたんだね」


「お師匠! 俺は何日寝ていたんだ?」


 ランはベッドの横のスツールに腰を下ろした。そして長い足を組む。


「三日だよ。普通人なら致命傷だったけど、あんたはもう一週間入院すれば退院できるってさ。タフで良かったね」


 ランは「きゃはは」と笑った。そしてシュウの頭を撫でる。


「本当に……あんたが無事で良かった。お姉さんはほっとしたよ、まったく」


 シュウは照れ笑いを浮かべた。


「お師匠、リンはずっとここにいたのか?」


 そう言い膝の上のリンを指差した。リンはまだ目を覚まさない。ランは苦笑いをして答える。


「うん、ずっとだね。凄かったんだから、取り乱し方が。『兄さんが死んだら私も死ぬー!』って。トラウマになっても知らないよ、私は」


 シュウは優しくリンの頭を撫でた。


「あ、チェンは無事か?」


「元気だよ。さっきまでここにいたけど、あの子も忙しいからね。後でお礼を言っておきなさい」


「そうか……」


 シュウはもう一度外を見た。雲一つない青空が視界に入る。ぽっかりと胸に穴が開いたような……何もない空である。適度に雲があった方が良いと、今日のシュウは思った。


「ああ、そうだ。ギフターの二人は生きてるのか? 南とフィオナだっけ。あいつらには俺が直接借りを返したいんだけど」


 ランは肩をすくめて答える。


「誰かさんが殺すなって言うから見逃したわよ。瀕死だったから生きているか分からないけど」


「そうか……」


「あんたは死にかけたのよ。ゆっくり休みなさい」


 そう言うとランは席を立ち、そっとシュウを抱きしめる。ふわっと香る香水がシュウの脳を麻痺させた。心地よい沈黙が流れた。


「……師匠。あの?」


「……うん?」


 シュウは一呼吸置いて――知りたかったことを聞いた。


「……シャーロットさん……は?」


 ランはシュウを抱きしめたまま答えた。


「……いないね。もう……ここには」


 数秒の沈黙後、シュウは言った。


「そう……か。もういないん……ですね」


 シュウはランに身体を預けたまま動かない。


「……」


「師匠……。俺……守れなかったよ」


 涙声のシュウを抱きしめたままランはこう答えた。


「一緒に背負ってやるって言ったでしょう。……あんたはよくやったよ」


 シュウはランの腕の中で、静かに泣いている。ただただ悲しかった。真っ青な空のように、シュウの心には何も無かった。


――リンは寝たふりをしながら、二人の会話を聞いていた。


 いつも強い兄が泣いている現実にショックを受けていた。兄に優しい声を掛けたいという感情を必死に抑えていた。今は眠り続けることが優しさだと思いながら――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ