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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第二章 異人の歌姫 ――雷氷の邂逅編――
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第三十六話 俺は彼女を放っておけない

 結局、シャーロットは警察に被害届を出さなかった。彼女は笑顔で「別に何もされませんでしたから」と言った。変態メガネ――白石武彦がストーカーで間違いないようだが、当の本人は正気を失っていて話にならない。これでは責任能力を問われ不起訴になる可能性が高い。


 シャーロットは白石の症状は薬物の精神障害だと言っていた。確かに東銀に数多いるヤク中に似ている。シュウはそのような輩を見慣れていた。


 地下室でシュウに救われたシャーロットはニッコリ笑ってこう言った。


「あのー、警察とか困るので帰りませんか? どこかで夕ご飯食べに行きましょう♪」


 シュウ、リン、チェンは顔を見合わせた。異人アイドルの「カリス」がスキャンダルを嫌うのは理解できた。皆で話し合って出した結論は、正気を失った白石をそのまま放置し、救急車を呼ぶことであった。薬物事件に巻き込まれたくはなかったし、廃墟なので監視カメラもない。救急車が来る前に、その場を離れた方が良いと判断したのだ。


「なんつーか、のほほんとしているのか大物なのか……シャーロットさんはぶっ飛んだところがあるよなぁー。ラブホの時もそうだったけど」


 ストーカー事件から一週間が経過していた。シュウは便利屋の受付で欠伸をしながら記憶を反芻する。


 東銀では異人喫茶での抗争が発端となり、龍尾と龍王の小競り合いが頻発している。事件はネットニューで取り上げられ、連日騒がれている。シュウやシャーロットも現場に居合わせていたが、自分たちの名前が掲載されることはなかった。その場にいた者は警察や協会に何も語らなかったのだろう。


 当事者の龍尾のシンユーや、龍王の後藤がどうなったかは分からない。異人喫茶オーナーの八神は先日見掛けたが、怪我らしい怪我はしていなかった。店内は順半壊には届かない程度の被害を受けたが、既に営業しているようだ。


「ま、ストーカー撃退してお金貰ったし、一件落着ってやつかなぁ。へへ、高いパーカーでも買うかな!」


 既にシャーロットから報酬を貰っている。億万長者である彼女は気前よく払ってくれた。リンが目をキラキラさせて喜ぶ姿をシュウは苦笑いしながら見ていた。


――しかし、謎が全て解明されたわけではない。


 龍王の後藤は明らかにシャーロットへ殺意を向けていた。シュウを無視してでも彼女を殺そうとしたのである。これはおかしい。白石の依頼はあくまでもシャーロットの拉致であった。


(てか、龍王ってバカだしな。考えるだけ無駄だぜ。やーめたっと)


 龍王は龍尾と比べると過激な武闘派だ。移民や難民が多く在籍し、多国籍組織になっている。暴走する奴がいてもおかしくはない。チンピラは意味不明なことをしたり言ったりするものだ。夜露死苦(よろしく)とか愛羅武勇(アイラブユー)とか鬼魔愚零(きまぐれ)とか。理解できるはずがない。(アホか!)そう結論づけた。


「シュウさん! どうぞ」


 腕を組んで唸っているところにシャーロットがアイスコーヒーを運んできた。気が利く理想の彼女……シュウはそのように妄想したが、すぐに邪念を払った。


「あ……さんきゅ」


「いえいえ♪」


 シャーロットは嬉しそうにシュウの横に座る。そう、事件は解決したがシャーロットはまだ金蚊の上の賃貸に住んでいるのである。龍尾と龍王の抗争が起きそうな今、すぐに帰してしまって大丈夫だろうかという不安が残るし、本人の希望もあって護衛期間を一週間延長しているのだ。


 そしてシャーロットの悪夢は続いているようであった。事件解決後も、うなされる夜があり、そのたびにシュウは部屋へ駆けつけた。――俺は彼女を放っておけない。ちらっと視線を送ると、シャーロットは姿勢良くカウンターに座っていた。その横顔に影はない。


「……シュウさん。私、カリスを引退して、一般人に戻ろうかな。未練もないですし」


 それを聞いてシュウは思わずアイスコーヒーを吹き出しそうになった。


「ええ! そ、それはファンが悲しむだろ!」


 狼狽するシュウを見て、シャーロットは可笑しそうに笑い、「ふふ。冗談です」と舌を出す。シュウとシャーロットは端から見ると仲良さそうにじゃれ合っているように見える。その様子をリンは後ろから見ていた。


(兄さん、楽しそう……でも)


 胸中にはシャーロットへの嫉妬と兄への心配が半分ずつあった。リンは本能的に感じているのである。――まだ事件は終わっていない……と。

【参照】

うなされるシャーロット→第二十五話 月夜の告白

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