第二十九話 デート大作戦
シュウとシャーロットは並んで東銀を歩いていた。これはストーカーをおびき寄せる疑似デートである。リンとシャーロットが丸一日顔をつき合わせて何やらプランを練っていたが、ランチを食べた後に異能ミュージカルを観るという無難な内容になった。
シュウは年上の女性を相手に緊張していた。どのようにエスコートをすれば良いのか分からない。するとシュウの視線に気が付いたシャーロットが、にこっと笑いかけてきた。
「え? ああ! トイレとか行く? シャーロットさん」
シュウの発言にシャーロットは一瞬きょとんとして、すぐに笑った。
「もう、シュウさんったら。さっき事務所で行きましたよー。本当に可愛いですね!」
可愛いと言われてしまった。シュウは照れを誤魔化すように咳をする。
「あのー、シュウさん。腕組みませんか? 恋人なんですから」
「え、えぇ! そ、そうか。そうっすね」
シャーロットは「嬉しい!」と言い、ぴたっと身体を密着させてきた。とても良い香りがする。全く女性に慣れていないシュウには刺激が強すぎる。周囲の視線が気になって仕方がない。これでは突然の襲撃に対処できないかもしれない。……が、振りほどくことができなかった。悲しい男のサガである。
「そうだ。お守りは持ってきたか?」
「はい、昨日貰ったお守りですよね。持っていますよー」
シャーロットにはGPS入りのお守りを渡している。万が一、はぐれた時の保険だった。
ミュージカルを観劇した後、シュウとシャーロットはストーカーの存在を忘れ、純粋にデートを楽しんでいた。談笑しながら、少し洒落たケヤキ並木を歩いて行く。余裕が出てきてシュウは周囲に気を配った。
(さて……複数人に尾行されているな)
このまま裏道に入って犯人を叩きのめしたい感情を抑える。気が急く自分を自覚していた。入念に準備をしてきた分、逸るが解せないこともある。何故複数なのか。ストーカーは単独犯ではないのだろうか。
「……私と一緒で疲れましたか?」
急に無口になったシュウに不安を覚えたのか、シャーロットが不安そうに聞いてくる。シュウは慌てて答えた。
「いや、そんなことはねぇよ!」
シャーロットはじっとシュウを見ると、遠慮がちだった笑顔が真剣な表情に変わっていく。
「シュウさん。私に嘘はつかないでください。何かあったのですね?」
いつになく険しい雰囲気のシャーロットを見て、シュウは誤魔化さない方が良いと判断した。小声で答える。
「……実は尾行されている。ストーカーかもしれねーな」
「え?」
「どこかに入りたい。相手の正体が分からないからな」
これまでも複数人の視線は感じたが、あくまでもストーカーはその中の一人だと思っていた。しかし、今日は複数人の気配をずっと感じる。こいつらはチームで追ってきている。当初の想定と違った。
「じゃあ、シュウさん。そちらに入りますか?」
シャーロットは顔を赤くしながら白い指を差した。
「は……ええ!?」
その建物はホテルであった。いわゆる、その用途のホテルである。シュウはずっこけそうになるのを堪えた。
「私……シュウさんとなら良いですよ。その……入っても」
シャーロットはシュウの目を見ながら、ぎゅっと手を握ってくる。その身体が小刻みに震えていた。それはストーカーの恐怖か、ホテルに入ることを緊張しているのか。この思い切りの良さが異人の歌姫として芸能界で成功する秘訣だろうか。シュウには分からなかった。
「ごめん! 俺、無理っす! か、彼女とかいたことねーし? てか未成年だし!」
正直、無様な返答だった。しかし、どうやらシャーロットに嘘は通用しないらしい。シュウは正直に言葉を選んだ。
「そ、それに、この場合は不特定多数の人間がいる場所の方が良い。飲食店とかデパートとか、人目がある方が犯人が手を出しづらいから!」
シャーロットはシュウの顔をじっと見詰め、「はい」と頷いた。
(こういう時は……あそこだな)
シュウとシャーロットは異人喫茶へ向かった。




