表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第二章 異人の歌姫 ――雷氷の邂逅編――
28/287

第二十八話 デート大作戦

 シュウとシャーロットは並んで東銀を歩いていた。これはストーカーをおびき寄せる疑似デートである。


(任務とはいえ、こんな美人とデートするとは。何を話せば良いんだ?)


 シュウは年上の女性を相手に緊張していた。どのようにエスコートをすれば良いのか分からない。その時、シュウの視線に気が付いたシャーロットが、にこっと笑いかけてきた。


「え? ああ! トイレとか行きます? シャーロットさん」


 シュウの発言にシャーロットは一瞬きょとんとして、すぐに笑った。


「もう、シュウさんったら。さっき事務所で行きましたよー。本当に可愛いですね!」


 可愛いと言われてしまった。シュウは照れて鼻の頭を掻く。


「あのー、シュウさん。腕組みませんか? 恋人なんですから」


「え、えぇ! そ、そうっすね! はい」


 シャーロットは「嬉しい!」と言い、ぴたっと身体を密着させてきた。とても良い香りがする。全く女性に慣れていないシュウには刺激が強すぎる。周囲の視線が気になって仕方がない。これでは突然の襲撃に対処できないかもしれない。……が、振りほどくことができなかった。悲しい男のサガである。


「そうだ。お守りは持ってきましたか?」


 シュウは緊張を悟られないように話を振った。


「はい、昨日貰ったお守りですよね。持っていますよー」


 シャーロットにはGPS入りのお守りを渡している。万が一、はぐれた時の保険だ。それを使う場面は無いかもしれないが、念のためである。



 ◆



 二人はイタリアンでランチを食べ、その足で異能ミュージカルを鑑賞した。シュウとシャーロットはストーカーの存在を忘れ、純粋にデートを楽しんでいた。談笑しながら、少し洒落たケヤキ並木を歩いて行く。余裕が出てきてシュウは周囲に気を配った。


(さて……複数人に尾行されているな。シャーロットさんは気が付いていない)


 このまま裏道に入って犯人を叩きのめしたい感情を抑える。気が急く自分を自覚していた。入念に準備をしてきた分、(はや)るが解せないこともある。何故複数なのか。ストーカーは単独犯ではないのだろうか。


「……私と一緒で疲れましたか?」


 急に無口になったシュウに不安を覚えたのか、シャーロットが上目遣いで聞いてくる。シュウは慌てて答えた。


「いや、そんなことはないですよ! 大丈夫です」


 シャーロットはじっとシュウを見詰める。何かを視るように……。遠慮がちな笑顔から真剣な表情に変わっていく。


「シュウさん。私に嘘はつかないでください。何かあったのですね?」


 いつになく険しい表情のシャーロットを見て、シュウは誤魔化さない方が良いと判断した。小声で答える。


「態度に表さないでください。実は尾行されています。ストーカーかもしれませんね」


「え?」


 シュウはシャーロットの腰に手を回し、少し歩く速度を速めた。突然のスキンシップにシャーロットは頬を染めて照れている。


「どこかに入りたいですね。相手の正体が分からない以上、ここはやり過ごしたい」


 これまでも複数人の視線は感じたが、あくまでもストーカーはその中の一人だと思っていた。しかし、今日は複数人の気配をずっと感じる。こいつらはチームで追ってきているようだ。当初の想定と違う。シュウの第六感が歩みを速めているのである。


「じゃあ、シュウさん。そちらに入りますか?」


 シャーロットは顔を赤くしながら白い指を差した。


「は……ええ!?」


 その建物はホテルであった。いわゆる、その用途のホテルである。シュウはずっこけそうになるのを堪えた。顔が真っ赤になっている。未成年のシュウには刺激が強い。


「私……シュウさんとなら良いですよ。その……入っても」


 シャーロットはシュウの目を見ながら、ぎゅっと手を握ってくる。彼女の身体が小刻みに震えている。それはストーカーの恐怖か、ホテルに入ることを緊張しているのか、シュウには分からない。


 それにしても自分の身に危険が迫っている可能性があるのに、大胆な女性だとは思う。この思い切りの良さが、異人の歌姫として芸能界で成功する秘訣だろうか。


「す、すいません! 俺こういうの慣れていなくて。彼女とかいたことないし!」


 どうやら彼女に嘘は通用しないらしい。下手に誤魔化すと信用を失ってしまう。シュウは正直に言葉を紡選んだ。


「そ、それに、この場合は不特定多数の人間がいる場所の方が良い。飲食店とかデパートとか、人目がある方が良いです。犯人が手を出しづらいですから!」


 シャーロットはシュウの顔をじっと見詰め、「はい」と頷いた。


(こういう時は……あそこだな)


 シュウとシャーロットは異人喫茶へ向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ