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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第二章 異人の歌姫 ――雷氷の邂逅編――
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第十三話 密航ブローカーの子供

 そこは河川敷だった。周囲は荒れ地と畑、森や低山に囲まれている。荒川第一難民キャンプやホームレス村が近い。異人組織や魔物のダーカーがうろついていると言われており治安は悪かった。


「ああ、分かってるよ。でもストレンジャー五人はキツいって。二人くらいにまけてくれよ、吉田さん」


 十歳ほどの子供が荒れ地の真ん中で電話をしている。情報屋のチェンだ。いつもは人懐っこい表情を浮かべているが今日のチェンは不機嫌そうだ。


「そりゃ難民キャンプにはレアな異能持ってる異人がいるかもしれないけどさ、協会や騎士団の支部が入ってるから厳しいってば!」


 チェンは情報屋の傍ら密航ブローカーを兼任していた。異人組織へ戦力になるストレンジャーを斡旋するのだ。今回は同業の吉田に依頼されていた。


「キャンプ近くの工場? ああ、マキシムラインね。あそこは無登録難民雇ってるから可能性あるか……。分かったよ、行ってみる」


 チェンはスマホを切ると舌打ちをした。



 ◆



 マキシムラインの事務所は二階建てでお世辞にも奇麗とは言えない。壁際には大量のパレットが積まれており、それらが事務所の入り口の半分を塞いでいた。


 工場内は修羅場であった。人気歌手カリスのグッズの梱包作業に追われているのだ。大量に積まれたトレーディングカードやアバターのフィギュア、Tシャツを検品しセット組みしていく。


 社長の内山は創業三十年の会社の二代目である。ボサボサの茶髪で、程よく恰幅が良い。目には濃いクマがあり、疲れた表情をしている。チェンは事務所に入ると明るく挨拶をした。


「内山社長! 久しぶりー」


「ああ……チェンくんですか。どうも」


「最近、腕の立つストレンジャーいませんかね。五人くらい」


「そう都合よくいませんよ。うちにいる異人はちょっと遠くの物を動かすとか、マナを使って力持ちとか、たまにポルターガイストを起こすとか。そんなもんですから」


「そりゃ残念」


「冷やかしなら帰ってくださいよ。こう見えても忙しいのです。カリスの人気が止まらないから。まあお上のお墨付きですからね。お陰でうちも潤っていますが」


「潤っていますか……。確かに儲かっていそうですね。良いスポンサーでもつきましたか?」


「……別に。普通ですけど」


 内山の素っ気ない返答にチェンはにんまりと笑った。


「まあ、今日は帰ります。ところで社長、あの荷物は何ですか?」


 チェンは事務所の隅に積まれた段ボール箱を指差した。それらの段ボールだけ厳重に管理されているようだ。カゴ車に積まれ、ラップで巻かれている。


「カリスのトレーディングカードですよ。中にはレアものもありますから。強盗対策です。この辺りの治安は氷川辺りと比べると悪いですからね」


「ふーん、なんかダークマナの気配を感じるんだけどなぁ。あのトレカからね」


「……!」


 内山の表情が険しくなる。ダークマナは中毒性があり協会の規制対象となっている。チェンは含みのある笑みを浮かべた。内山が溜息をつく。


「これは独り言ですが……難民キャンプに化け物みたいに強い子供がいるみたいですよ。紛争地出身の難民でS級ギフター以上のストレンジャーだとか。ま、噂ですけどね」


「なるほど。行ってみます」


「……これは取引ですよ。ご内密にお願いします」


 外に出ると、倉庫前で昼飯を食べる難民の姿が見える。内山の話が本当なら異人も混ざっているのだろう。談笑をしている姿から考察するに、労働環境は悪くないらしい。このような最果ての工場でも誰かの居場所になっている現実がある。


(マキシムラインの裏に反社異人組織がいるのは間違いない。それが従業員の笑顔を守るためだとしたら泣けてくるね)


 この案件をクリアしないと自分の身も危ない。チェンは難民キャンプの方へ足を向けた。

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