菫の里帰り⑧ 異母兄弟
「兄者お久しゅうございます!」
レガルドの異母弟にして次期州主の鈴之助が広間へとやって来た。
「おお鈴之助、久しいな」
この二人、互いに母は違えど兄と弟として啀み合う事なく共に成長してきた。
偏に鈴之助がレガルドを兄として尊敬し、そんな鈴之助をレガルドも可愛がっていたからこそ変な軋轢を生じる事がなかったのだ。
二人の異母兄である嫡男はレガルドの事を異人の血が混ざった半端ものと蔑み、青い瞳を忌諱していた。
そして彼の無尽蔵な異能の力(魔力量)と類稀なる剣武の才を妬み、何かと目の敵にしていたのだった。
まぁレガルドはレガルドで嫡男の事を、能無し鼻垂れ野郎と盛大に罵っていたが。
兄弟喧嘩にも大人の代役を立てるような卑劣な子供だった李亥家の嫡男。
大人ならば遠慮はいらねぇなとレガルドは後ろに隠れた嫡男ごとコテンパンに吹き飛ばしていたという。
そんなレガルドを鈴之助は「あにじゃしゅごい!」と言ってキラキラと尊敬の眼差しを向けていたのだった。
素直で真っ直ぐで上の者も下の者も分け隔てなく耳を傾けて話を聞ける鈴之助の性分を得難いものと考えていたレガルドは、いずれは鈴之助が家督を継ぐようにひと肌脱ごうとは考えていたようだ。
それが弓削家の一件で前倒しになった、という裏話がある。
兎にも角にもレガルドは二つ歳の離れた異母弟が結構好きだったりするのだ。
「兄者が帰って来ていると聞き、急ぎ視察先から戻って参りました」
「慌てさせて悪かったな鈴。親父どのに代わり、立派に東和を治めているようじゃねぇか。さすがは俺の弟だ」
「っ~~~……!」
「鈴?」
「兄者に褒められたっ……!やった!やった!!」
「おめでとう存じます鈴之助様っ!」
「大願成就ですなっ!」
「赤飯を炊きましょう!!」
喜びを噛み締める鈴之助に彼の近習たちが口々に祝いの言葉を述べる。
「ちと大袈裟だなおい。赤飯?乙女になったんじゃねぇんだから」
レガルドが冷静にツッコミを入れると鈴之助はハッと我に返りレガルドに言った。
「乙女といえばそうだ兄者!姫が生まれたそうですね!兄者そっくりの可愛い姫だと聞いてますよ!」
「ああ、蕾というんだ。ちゅぼみ、こっちにおいで。鈴之助叔父さんだぞ」
レガルドが呼ぶと、蕾は一目散に父親の元へとテケテケと駆けてくる。
その様を大の漢、武士達が目を細め、頬を薔薇色に上気させながら眺めていた。
「とーたま!」
やがて蕾は父親の足に抱きつく、と同時に抱き上げられた。
レガルドは蕾に言う。
「ほら、鈴之助叔父さんだ」
鈴之助は蕾の顔を覗き込んで挨拶をした。
「はじめまして蕾姫。鈴叔父さんと呼んでくれ」
「しゅじゅおちたん!」
「………………………………」
「鈴?鈴之助?どうした急にフリーズして?」
蕾に向け笑顔を浮かべたまま急に硬直した弟にレガルドは訝しむ。
「鈴之助様?」
「三郎若様?」
「三の若様?」
皆が心配して顔を覗き込むと、鈴之助の近習の一人が言った。
「いかんっ!鈴之助様が立ったまま気絶されておられるぞ!!」
「姫君の可愛さにそのまま昇天なされたっ!」
「ちょっ……若っ!若っ、帰って来て下さい!若ーーっ!」
次期州主が弁慶の立ち往生となり、広間は一時騒然となった。
その様子を眺めてレガルドは娘に言う。
「サイレントちゅぼみたんインパクトだったな☆」
その後直ぐに回復した鈴之助と別室に移り、互いに積もる話を沢山した。
「アデリオールでの暮らしは如何ですか?」
「あの自由で大らかな国民性が俺には合っているようだ。菫もすっかり馴染んだしな」
「菫どのとお幸せそうで何よりです。兄者の一途さに憧れます。……今からでも遅くはありません、やはり兄者こそが州主に、そしてこの李亥の当主に相応しい。どうか帰ってきては頂けませんか?」
異母弟の言葉に、レガルドは首を振った。
「嫡男側ほどではないにせよ、混血の俺が東和を統べるなどとんでないと考える家臣や地方領主はいるんだ。下手に波風を立てない方がいい。それに俺は人の上に立つべき人間じゃないしな」
「そんなっ……誰よりこの座に相応しいというのに」
「鈴、お前の方が俺より百倍、州主として相応しい人間だよ。俺はお前だから安心して東和《国》を任せられるんだ、頼んだぞ」
「兄者っ……はいっ、はい、分かりましたっ……精進いたしますっ」
兄の期待に応えようと力強く頷く鈴之助の肩をレガルドはポンと叩いた。
鈴之助はレガルドに問う。
「父上には……?いえ、やはりお会いしない方がいいでしょうね」
「精神を病んじまってるからな。仲違いをしている俺とは会わない方がいいだろう」
「……そうですね……兄者の事を亡くなられた兄者のお母君と間違われるかもしれませんし」
「そうだな」
一応現州主である二人の父親は、
レガルドの母亡き後もともと精神が不安定になり心のバランスが崩れていた。
そんなところに実の息子に暗殺されかけるという事態で完全に精神を遣ってしまったのだった。
今は地方の別邸でひっそりと療養中である。
「まぁいずれ機を見て会うよ」
「そうですね、それが良うございます」
その後は菫や蕾、そして鈴之助の妻も集まり、皆でわいわいと食事をして楽しい時間を過ごしたのだった。
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次回で菫ちゃんの里帰りも終わりを迎えます。




