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さよならをあなたに  作者: キムラましゅろう


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番外編の番外編 朔太郎の許嫁どの



アルファさんの方の読者様から菫の長兄、弓削朔太郎と許嫁の紫子さんのお話も読みたいとリクエストを頂きましたので、番外編の番外編としてお届けいたします。


時系列で言えば弓削の再興が許されたばかりの頃のお話です。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「………は?ゆ、紫子(ゆかりこ)……?な、何故ここにっ?」


「お迎えに参りました、朔太郎さま」



州都追放となり、地方で用心棒稼業をして働いていた弓削朔太郎の元に許嫁だった紫子が押しかけて来た。


先日、李亥家の二の若君から弓削のお家再興が叶った知らせを受け、急ぎ州都へ戻ろうとしている時の事であった。


二年もの間世話になった商家を辞してすぐ、目の前に現れた紫子を見て、朔太郎は只々驚くばかりである。


「迎えに来たってお前……他家に嫁いだのではなかったのか……?」


呆然としながらも朔太郎がそう言うと紫子は少々突っ慳貪(つっけんどん)なもの言いで答えた。


「あら、朔太郎さまは私が他の殿方に嫁いでも良いとお考えだったのですか?」


紫子のその言葉に朔太郎は慌てて否定する。


「そんな訳はないだろう。だが縁談は破談となり、年齢的にもお前はとっくに嫁いだものとばかり思っていたんだ」


「行き遅れで悪ぅございましたね」


「誰もそんな事は言ってない。行き遅れにさせたのは俺の所為だ」


「ええそうです。ですから朔太郎さまにきちんと責任を取って頂こうと思い、ここまで参りましたの」


「紫子……」


朔太郎はかつての自分の許嫁を見つめた。


深く澄んだ黒い瞳。

子どもの頃から変わらない、意思の強さが滲み出ている真っ直ぐな瞳。

昔から朔太郎が愛してやまない、紫子の瞳だ。


その瞳に、再びこうして見つめて貰えるなんて。


弓削の家がお取り潰しに遭い、信じていた紫子との将来も断たれたものと思っていたのに……。


「ずっと、俺を待っていてくれたというのか……?」


「ええ。子どもの頃から散々刷り込みの様に朔太郎さまの妻になるのだと言われてきたのです。今さら他の方に嫁ぐ事なんて出来ません」


「……他の縁談を断って?紫子ならすぐに新しい縁談が降って湧いただろうに」


「ですが仕方ないではないですか、朔太郎さま以外の方の妻になるなんて考えられなかったのですから」


「お前は……そうやって山邉(やまのべ)(紫子の生家)の両親を困らせたのだろうな……」


「ええ。それはもう、父上は困り果てて禿げ上がってしまいました」


「なんと……気の毒な……」


「でも対する私も戦い疲れて少し痩せましたわ」


「それは……すまん」


「ええ。ですので朔太郎さまは責任を取って私を妻に迎えて頂かなくては」


「そうだな。でも再興を許されたとはいえ弓削家はこれから大変だぞ。何もそんな苦労を買って出なくても」


「それも仕方ないではありませんか!私は朔太郎さまの事が大好きなのですから!どんな苦労もどうという事はございませんっ」


大きな声ではっきりきっぱりと想いを伝える紫子を見て、朔太郎はふ…と肩の力の抜けた穏やかな笑みを浮かべた。


「それは確かに仕方ない。俺も昔から嫁にするなら紫子しか考えられなかった。許嫁だからではないぞ?心底惚れてる紫子だから嫁に欲しいとずっと思ってきたんだ」


「………朔太郎さま」


「紫子、泣くな」


「泣いてなんておりませぬっ」


目に涙を浮かべなが強がる紫子を朔太郎は抱き寄せた。


二年間、その離れていた時間を埋めるようにぎゅっと抱きしめられる。


「俺は泣きそうだ。紫子が待っていてくれたなんて、夢のようだ」


「っ~~~……朔太郎さまっ」


その言葉を聞き、紫子はとうとう泣いてしまった。


どうしても朔太郎との将来を諦めきれなかった。

彼でないのなら誰とも結婚なんてしたくなかった。

だから頑なに新しい縁談を突っ撥ねてきたのだ。


諦めないで良かった。

弓削の家が許されたと知り、居ても立って居られず、家の者に頼んで朔太郎が今どこにいるか調べて貰ったのだ。


……弓削の再興が許されなくても、いずれは朔太郎の元に押し掛け女房をするつもりではあったのだが。


だからこうして迎えに来た。

早く会いたくて。

一緒に州都に戻りたくて。


朔太郎も変わらず自分との将来を望んでくれるのだと知って、紫子は本当に嬉しかったのだ。


そうして共に州都に戻り、レガルドの口利きで朔太郎が新たに仕える事になった三の若君の取り計らいにより、二人は再び許嫁同士となったのであった。


「またしばらくはお家の再興とお勤めで忙しくなる。すまぬが婚儀は待っててくれるか?」


今のままでは、弓削家はまだ紫子を迎えるに満足とは言えない状態だ。

朔太郎がそう訊ねると紫子はツンとすまして言った。



「二年も待ったのです、今さら幾ら待とうが一緒ですわ」


「本当にいい女だな、お前は」


朔太郎はそう言って愛しい許嫁を抱きしめた。

紫子は腕の中で呟く。


「それも今さらです」



そしてそれから一年後に、朔太郎と紫子の祝言は無事に執り行われたのであった。


祝言には他国で暮らす妹夫婦も出席したらしい。



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― 新着の感想 ―
[一言] 許嫁の名前からイメージしてたら、ゆかりを食べたくなりました(笑) 白ご飯の上に乗せれば彩りも鮮やか、風味も増して。 あえ物に使えば調味料になったりと。 朔太郎さんの(白ご飯のように、真っ白に…
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