番外編 菫の里帰り① 菫、ウリボーを可愛がる
番外編は時間を遡ってのスタートです。
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レガルドは妻の菫と蕾を連れて祖国である東和へと帰郷する事にした。
ノリス家のバカ令嬢の為に十日も不休で働かされた後、五日間の休みをもぎ取ったのだ。
前々から菫を兄達に会わせてやりたいと思っていたレガルドはこの機会を逃さずそれを決行する事にした。
問題は移動方法である。
レガルド単身であれば転移魔法で西方大陸から東方大陸までの転移は可能である。
しかし複数人での長距離転移はまだ行った事はない。
これが主水之介やハルジオを連れての転移なら万が一中間地点の海の中にドボンしてしまっても構わないのだが、連れて行くのは己が命よりも大切な妻子である。
そんな危険は冒せない。
かと言って普通に魔力汽船を使っていたのでは早くても往路だけで三日はかかる。
復路の事も考えるとやはり転移魔法で移動したいところだ。
そこでレガルドは考えた。
間に異界を挟んで転移すればそれが可能であると。
そういう訳でレガルドは菫と蕾を連れて中継地点である異界……レガルドの生家である李亥家が加護を受ける亥羅守の世界へと飛んだ。
先日までノリス家の令嬢と侍女も居たこの異界。
今はもうその異物は居ない。
レガルド達が着地したのは広い草原であった。
現実離れした目にも鮮やかな緑の草地がどこまでも広がる突き抜けた空間。
菫はレガルドの許嫁であった頃に一度この異界を訪れていた。
生意気な李亥のくそガキの番を見てみたいと亥羅守が所望したそうだ。
それ以来、菫にとっては実に数年ぶりの異界であるが、この世界での時間軸ではさほど時は経っていないという。
いつもの世界とは違う空気を菫は胸いっぱいに吸い込んだ。
腕に抱く蕾もご機嫌である。
レガルドは菫の肩を抱いてこう告げた。
「さ、じゃあ次は東和に向かうぞ」
「え?もう?」
と菫が言うのと同時に轟音が辺りに轟く。
「待ティ小僧ッ!!挨拶モ無シニ立チ去ルツモリカッーー!!」
轟音と思ったのはこの世界の主である亥羅守の声であった。
続いて地鳴りと共に何かがこちらへ向かって来る音がする。
遥か草原の彼方を見やると、凄まじい勢いで巨大な猪が突進して来た。
「ゲ、来たよ。面倒くせぇ……ちょっと寄っただけだっつーのに」
その巨大な猪を見ながらレガルドがうんざりした顔をする。
「もうレガルド様、きちんとご挨拶しなくては駄目でしょう?」
「だってアイツ、菫に馴れ馴れし過ぎる」
そんな事を夫婦で言っている間にも猪突猛進、あっという間に亥羅守は目の前に来た。
体長7~8メートルはあろうかという巨大な亥神。
その巨躯が放つ異様な威圧感だけで体が押し潰されそうだ。
この巨大な亥こそ、この異界を統べる獣神亥羅守である。
「いのちちー!」蕾は全く平気そうに指を指して喜んでいる。
亥羅守は蕾を見て言った。
「コノ愛ラシイ童ガ菫ノ子カ?」
「俺の子でもあるぞ」
「ふふ。お亥羅様、ご無沙汰しております。はいそうです、娘の蕾と申します。どうぞ宜しくお見知りおき下さいませ」
「いのちち、おっちい!」
「ソウカソウカ、誠ニ愛ラシイ童ジャ。ドレ、立派ナ牙ガ生エル加護ヲ遣ワソウゾ」
「要らんわっ!!ちゅぼみに牙なんぞ生やされてたまるかっ!!」
「デハ刃モ通サヌ強クシナヤカナ体毛ヲ「要らんっ!!」」
「ふふふ」
菫が初めてこの異界に来た時もそうであった。
菫の事を気に入った亥羅守があれよこれよと加護を授けようとするのをレガルドが突っ撥ねていた。
そしてあの時も、そして今も唐突に………
「菫、顎ヲ摩ラセテヤロウ」
と言うのだ。
「てめぇ……やはり牡丹鍋にしてやろうか」
苛立つレガルドを宥め、菫は亥羅守に言う。
「はいお亥羅様、喜んで。でもお亥羅様はお身体が大きゅうございますのでとても手が届きません。どうか以前のように小さくおなり下さいませ」
「オオ、ソウデアッタナ!」
亥羅守はひと言そう言い、ボンッと一瞬で変化した。
中型犬ほどの仔猪、ウリボーになったのだ。
「ドウダ菫、コレナラ摩リ易カロウ?」
ドヤる亥羅守が微笑ましく、菫は思わず笑みを溢す。
「ふふふ。はいとっても。そして大変お可愛らしゅうございます」
「ソウデアロウ、ソウデアロウ♪」
そうして菫はウリボーの顎を摩ってやった。
よほど心地よいのだろう、ウリボーは悦に浸った超ご満悦な顔をしている。
亥なのに喉のゴロゴロ音が聞こえてきそうだ。
「……ったく、威厳もクソもねぇな……」
嘆息するレガルドの腕に抱かれながら蕾がまた指を指して言う。
「いのちち、ちっちゃい!」
菫はその後も亥羅守が満足するまで顎を摩り、撫で撫での奉仕をした。
そうして漸く解放され、いよいよ東和へと転移したのであった。




