愛しい日々をあなたに 〜魔法省特務課の事件簿〜 ハルジオの変化
「はいどうぞ」
何やら考え事をしている様子を見せる夫の為に、菫は温かいお茶を淹れた。
「ありがと」
お茶を飲むレガルドの隣に座り、菫もお茶を口に含む。
静かな夜。
もうすぐ三歳になる蕾は既にぐっすり夢の中だ。
「……リッカがさぁ」
レガルドがぽつりと話し出す。
「リッカさん?確かハルジオさんの恋人の……」
「今はもう形だけのな。そのリッカの奴が本省の高官と不倫してやがる」
「えっ……」
思いがけない言葉に菫は目を丸くした。
レガルドが苦虫を噛み潰したような顔で話し続ける。
「しかもどうやら上に引き上げて貰う為に交換条件のような関係らしい」
「そ、そんな……」
レガルドの話では、捜査中に偶然にも王都でリッカの姿を見かけたらしい。
表通りから一本外れた通り道で。
その時、リッカは一人ではなかった。
本省で時々見かける人事部の高官の腕を親しげに組み、寄り添うように歩いていたという。
そしてそのままホテルに入って行った……そうだ。
そこでまぁレガルドとしてはハルジオの為に無視は出来ないと色々と調べたわけだ。
「その高官は半年くらい前にハルジやリッカがいる地方局に出向して来たらしい。そこでリッカと懇ろになったんだろうな」
「ハルジオさんはこの事は……」
「まぁ知らないだろう」
「言うの?本当の事を」
「少しだけ迷ったんだけどな、もちろん言うよ。もともとハルジにリッカのような女は合わない。これを機にスパッと別れればいいんだ」
「そう……そうね」
菫はこの事でハルジオが傷つかないか心配だった。
ーーどうかハルジオさんの心に早く平穏が訪れますように……。
菫はそう願わずにはいられなかった。
そして数日後、仕事の合間にハルジオに会いに行くと言っていたレガルドが不思議そうな面持ちで帰宅する。
菫は蕾を抱いて出迎えた。
「おかえりなさい。あら、どうしたの?そんなに首を傾げて」
「とーたまっ」
蕾が父親を見るなりレガルドを呼んで手を伸ばした。
抱っこをご所望だ。
愛娘に呼ばれ、レガルドは一瞬で相好を崩して菫から蕾を受け取る。
「ちゅぼみ!」
「とーたまっ、おかえいなちゃい」
「ただいま♡」
今の今まで浮かない顔をしていたのに、蕾を抱いた瞬間からレガルドはご機嫌になっていた。
「ふふ」
菫は膨らみ始めたお腹に手を当てその様子を見て微笑んだ。
現在菫は第二子を妊娠している。
家族三人で食事をし、父と娘で仲良く入浴する。
宿直のない日はレガルドが蕾を寝かしつける役目だ。
編み物をする菫の元に、蕾を寝かしつけたレガルドが戻って来た。
手には膝掛けを持っている。
「冷やさないようにな」
そう言って菫のお腹と足を膝掛けですっぽり覆う。
「ありがとう、レガルド様」
レガルドは菫の隣に座った。
「今日、ハルジオさんに話したのよね?彼の様子はどうだった?大丈夫だった?」
「さすがに不倫には驚いてたんだけどな。ここ一、二年のリッカの出世欲を見ていたから信じられないと言う事はないと言ってたよ。丁度もうきっぱり白黒付けて別れようと思っていたそうだ」
「そうだったのね、良かった……ハルジオさんが辛い思いをしてなくて」
菫がそう言うとレガルドは顎に手を当て何かを考えるように言う。
「それなんだよなーーアイツ、なんか変わったんだよ」
「変わった?どう変わったの?」
「それがさぁ……なんか表情が柔らかいというか浮かれているというか……あれはもしかして恋でもしちゃってんじゃねぇかしら?」
「え?恋?ハルジオさんが?」
「いや、確たる証拠はないんだけどな?なんか雰囲気が違うんだよな」
「何か周りの変化があったのかしら?」
菫がそう言うと、レガルドが何かを思い出したように告げた。
「そういえば、新人の指導を任されたと言っていたな。その新人の女の子がバディになったと」
「女の子……」
「おやおやおや~?あらあらあら~?ハルジく~ん?こりゃちょっとつついてみないといけませんなぁ」
「レガルド様、あんまり面白がって根掘り葉掘り聞いてはダメよ?」
「いやいや~、親友の恋バナに付き合ってやるのもダチの務めだからな~」
「もう……レガルド様ったら……」
レガルド=リーは有言実行の男である。
次の日には地方にいるハルジオの元へ飛び、
渋るハルジオから根掘り~の葉掘り~の聞き出そうとした。
そして呑みに誘いその際に、
バディとなった新人のミルルという東方人のハーフの子が素直で良い子で可愛く感じて仕方ない、という惚気を吐露させたのであった。




