表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
構成術士の欠陥因子 《OD》  作者: 寺鳥 夜鶏
オーバーダイブ編 <下>
99/124

Act.96 激闘の果てに

閃光が、幾度となく瞬く。

その光景はさながら、遥か彼方に望む星々の瞬きに類似していた。

爆轟と共に生み落される輝きは星の誕生と死を彷彿とさせるものであり、副次的に生み出される衝撃波は産声にも断末魔にも似た生への執着心が成せる咆哮そのものであった。


「死ざれ――」


左右上下へと間断なく弾き飛ばされた黒き騎士の鎧が、圧倒的な運動エネルギーを乗せた襲の拳が叩き付けられる度に砕かれ、徐々に剥ぎ取られてゆく。


(長くは保たない、さっさと片を付ける!)


雷の衣を身に纏う「画竜点睛」は、圧倒的な加速度を術者に強いる。ゆえに体内に吸蔵させた詞素の相対座標の固着化による「体細胞の硬化」が必要不可欠であり、大気摩擦を考慮すれば肉体の表面を詞素による保護膜で覆う必要性が生じる。Fパックの残量を考えれば、そう長くは保つまい。


「画竜点睛」が圧倒的とも言える攻撃性を示す一方で、この術式は元々は攻撃用の術式ではなく完全な移動術式として開発されたものであった。

動体の持つエネルギーが、K=1/2mv^2(運動エネルギー=1/2×質量×速度の二乗)という公式によって求められるように、運動速度とエネルギーの間には強い因果関係が存在する。音速を遥か凌駕した打突の持つエネルギーもさることながら、インパクトの瞬間に襲の体内から放出される電撃――否、荷電粒子の束によって形成された“力場フィールド”そのものが亜光速で撃ち放たれ、その破壊力に磨きを掛けていた。


座標情報の改竄に基づく“加速”――。


移動術式の基本原理は、「ある座標Aから、ある座標Bまで、対象を一定の時間以内に移動させる」というものだ。即ち、移動術式における対象の移動速度。運動エネルギーを決定する要素は、対象の質量はもちろんのこと、移動させる距離と移動に要する時間によって左右されるものである。

例えば三百四十メートル離れた地点へと一秒で対象を移動させるものとして構成式を構築すれば、実際に構成術を行使した際の対象の運動速度は、毎秒三百四十メートル。およそ音速で移動することとなる。


以上の移動術式の特性に基づき、「画竜点睛」は術者の空間座標を連続的に切り替えることで、瞬間移動が如き移動速度を実現させている。もちろん体表面の保護を担う詞素がなければもはや自殺行為と言う他なく、おのずと発動時間も限られてくるわけだ。


ゆえに襲はいていた。


こちらを捕らえるべく伸ばされる触手の群れを避け、引き千切り、異形の側頭部に左右の拳を閃光と共に叩き込む。反撃の予兆すら感じさせる間もなく吹き飛ぶ巨体がターミナルの外壁に突き刺さり、濃灰色の粉塵を舞い上げるや、襲は追撃すべく建物内へと身を躍らせた。

直後、瓦礫の隙間から屹立した触手が襲の肢体に絡み付き行動力を奪いにかかった。一拍遅れて背後から。知らぬ間に再生したらしい黒の騎士の両手もろてが、襲の首をへし折らんと突き出される。


紫電流閃しでんりゅうせん


殺気を波動のように周囲に押し広げた襲の双眸が、ぎろりと紫色の輝きを強めた瞬間。襲の両の掌から紫がかった雷が迸り、ばりばりと空気を爆ぜながら巻き付いた触手の群れを焼き払った。

触手の拘束を振り切り身体を百八十度反転させた襲の両手が、背後から突き出された異形の腕を掴み後方へと押し返す。対する黒の騎士も負けずとその場に踏み留まり、床を踏み砕きながら襲と真っ正面から向かい合った。

襲の身体を包む蒼の力場と異形を取り囲む黒の力場とがせめぎ合い、周囲の空間がゼリーのようにゆらりと揺れる。不可視の力場フィールドに引き剥がされた床材が宙を舞い、その全てが周囲に漂う高励起状態の粒子にあぶられ、溶けた飴のような赤の残骸へと転じてゆく。


嵐にも似た「力」の均衡。


それを破ったのは、襲の一撃であった。


組み合わせていた両手を弾くように解いた直後、異形の数十の眼球をもってしても視認すら不可能な蹴り上げが襲の右足から放たれる。蒼の粒子の被膜に覆われた襲の爪先が黒の騎士の胴、その鎧へと突き刺さり凄まじい衝撃波と共に鈍重な身体を穿った。

しかし、床に突き立てていた触手の束がブレーキの役割を果たしたのか。

その場へと留まり何とか後退を免れた黒の騎士が、のっぺりとした顔を上げた――と、


僅かに浮き上がった異形の懐に襲の姿があった。


硬く握り締めた左拳を腰の辺りで構え、全身の詞素を拳へと乗せる。

全身を覆っていた蒼の衣が薄く剥がれてゆく一方で、ただ一点に凝縮された詞素から迸るエネルギーが熱と化し、ジリジリと到着ロビー一帯に熱い空気を押し広げてゆく。


鋭い踏み込みが鳴り、回転させた身体が蒼の円を地に描くや。

一際眩い閃光と共に襲の拳が突き出された。


雷晄旋らいこうせん――っ!!」


コマ落としのように掻き消えた蒼の一撃は一刹那。異形の鳩尾みぞおちへと吸い込まれ、打突点を中心として轟爆を生じさせた。そのに異形を縫い留めていた触手がぶちぶちと千切れる音が交じったのも一瞬。振り切られると同時、拳から放出された蒼の「気弾」が黒の騎士の身体を錐揉むように上空へと撥ね飛ばす。

「雷晄旋」によって放たれた荷電粒子の塊が拳の形に歪んだ肉を焼き溶かしながらに上昇を続け、異形の身体をターミナルの天井へと叩き付けた。堅牢な造りをものともせずに天井を突き破り、光弾は黒の騎士を更なる高みへと誘う。


天へと伸びる、蒼の軌跡。


それは光弾というよりも“光線”と称するのが相応しい。

ターミナルを突き破り異形を乗せてなおも上昇を続ける蒼の輝きは、周囲から見れば地上からそらへと滑り落ちた“彗星”を想起させるものであった。

彗星が、数百メートルは昇ったか。

黒の騎士の胴を貫いた光弾が雲の合間にて燃え尽きる一方で、推進力を失った異形の肢体が急激な上昇から下降へと至り、重力に引かれるようにして眼下に伸びる滑走路へと墜落を始めた。


最中、僅かに残った異形の目が捉えたのは、


二メートル近い銃身を誇るライフル型AIU、「エクスーシア」を構える銀髪の少女の姿と、

少女の背後から腕を回し、右手を銃身に左手を少女の腰へと添えた黒髪の少年の姿だった。


「術の制御は俺に任せて、シェリルさんは全力でお願いします」

「――はいっ!」


脇にはシールドが砕けたフルフェイスヘルメット二つが無造作に転がっていおり、Fパックの中身は既にエクスーシアの銃身内で圧縮され、膨大なエネルギーを有する粒子群として発射の時を今か今かと待ち侘びていた。

本来ならば一射ずつ数回に分けて放つべき膨大な詞素。

それを襲の思念波が束ね、更にシェリルの体内から注ぎ込まれる詞素とを混ぜ合わせていく。

荷電粒子と化した詞素が遂に銃身内に納まり切らず、銃口から飛散粒子を散らし始めた。

銃口が向けられた先は、落下を続ける異形の通過予測空域。


その空域に黒の騎士が差し掛かった――瞬間、シェリルが引き金を引き搾った。



「当たれ――!!」



全身を声とした二人の叫びと思念波とが交ざり合い、「力」の奔流となって銃口から迸る。

放たれた詞素の束は周囲の空気を吹き飛ばし、乾燥させ、電離した大気分子から生じたスパークが広域に亘って這い伝った。

長さにして三キロメートルにも及ぶ長大な滑走路の上空を突き抜けた光線は、遥か彼方にて漂う雲を切り裂き、その膨大なエネルギーを十数キロメートル遠方まで押し広げてゆく。


たぎる詞素の本流に呑まれた異形は、死に対する自身の見解、即ち自己の消失に対する恐怖心を抱くいとますら与えられず、この三次空間から完全に“消滅”する。

巨大な円筒形の光の瀑布は行く先々で地響きにも似た激震と爆音を轟々と散らし、遥か眼下に掠めた海面の水分を一瞬にして気化させた。

水蒸気爆発を思わせる急激な水分子の膨張と拡散が光線に追従するように伸び、華やかなスターマインに申し訳程度の白の白煙を添える。


発砲と同時、ビームの射出に耐え切れなかったエクスーシアが銃身内部から熔解し、重金属粒子と弾け飛んだ。寸前、反応が遅れたシェリルを抱き寄せ、後方へと飛び退いていた襲の靴底が砕けたアスファルトをじゃりと踏み締める音が響く。そのまま、濃いオゾンの臭いと残留した飛散粒子の熱に押されるようにして、二人は危険領域から退避する。



暫しの間を置いて、ハンニバルの完全な消滅を「眼」で見て確認した襲は知らずほぅと息をつき、タイミングを計ったかの如く吐き出されたシェリルの呼気とを偶然にい交ぜた。

そのことが無性に可笑しくて、二人はどちらともなく押し殺したような声を上げて笑う。


「ようやく、終わりましたね」

「ええ。今日は本当に助かりました、シェリルさん」


四散した詩素が大気に吸蔵され、ようやく低下し始めたとみえる空港の熱い空気の下。しんと静まった空港には外周の騒音までは届かないのか、交わされた言葉がやけに通って聞こえる。


「いえ……こちらこそ。お疲れ様でした」


言葉数も少なく。

青と紫の視線だけを長く交わした二人は、回収したフルフェイスヘルメットを被り直し、揃ってその場を後にした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ