表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
構成術士の欠陥因子 《OD》  作者: 寺鳥 夜鶏
オーバーダイブ編 <中>
71/124

Act.68 calm before the storm <2>

現在飛行を続けている《VSS-18便》は元々旅客機の一種ではあるが、それら旅客機の外見は航空技術の発達と共にやや流線形を描くフォルムへと徐々に変化してきている。

更に言えば、第七学園の新入生及び転校生の送迎に伴い、外部からのテロ攻撃を想定した武装を備え付けているわけであって、外見的には旅客機というより戦闘機に近いと言うべきかもしれない。


『こちらAMエーエム1ワン。AM3、異常は無いか?』


澄み切った青い空の中を、《VSS-18便》に寄り添うように飛行する五つの機影があった。

影の正体は軍直属のBD部隊が操る搭乗型人型AIU、通称ANIMUSアニムスの飛行小隊である。

両翼それぞれに二機ずつ。計四機飛行している白色の機体は、日本で最も配備数の多い量産型AM《センチネル》。

そして旅客機の後方を飛行する暗色のやや大型の機体は《ガイス》と呼ばれる隊長機であり、背中に背負った羽のような飛行ユニットが特徴的な対空戦闘に特化した特務機でもある。

入った無線は、その機体の搭乗者からもたらされたものであった。


「こちらAM3。左翼後方、異常ありません」


操縦桿を片手で握りながら返答を返したのは、《VSS-18便》の左翼後方を飛行する《センチネル》のパイロットである。


『そうか。善治ぜんじも初めての任務で緊張するだろうが、落ち着いて行けよ』

「ありがとうございます、坂井さかい隊長」


白のパイロットスーツに身を包んだひいらぎ善治という青年は、昨年第七学園の詞律操縦学科を卒業したばかりの新兵であった。護送任務と言えど、酷く緊張している様子である。

隊長との会話で多少緊張の糸が緩んだようだったが、操縦桿を握る腕には未だかなりの力が込められていた。


『機長より着陸の指示が入った。我々も着陸体制に入る』


再び隊長より入った無線に耳を傾けながら、善治は「落ち着け」と自身に何度も言い聞かせていた。

彼の脳内で駆け巡っている思考は、極単純で一般的なものだと明言してしまっても過言ではない。

まだ、自分は死にたくない。

実際に戦闘が始まってしまったら、自分は本当に戦えるのだろうか?

そんな、解消し難い不安と恐怖が胸中を苛む。


だが決して、善治の精神が貧弱だというわけではない。

何故なら、構成術士の多くが軍事関連の組織あるいは企業へと就職してゆく今日において、死は非常に身近なものとなっている為である。

その実態は数値という現実味を帯びたデータとして現れており、事実、構成術士の平均寿命は一般的なヒトの平均寿命には遠く及ばない。軍事関連の組織に至っては、平均寿命が二十歳半ばを切っているという差し迫った現状があった。

これは構成術士の多くが詞素大学卒業後に部隊に配属されることを加味して考察すれば、入隊後、その大半が二、三年のうちに死亡しているということを示唆するものに他ならない。


(それにしても、この胸騒ぎは一体何なんだ……?)


機体が大きく揺れる度、頬を伝う汗の粒がフルフェイスヘルメットのシールドに当たっては吸水装置によって吸い込まれてゆく。

その様子を意識の端で捉えながら、善治は操縦桿を切り、機体を緩やかに旋回させた。


「死ぬわけには…いかない」


眼下に薄らと見え始めた空港へと距離を詰めながら、六つの機影は徐々に高度を下げてゆく。

着陸から間もなく開始された新入生の乗り込み――否、構成術士を“兵器”として扱うならば、詰め込み作業か――を視界に収めながら、善治は深々と震えるように息を吐き出した。


どちらにせよ、この仕事は次の空港で終わりだと。

全て終わったら、弟に今日この日のことを愚痴ってやろうと。


そう、自分に言い聞かせながら。




    ◇◆◇◆◇◆◇




《VSS-18便》が羽田空港を訪れる前日のこと、ある話題が世間を大きく騒がせていた。

それは殺伐とした血生臭い事件ではなく、芸能関係のビッグニュースである。


雨宮あまみゆいが引退っ!?」

「そうっ、そうなんですよっ!私も今日家出る時にテレビで知って驚きましたっ」


寄港の際に生じた、幾許かの休憩時間の合間。

ハヤトとソフィアが騒ぎ立てている通り、歌手の雨宮唯が昨日、突如引退を表明したのだ。

携帯端末に表示された記事を前に動揺を露わにしている二人を前に、れんは一人疑問を浮かべる。


「えーと、その人ってアイドルか何かなんですか?」

「違ぇって!今最も旬な若手実力派歌手だよ!そもそもオレ、ビジュアル系とか別に興味ないし」


話題に触れた瞬間一方的に熱く語り出す辺り、ハヤトはその歌手のことが本当に好きなのだろうとは思いつつ。


「ごめん、あまり芸能ニュースとか見なくて……。それで、どんな人なの?」


憐はハヤトに謝罪しながら、反対の座席に座るソフィアにも疑問を投げた。


「テレビには基本顔出さないんだけど、とにかく歌が凄く上手くて有名なんだよ!まだ中学生らしいんだけどね……ホラ、この人!」


質問を受けたソフィアは携帯端末を手早く操作すると、身を寄せるようにして憐の眼前へと突き出してきた。

表示された画面には青みがかった黒の長髪が目を惹く少女の姿が映し出されており、アクアマリンの双眸と白磁ような肌が美しい紛う事無き美少女であった。あまり女性に対して執着心を持たない憐でさえ、そう認識せざるを得ない。

穏やかな微笑みの向こうに犯し難い神聖さを漂わせている辺り、少女の容姿はある種の完成の域へと達しているのかもしれないと、憐は柄でもない思考を巡らせる。


「この人が……。それにしても、何で突然引退したの?」

「さぁな。ネット上では諸説あるけど、本人のブログには『歌手活動を引退して、今は学業に専念したい』って書いてあったらしい。

あーッ!一度でも良いからライブ行きたかったっ!」

「そ、それは気の毒だったね……。でも、私も生で聴いてみたかったな」


肩を落し明白あからさまに落ち込む二人を見て、憐は苦笑いを浮かべる。


「でも、まだ学生なら仕方ないよ。それに高校卒業したら歌手活動再開するかもしれないしさ」

「卒業って…まだ大分先の話じゃねぇか……はぁ」


ため息を紫煙代わりに、ハヤトは視線を左へ。遠く窓の外へと流した。

それを見ていたソフィアも複雑そうな表情を浮かべており、耐え切れなくなった憐は一人、目線を漠然とした面持ちで右手へと移す。

その行動自体は、全くの偶然でしかない。

しかし、目線の先に捉えたものに対して抱いた感情は、


「あれ…?」


運命的であったと、言わざるを得ない。


憐の右手。ソフィア越しに捉えたのは、手提げ鞄を片手に通路を颯爽と通り、窓際の二人掛けの席の通路側に腰掛けた一人の少女であった。


「雨宮……唯?」


艶やかな黒の長髪と、憂いをたたえたような瑠璃色の瞳。

呟きとは裏腹に、憐が抱いたのは確信にも似たものであった。

一度電子端末を介して見ただけの憐でさえ間違えようもないほど、少女の姿は清楚で可憐で。この世で二つとない、度し難い美を視認した者へと与えている。


「えっ!?本当だ!?は、ハヤトくん!見て見て、本人だよっ!?」


憐の言葉を耳聡く聞き取っていたのだろう。ソフィアは興奮と声量を押し殺しつつ、ハヤトへと声を飛ばす。


「あんだよ……今落ち込んでるからそっとしといて欲しいんだけ……ど…?」


ハヤトは言葉を詰まらせ、ただ、雨宮唯と思しき少女の横顔を注視した。

視線を感じたのだろう。小首を傾げるようにしてこちらへと顔を向けた少女を見て、ハヤトは思わず叫び声を上げていた。


「雨宮唯ッ!?」

「馬鹿っ!声が大きい!」


幸いにも着陸直後ということもあり、機内が騒がしかったが為に事態の悪化、と言うより情報の拡散は免れることとなった。

しかし流石に唯の隣に腰掛けていた人物までは誤魔化しきれなかったらしい。窓際の席で居眠りを続けていた少女がハヤトの声に目を覚まし、隣に腰掛ける唯を見て目を幾度となくしばたいている。


「うわっ、マジで本物じゃん!」


感嘆の声を漏らしたのは、どこか活発そうな印象を与える短髪の少女である。

女性としてはやや大きな背丈から判断するに、恐らく高校生だろうか?彼女は愛想笑いを続ける唯の手を突然己の両の手で包み込むように握ったかと思うと、興奮気味に口を開く。


「アタシは上条かみじょう惟月いつき

今年から第七高校に通うことになったんだけど、アタシ雨宮ちゃんの大ファンでさぁ。良かったらサインちょーだい!」

「オレにもオレにもッ!!」


やや遠方から突然会話に乱入してきたのは、言うまでもなくハヤトである。

先程の落ち込み様が嘘のように座席の上を飛び跳ねる少年と、両手を拘束するように握り締めてくる少女を見て、唯は困惑を眉根の彎曲わんきょくに示していた。


「えっ、えっと……。私はもう歌手ではありませんので、サインしても仕方ないかと思いますが…?」


この言葉は暗にサインしたくないことを示すものであったが、エキサイトした二人の耳には届かなかったらしく、


「いやいや、サインってのは憧れの人から貰うから嬉しいのであって、別に芸能人だから意味があるってわけじゃないんだってっ!」

「そうっスよ!だからオレからもお願いします!」


いつの間にやら通路まで出て来ていたハヤトの真っ直ぐな瞳に射竦められ、唯は条件反射的に身を縮めていた。


「そ、そうなんでしょうか……?」


不安そうに、そして若干引き気味に唯が言葉を零す。

対し、ハヤトと惟月の反応は迅速かつ強い意志を感じさせるものであった。


「そうですっ」

「はいッ」


ここまで勢い良く断言されてしまったら、これ以上断る理由など唯には思いつかない。

それに引退してしまった身であるとは言え、こうして声を掛けてもらうのは恥ずかしくも、やはりそれ以上に嬉しいものである。


「わかりました。私で宜しければ……いくらでも」


結果として、唯が疲れたような笑みを見せつつも頷いたのは、ある意味人としてごく自然な心理が働いた為に相違ない。

その一方で複雑な心境に陥っていたことも、元歌手としては当然の心理であった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ