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断罪予定の悪役令嬢は、幸せを諦めない  作者: 高野


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【1話】目覚めたら悪役令嬢でした

「……嘘でしょ?」


目の前に広がる光景を見て、私は思わず呟いた。


豪華なシャンデリア。

見たこともないほど大きなベッド。

壁には美しい絵画が飾られ、窓からは手入れの行き届いた庭園が見える。


どう考えても、普通の部屋ではない。


私はゆっくりと視線を下げた。


白く細い指。

絹のように滑らかな金色の髪。

そして、身体を包む上質な寝間着。


……誰?


私はベッドから降り、部屋の隅に置かれた姿見へと向かった。


そこに映っていたのは、見知らぬ少女だった。


金色の長い髪に、透き通るような青い瞳。

整った顔立ちは、まるで絵画から抜け出してきた人形のよう。


「…………」


私は恐る恐る頬に触れた。


鏡の中の少女も、同じように頬に触れる。


「ええええええええっ!?」


……いけない。


思わず叫んでしまった。


私は慌てて口を押さえ、周囲を見渡す。


誰もいない。


よかった。


いや、よくない!


一体どうなっているの!?


昨日までの私は、ごく普通の女子高生だった。


学校に行き、友人と話し、帰宅してゲームをする。


そんな何の変哲もない日常を送っていたはずだ。


昨夜も例外ではない。


私はお気に入りの乙女ゲームを遊んでいた。


タイトルは『運命の花嫁と五つの誓い』。


貴族の令嬢となり、王子や騎士、魔法使いたちとの恋愛を楽しむ、いわゆる乙女ゲームだ。


そして、そのゲームには一人の悪役令嬢が登場する。


主人公であるヒロインを妨害し、攻略対象たちの恋路を邪魔する高飛車な公爵令嬢。


その名は――。


「エリザベート・フォン・ローゼンベルク……」


口にした瞬間、頭の中に大量の記憶が流れ込んできた。


公爵家の令嬢。

王太子の婚約者。

そして、王国でも有数の名門貴族。


間違いない。


私は、あのゲームの悪役令嬢に転生してしまったのだ。


「…………」


しばらくの間、私は鏡の前で固まっていた。


そして。


「終わった……」


ぽつりと呟いた。


いや、待って。


まだ終わっていない。


むしろ、ここからが問題だ。


ゲームの中でエリザベートに待ち受けている未来は、決して明るいものではない。


彼女は王太子アルベルトの婚約者でありながら、ヒロインに嫉妬し、数々の嫌がらせを繰り返す。


その結果、卒業記念パーティーで婚約破棄を言い渡され、これまでの悪行を暴かれる。


そして最後には――。


国外追放。


あるいは、処刑。


「いやいやいや! 絶対に嫌なんですけど!?」


思わず声が大きくなった。


落ち着け。


落ち着くのよ、私。


今の私はエリザベート・フォン・ローゼンベルク。


公爵令嬢なのだから、どんな状況でも冷静でいなければならない。


私は深く息を吸い、ゆっくりと吐いた。


よし。


まずは状況を整理しよう。


幸い、ゲームの内容はかなり覚えている。


ヒロインが学園に入学するのは、物語の始まり。


つまり、まだ大きな問題は起きていないはずだ。


今から行動を変えれば、破滅ルートを回避できる可能性は十分にある。


そう。


難しく考える必要はない。


ヒロインに嫌がらせをしない。

攻略対象たちの恋路を邪魔しない。

王太子との婚約も、できるだけ穏便に解消する。


完璧だ。


これなら問題ない。


私は鏡に映る自分に向かって、優雅に微笑んだ。


「ふふっ……これで私の未来も安泰ですわね」


……よし。


我ながら完璧なお嬢様だ。


そのときだった。


コンコン。


「お嬢様。お目覚めでしょうか?」


扉の向こうから、女性の声が聞こえた。


「ええ。入って構いませんわ」


扉が開き、メイド服を着た女性が入ってくる。


「お身体の具合はいかがですか?」


「問題ありませんわ。心配をかけてしまったようね」


「とんでもございません。お元気そうで何よりです」


メイドは安心したように微笑んだ。


私は彼女の顔を見つめる。


……そういえば、この人の名前は何だったかしら。


頭の中を探ってみると、すぐに答えが浮かんできた。


マリア。


エリザベート付きの専属メイドだ。


「マリア、一つ聞きたいことがあるのだけれど」


「はい、なんでしょう?」


「今日は何日かしら?」


「本日は王立学園への入学式まで、あと三日でございます」


…………。


三日?


入学式まで、あと三日!?


ちょっと待って!


心の準備も何もできていないんですけど!?


私は思わず頭を抱えそうになった。


しかし、目の前にはマリアがいる。


ここで取り乱すわけにはいかない。


「そう。ありがとう」


「お嬢様?」


「何でもありませんわ。少し考え事をしていただけです」


私は何事もなかったかのように微笑んだ。


まずい。


想像していたよりも時間がない。


三日以内に、これからの行動を決めなければ。


そんなことを考えていると、マリアが思い出したように口を開いた。


「そういえば、お嬢様。アルベルト殿下よりお手紙が届いております」


……アルベルト?


王太子?


私は嫌な予感を覚えながら、差し出された封筒を受け取った。


封蝋には王家の紋章が刻まれている。


恐る恐る封を開き、中の便箋を取り出した。


そこには、綺麗な文字で短い文章が記されていた。


『入学式当日、君に紹介したい人物がいる。必ず来るように』


…………。


紹介したい人物?


誰?


いや、待って。


まさか。


私はゲームの内容を必死に思い返した。


王太子アルベルト。

悪役令嬢エリザベート。

そして、ゲームの主人公であるヒロイン。


この三人が揃う場面といえば……。


「…………」


まさか、ヒロインを紹介されるの?


しかも、入学式当日に?


私は手紙を握りしめた。


落ち着け。


まだ決まったわけじゃない。


別の人物かもしれない。


そうよ。きっとそう。


「お嬢様?」


「何でもありませんわ」


私は優雅に便箋を畳み、机の上に置いた。


そして、誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。


「……お願いだから、私の知らないところで物語を進めないでよ」


こうして、悪役令嬢エリザベートの第二の人生が幕を開けた。

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