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はじめに

 この稿は、還幸の段から、もともとのタイムラインには帰属せず、以降に、未来に属するようになる。つまり、延暦六年(七八七)以降の日本史をたどり

 武士の成立を

 武士の盛栄を

 武士の斜陽を

 つぶさにたどり、源平─鎌倉─室町─江戸─江戸幕末、と、武家の歴史を俯瞰しながら、その時々に見られる

 あづまえびすと

 みちのくえみしと

 それらにまぎれた、ひょうすべ(兵主部)の影をたどる。

 秦氏という来歴の延長が、どのように日本史に挿まれていたのかを検証する構造だ。

 日本人の背後に潜在する、渡来人という素性を訪ねていく文書だ。

 そうすることで、武士階級から始まる「庶民」に属するわれわれは、

 自分たちのルーツに関わるもう一つの姿、大陸と、古代朝鮮に由来する異邦人、半島人の象貌を再確認できる。

 自分たちの輪郭をクッキリと意識する一助ともなろう。

 右は、ただの建前だ。

 本音を言うと、これは、〝ひょうすべ〟という妖怪を描く妖怪小説だ。たかだか九州の水妖だが、ひょうすべの本質はそこにはない。

 武士という、朝から政権を奪い、野から起こった民間の勢力が、日本の運営者となった。彼らがただの百姓階級から、自衛のために武装し、荘官程度の役人に用心棒として採用され「さぶらう(侍う)」ものとなった。

 これが侍の原義だ。

 そこから、荘官、官人、国司、社寺、貴族、果ては摂関家と、侍は、さぶらう対象を引き上げていく。その過程で勢力が大規模化し、ついに、皇籍を離脱し東下した

 いわく桓武平氏を

 いわく清和源氏を、

 党首として戴くことで、公地公民に脅かされつづける私田農場主たちは、朝廷に対する発言権を得た。

 健気なものである。

 その工夫、天皇や藤原氏のかたわらにあって、絹を献じ、大規模な工事を手がけ、ごきげんをとることで、地方豪族ながら存在感を示し、一族を統率する「とものみやつこ(伴造)」に任じられていた、秦氏にも重なる。

 時代の変遷にともない、秦氏が、幾多もの関東武士の氏姓に、そして、それらの党首に源平の御曹司(とはいえ東下している家柄だから、たいした筋目ではない)をいただき、スピーカーにするように変化していったのではないか。

 平安時代は、その初期に、藤原北家の一人勝ちの体制になり、他姓の貴族はのきなみ落魄する。これに閉め出される形で、皇別の貴族も、藤原氏の末端のものも、他姓も、地方へ下向する形になった。この間の事情は、つまびらかではない。概して、畿内より地方、特に、鳥の鳴くあづまの国の方が、豊かな自然があり、石高もたかい。律令で定められた「大国」には、特に豊かで、そのため親王(天皇の子供)が統治することになっていた国がある(親王任国)

 上総、上野、常陸、

 いずれも関東である。

 右のように、東の方が豊かで、そのため、国司以下の官人として赴任し、財を蓄えるものが多かった。

 秦氏も、もともとは地方豪族であり、藤原氏の権勢が圧倒的になると、中央から離れ、もともと「幡羅郡」という八幡(八秦)の拠点をかまえていた坂東に、積極的に入植したのではないか。

 そして、秦氏以外の渡来人も「高麗郡」「新羅郡」のある関東へ入植し、歴朝が採ってきた方針の延長に、自ら打ち込んでいったのではないか。

 ここから、関東武士団の成立までは、空隙があるようで、

 しかし、蓋然性としては、渡来人勢力の先進性や、なにより「鉄」入手のツテが重宝され、彼らが実務者レベルのリーダーになったという情景が、十分成立しうる。

 そして、平安時代にもなれば、渡来人の先進性もあったものではない。それらの技術を邦人が吸収し、国風文化も育ち、渡来人は異邦人、蕃別、という負のレッテルに変わる。水蒸気豊かで、人民皆単一の水場に浸っているような、まさに空気感の日本列島にあって、異端という立場は辛い。現代でさえ、帰化した東アジアの人間は、半分ほどは改姓する。つまり、日本人と見分けのつかない姓にして、トラブルを避ける。

 これが平安時代などという、リテラシーなど片鱗もない時代だ。

 トラブルを避けるために姓を変える渡来人は、ほぼ百パーセントだっただろう。「八田」「羽田」「三浦」「宇都宮」「和田」・・

 これが、じつは

 「佐藤」「斉藤」「工藤」「天野」「二階堂」「河野」・・

 と、広がっていく。

 これは、そういう物語だ。

 

 本音を言えば、ひょうすべを描く妖怪小説だ。日本人と、その歴史に伏在する渡来人の顔、どんなに上塗りしても否定できぬ輪郭線、

 魑魅魍魎という言葉のように、言葉だけは有名ながら、その象貌は、特定の姿は思い浮かべられぬ「全般」

 そうやって、あづまえびすとみちのくえみしの要素に紛れて拡散し、日本人全部に偏在しながら、猿の頭、虎の前脚、狸の体、蛇の尻尾・・まるで別々の氏姓を掲げている、鵺のごとき「多頭」

 それらを拾い上げることで、ひょうすべという「影」を明瞭にし、それに直面してぎょっとしていただく。

 なんだかんだで、日本人は、自分が自覚している以上に、強烈に「日本人」なのだ。

 そんな自分の鏡像に、唐突に異邦人の顔を見いだせば、それは、魂消ることだろう。

 ファンタジーは、突き詰めればホラーに至る、作者はそう考えている。

 ホラーなのだ。

 あなたを脅かすためなら手段を選ばない。

 日本史全体というものも手に取ろう。

 通史で潜在する魔物を掘り起こそう。

 

 だから、怖いものが苦手な方は、ここで、本を閉じることをおすすめする。

 

 妖怪を見たい方は、是非。

 

 その妖怪が、すぐ背後に立っているとなれば、是が非でも。

 

  


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