第三話:攻撃力以外雑魚です。
「あそこがご飯食べるとこで……あそこが宿……かな……」
気の抜けた声で独り言を呟きながらヨタヨタ歩いているのが、俺、冒険者ヒシカワである。
ファンタジーな異世界に来て一時間半、無事冒険者になれて、これから第二の人生が幕を開けるという、期待に満ちている筈であるこの男に元気が無い理由。それはステータスが変だったためである。
体力は申し分無い程強いが、どうやら体力以外は平均のおよそ1/30らしい。
確かに、女神に「死なないように超強く」とか「戦う必要のない」とか要望を伝えたが。
忠実だが。
先程、冒険者になるための必要な手続きを全て終わらせた。
冒険者には向いてないと遠回しに伝えられたが意地を張った。
今は、最低限冒険者としてやっていけるよう装備を整える為、武器屋を最優先で探している。
ついでに、他にどのようなものがあるか把握の為、街中をブラブラ歩いている。トボトボ歩いているの方が正しいかもしれない。
因みにお金に関する問題だが、転生者は皆無一文なので冒険者ギルドからある程度の貸出がある。
そのため最初の生活が安定するまでの期間は困らないという。
とは言っても贅沢はできず、最低限の初期装備と質素な食料が約束されるだけ。
ただ借金しているだけなので早く金策を練らなければ。
何か俺に特殊スキルがあれば、それを活用した職で稼ぐことも考えられるのだが、ただ体力お化けという取り柄しかない俺には、現状稼ぐ手段が冒険者ギルドのクエストを受けることしかなさそうなのだ。
いや、それすら怪しいのだが。
武器屋に入ると、そこには多様な形状の剣や弓、魔法の杖のような木の棒が並んでおり、落ち込んでいたテンションが復活した。やはり男は幾つになってもこういうのが好きなのだ。
店長に、
「装備するだけで体力以外の全ステータスが上がる武器ありますか」
と尋ねると、
「何だそれは。贅沢言うな」
と一蹴された。
その後三十分に亘って陳列された武器を片っ端から眺めていたが、強そうで格好良い武器はどれも高価で、手が届く値段の武器でも持ち金の半分は持っていかれるため悩んでいた。
入り口にある野菜用のような木箱の中に乱雑に入れられている、中古の小汚い武器で妥協しようと思っていたら、後ろに居た女性から声を掛けられた。
「お姉さんが買ってあげよっか、ヒシカワくん」
紺色がかったセミロングの髪を靡かせた、白系統の清楚な服を纏う彼女は、背丈は俺より少し低く、胸もこれといった起伏が見受けられない。
見るからにお姉さんではない年齢のガキであった。
でもそうだ、ここは異世界だ。もしかしたら寿命の永い種族かもしれない。創作の中でしか見たことのない、所謂ロリババアかもしれない。
「君、幾つ? てか何で名前知ってるの?」
「うわ、女性にいきなり歳聞くとか失礼すぎ。十七歳なんだけど」
ガキであった。
「名前はね、さっきギルドの受け付けのやり取り聞いてた。で、面白そうだったからつけて来た。今お金ないでしょ。こういう時は先輩を頼りなよ、必死で可哀想なヒシカワくん」
ニマニマしながら言う姿は正にクソガキであった。
確かに受け付けで必死になっていた様は嘸さぞかし滑稽に見えたかもしれない。だが初対面で小馬鹿にしてくるのはどうかと思う。
「店長ー! 一番高い武器ってどれー?」
「おいやめろ、さっき手に取ったそれで良いだろ! 店長ー! これくださーい!」
「あとこの杖もくださーい!」
「ぐわーやめろ! 店長ー! これだけ買うから!」
戦利品の短剣を眺めつつ、街中の散策を再開。
クソガキは俺の後をずっと付いてくる。
「で、俺に何の用なんだ? 馬鹿にしたいだけなら帰れクソガキ」
「人に奢らせといてクソガキ呼ばわりとは……人間性を疑うぞ!」
「プレゼントはありがとうな。あと、先輩風を吹かせたいのだろうがいきなり人を馬鹿にするのは辞めることだな。一応歳上だぞ」
「歳上ー? 幾つだ?」
「二十一だ」
「おめーもガキじゃん! あとさっき冒険者なったばっかだから僕の後輩には変わりないだろ! 服もダサいし」
「うるせぇ、服は仕方ないだろ!」
ガキ同士の会話そのものであった。
そしてやはりこの服はダサかったらしい。
武器屋から少し離れた所に服屋が見えたので次はそこに向かって歩く。
「で、用は無いのかクソガキ」
「クソガキじゃない、僕はフォレナだ。用は僕とパーティを組んで欲しい、それだけだ」
思いもよらない申し出に足が止まる。
俺のステータスは体力こそ九千超えの化け物だが、その他は一桁、二桁の雑魚。
一長五短の特殊すぎるステータス故、パーティを組んでくれる人すら見つからないと思っていたが、唯一無二ではある。やはり有用なのだろうか。
「お前……フォレナのパーティの他の面子メンツは?」
「居ない。僕一人だ」
無い。こいつと二人きりなんて先が思い遣られる。
「パスだ」
「んな!? 奢ってやっただろ!」
「服も奢ってくれるなら考えてやらんでもない」
「人間性を疑うぞ! 他にお前みたいなキモいステータスのやつを入れてくれるパーティなんて無いぞ!?」
このクソガキちょくちょく失礼なことを言う。
「後でギルドに行って別のパーティに話しかけてから判断する。決めつけるな。あとキモいって言うな」
再びクソガキのような会話をしながら服屋に入店。
店長に、
「着るだけで体力以外の全ステータスが上がる服ありますか」
と尋ねると、
「んなもんねぇよ!」
と一蹴された。
その後当たり障りの無い普通の服を購入。今回は奢ってくれなかった。
店内で着替えてギルドに向かう。
フォレナはまだ付いてくる。
ギルド到着。
ギルドの掲示板付近に屯っている人たちは皆、パーティ募集やクエストの協力者を探しているらしいのでそこに特攻する。
フォレナは後ろで「絶対断られる」といった発言を繰り返しているが、無視して募集を掛けてみる。
「ここで待ってな。こんな人材、欲しいパーティは案外居るってことを見せてやる」
「あっそ。精々せいぜい頑張って」
十分後。笑っているフォレナの元に戻る俺。
全員にしっかり断られ、情けない姿を見せただけだった。
「パーティの申請は出しといたぞー」
「早! 何勝手に決めてんだ!」
フォレナパーティへの仲間入りが決定。
でも実際、一人よりはマシである。癪に障るが仕方ない。俺一人ではできることがかなり限られる。
「……まぁ良いや。俺にやれることは特にないと思うが、取り敢えずよろしく」
「よろしく。先輩に任せなさい」
「ところでお前は今何レベなんだ?」
「十五だ。まだ冒険者始めてそんな経ってないから、そんな高くないけど」
「へー、相場が分からんけど。まぁライセンスカード見せてくれ」
するとフォレナは何故か見せたがらず、「まぁまぁ」とか「お前よりは高いから」などと言ってはぐらかしてきた。
怪しい。
「いいから。ライセンス、早く出せ」
「いやー、あんまり人に見せるもんじゃ……」
「パーティメンバーだろ? 仲間が何できるか把握しておくのは必要だろ?」
「そうだけど……」
渋々渡してきたライセンスを確認する。……何だこれは。
表側も確認してみるが、フォレナの言う通り十五だった。
「これは……」
「いやー……ま、僕も似た感じだ」
なんと、ステータスのほとんどが二桁。攻撃力だけが桁違いに高いという、いわば俺のような歪んだステータスだったのだ。
成程。見せたがらなかった理由、俺に拘こだわってきた理由。合点がいった。
「なんだこの変なステータスは」
「お前が言うか」
こいつもパーティを組んでくれる人が見つからず、ずっと一人で冒険者をやってきたのかと思うと可愛く思えてきた。




