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 リックがファネーレ邸に客人として滞在している期間は、完璧な妹としての振る舞いを求められているようでモニカにとって過ごしやすいとは言い難かった。


 もちろんリックはアクゥ砦の調査に来たのだから、四六時中顔を合わせているわけでは無い。だが、それでも何処で見られているかわからないし、相手は王族ときたものだ。


 初対面で無礼な態度を取ってしまった前科を持つ身としては、これ以上の失態は許されない。


 リックは、モニカが平民の孤児という出自を知っている。

 だから、食事の場においても、お茶に呼ばれても、貴族令嬢のような礼儀作法を身に付けていないことについて、咎めることはしない。


 むしろ冗談を言ったり、話題を提供してくれたりと、好意的に接してくれている。


 だが、表面上はそうであっても、内心どんな気持ちでいるかはわからないと疑ってしまうのだ。


 王族など雲の上の存在だ。住む世界が違う。


 だから野生の熊や鳥を前にしているような心境で、いつ牙をむかれるかわからない。それに、モニカ自身、彼に懐かれたいとは思っていない。


 おちゃらけたリックの態度はどことなく胡散臭いし、アクゥ砦の件さえ、しっかりと調査してもらえたら彼との関係はそれで終わりで良いと思っている。


 ……いや、何かにつけて『家族』という言葉を連発するリックに、正直言ってモニカは鬱陶しいとすら思っている。



 そして今、モニカは目の前の光景を前にして、リックと共に自宅に戻ってきたことを深く悔やんでいる。


 どう取り繕えば良いのかわからず、泣きたいほど困っていた。



 


 無作為に庭に投げ込まれた大小様々の石。

 ガラクタを投げ込まれて、無残に荒れ果てた花壇。

 吹きすさぶ寒風を遮ることを放棄した割れた窓ガラス。 


 10日前から一変してしまった我が家を目にして、モニカは呆然と立ちすくんでしまう。


「…… 酷いことをするもんだね」


 頭上からそんな言葉が振って来ても、モニカは声の主を見上げる勇気はなかった。


「一体誰がこんなことを……」


 再び言葉を紡いだ声の主は、中途半端なところで口を閉ざした。けれど、ぐっと拳を握りしめる気配が伝わってきた。


 きっと今、背後にいる声の主─── リックはとても怖い形相をしているだろう。


 たかだが田舎娘の家が荒らされただけだというのに、自分のことのように怒りを覚えてくれるリックに対して、これまでとは違う印象を持ってしまう。


 しかし突き詰めれば監督不十分ということで、クラウディオが責められる可能性があることに気付いたモニカは、誰の落ち度にもならないことを言ってみる。


「きっと子供達が悪戯をしてしまったんだと思います」

「そう思いたいたいけど、ね。あんな遠くまで石を飛ばせる子供がいるのかな?」


 すかさず割れた窓ガラスを指差すリックに対して、モニカは唇を噛んだ。


 彼の言う通りだ。


 田舎の屋敷とはいえ、モニカの自宅はもともと貴族が道楽で建てた屋敷だ。


 敷地面積は、村長の自宅より広く、門扉から屋敷まではかなりの距離がある。子供の力で、石を投じて窓ガラスを割るのはかなり無理がある。


 つまり成人した、そこそこ力のある男性ではないと不可能だと。屋敷を荒らしたのは、大人の仕業だと暗にモニカに訴えているのだ。


(そりゃあ、私だって、犯人見つけてとっちめてやりたいけど……)


 どうしたって、クラウディオの顔がチラついてしまうのだ。

 妹としては、兄の失態を前面的に庇うのが正解だろう。


「村の子供達は王都の子供のように上品さが無い分、皆、力持ちですから」

「ふぅーん。そっか」 

 

 リックは頷いてみたものの、その表情はものの見事に釈然としていなかった。

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