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13★

(は?ポンコツ?……誰が? まさか自分が?)


 呆れきったリューデリックの顔をまじまじと見つめながら、クラウディオは自問自答を繰り返していた。


「お前、まさか自分のプロポーズが完璧だとでも思っているのか?」


 自分の取った行動が明らかに間違いであるという前提の下に投げつけられた質問に、クラウディオは即答するのを躊躇ってしまった。


 無言を貫くクラウディオは、リューデリックの目には「何か文句でも?」という不遜気な態度にすら見えてしまう。


 けれど、クラウディオの頭の中はとても忙しかった。


(家族になろうという提案は間違っていたのか? まさかモニカは、自分の妹か何かになるつもりでいるのか?)


 確かに、あの時モニカは「娘にはなりたくない」と言った。


 あまりに的外れで馬鹿馬鹿しい主張だったため、深く考えずに否定をした。……そう。本当に愚かすぎること故、モニカの照れ隠しだとすら思ってしまった。


 しかし、あれが冗談の欠片も無い本気だとしたら……。


「私は多大な過ちを犯してしまったのかもしれない」

「”かもしれない”じゃなくって、したんだよー」


 手持ち無沙汰から、お茶の代わりを淹れ始めたリューデリックは、雑に、でも即座に突っ込みを入れて来た。


 それを無視して、クラウディオは腕を組み、瞠目する。


 寄る辺も無いモニカを、助けてやりたいと、心底思った。

 そして、自分の元で傷を癒して欲しいと、切実に願った。


 カダ村長とセリオに対してモニカのことを”妻”と言った時、はっきり自分の気持ちに気付いた。


 モニカのことが好きだと。


 彼女の隣にいるのは、生涯自分でありたいと。

 誰にも渡したくない。己の手で幸せにしたい。

 離したくない、離れたくない─── と。


 5年前、ただのクラウディオとして小さな女の子の手を引いたのは、俗にいう運命だったのだとストンと納得出来る程に。


 一生、領土を愛し力を尽くすことが決定付けられたクラウディオの人生の中で、ただ一度の我儘であった。 

 

 その全てをクラウディオは、あの日、サロンでモニカに伝えるつもりでいた。


 だがしかし、モニカから「手短に」と言われ、端的に「家族にならないか?」と言った。


 やや余分な語彙を含んでしまったが、それでも自分が予定していた台詞より、かなり短く伝えることができたはずだ。


 孤児になってしまった彼女には、きっと「恋人」や「妻」という関係ではなく、「家族」という言葉が一番心に響くと思ったから。


 けれど、本当に本当に今更ながら、あの伝え方で良かったのかクラウディオは不安になってしまった。


「……とはいえ、プロポーズのやり直しなど、あってはいけないことだ」

「いや、やれ。今すぐ、やり直して来い」


 お茶をすすりながら、リューデリックはビシッと廊下へ繋がる扉を指差した。


 しかし、クラウディオはチラッとそこを見るも、立ち上がることはしない。


「…… 全てが片付いたら、もう一度、モニカに気持ちを伝えることにします」

「はぁ?!」


 素っ頓狂な声を上げるリューデリックはカップを手にしたまま、ソファからずり落ちた。


「なんだ?この後に及んで尻込みするなど、俺の知っているクロードではないぞ」

「……事件が片付くまでは、そのように思っていただいて構いません」


 責めるリューデリックから、逃げるようにクラウディオは窓辺に立った。


 本当なら今すぐにでもモニカの元に行って、プロポーズのやり直しをしたい。


 けれど、数日前のモニカの独り言がどうしても引っ掛かってしまうのだ。


『アッセルさんに会いたいな』


 窓の向こうの景色を見ながらそう言ったモニカの顔は、とても切なそうだった。


 アッセルという人物がアッセラム商会のトップであることは知っている。そして、モニカの父と取引相手であったということも。


 ただなぜ、あのタイミングでモニカがアッセルに会いたいなどと口にする意味がわからなかった。


 今、モニカはファネーレ邸にいる。

 そして自分がすぐ傍にいる。頼るべき相手は、アッセルではなく、自分だというのに。


(……自分は、モニカにとって頼れない……もしくは、頼りになる人間では無いのか)


 それに気付いた途端、生きている価値が無いと言われたような気持ちなった。


 哀しみとか遣る瀬無いという感情を超えた何かが、クラウディオの身に渦巻いた。胃の上が、めった刺しにされたかのように痛い。


「春までには…… モニカに伝えます」

「そうか。なら、俺はお前にいじける時間を与えてはやらない。早々にこの件、片付けてやる」


 リューデリックの言葉は不器用ではあるが、クラウディオを思ってのもの。


 それをわかっているが、リューデリックは礼を述べることができなかった。


 自覚した途端、モニカが自分のプロポーズを断るかもしれないという不安を覚えてしまったから。

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