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「───……なるほどね。うん、わかった。ありがとう、モニカちゃん。辛い話をしてくれて」


 サロンに到着して早々、モニカから盗賊に襲われた一件を聞き終えたリックは、生真面目な表情で深く頷いた。


「とんでもありません。……私の話がお役に立てるなら幸いです」


 ついさっきのおちゃらけた彼とは別人のようになったリックに、モニカは丁寧に頭を下げた。


「うん、やっぱ良いね。僕はモニカちゃんのこと一目見て好きになったよ」

「……はぁ」


 ここはサロンであるが、クラウディオが普段使用する狭い場所ではない。


 家具もピカピカに磨き上げられ、天井には小ぶりなシャンデリアがぶら下がっている、上客をもてなすサロンである。


 つまりこのリックという名の青年は、かなりの地位がある者なのだろう。


 身に付けている者も上質なものであり、タイピンは眩しい程に輝きを放つサファイアだった。


 そんな宝石を気軽に身に付けられるということは、きっとお偉い方なのだろう。今のところ中身的には、その要素は見当たらないが。


 だが、そんなやんごとなき方に冗談を言われても、気の利いたことを返せるほどモニカは社交術に長けている訳が無い。


「ははは」と乾いた笑いを浮かべて、聞き流すのが精一杯のお愛想である。


「モニカ、リックの戯言にいちいち付き合うことは無い。嫌なら嫌と言って良いんだぞ」

「……はぁ」

 

 むしろ「嫌と言え」と言わんばかりの表情で、口を開いたのは、モニカの隣に腰かけているクラウディオだった。


「クラウディオさん、過保護すぎぃー」

「今はモニカと会話中だ。黙っててもらおうか、リック君」


 ギロリと睨むクラウディオは本気でムッとしている。


 なのだが、睨まれた側のリックは、さも珍しいものを見たかのような表情で、クツクツと笑う。


「モニカちゃん、このおじさんの家族になるんだよね?今から覚悟しといたほうが良いよ。こういう男はね、理解があるように見えてものすごく束縛が強いんだよ」

「リック君、どうやらまたテンションが上がってしまったようだね。どうだい?ちょうどアリーザが暇を持て余している。剣の稽古などいかがかな?きっと、戯言など口にする余裕は無くなるだろう」

「体力的に喋れなくする方法ってどうなの?!っていうか、僕は多分死ぬよ?」

「安心しろ。おもてなし程度に稽古をしろと命じておく」


 にこやかに告げたクラウディオの目は笑っていなかった。


 そして本気であることを知ったリックは、すぐさまテーブルに並べられている菓子を手に取り頬張った。物理的に黙りますアピールなのだろう。


 そんなやり取りを見て、モニカはクラウディオとリックが気の置けない関係なのだということは理解できた。


 ただリックがどんな立場の人間で、今しがた話していた内容はどんな意味があるのかさっぱりわからない。


「あの……質問をしても、よろしいでしょうか?領主様」

「ちょ、領主様ってウケるっ!……あ、や……ナンデモアリマセン。むぐっ」


 返事をしたのはなぜかクラウディオではなく、リックで。しかもリックは青ざめた顔をしながら、ありったけの菓子を口の中に放り込んでいく。


 喉を詰まらせないか、とても心配である。


 万が一のことを考え、お茶のお代わりを淹れておこうとポットを持った途端、クラウディオに取り上げられてしまった。


「君がそんなことをする必要は無い。ところで質問とは?」


 だだくさにリックのティーカップに茶を継ぎ足しながら促され、モニカは「良いのかぁ」という気持ちを抱いたまま、口を開く羽目になってしまった。

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