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まるで根競べをしているかのようにセリオはいつまで経っても、自分でお茶を淹れることはしない。
もしくは長男はポットを持ったら死ぬとでも教育を受けているのだろうか。
そんな馬鹿馬鹿しいことを考えて見たけれど、あながち間違いではないかもしれない。
それくらいセリオは、頑な態度を貫いている。
ただ正直、セリオが自分でお茶を淹れようが、なかろうがそんなことはどっちでも良い。今すぐ帰ってくれれば。
そして彼が帰ってくれたなら、もう裏口にも門扉にも扉という扉全てに鍵を取りつけようと堅く決心する。
モニカは知っている。
村民から「これだから王都育ちの人は」と嫌味を言われる度に、母が父に頼んで即席の鍵を作って貰っていたことを。
それがしっかり、両親の寝室のチェストに仕舞われたままだということも。
「なあ、モニカ。意地を張るのはいい加減やめるんだ」
「は?」
神妙な面持ちになって口を開いたセリオに、モニカは間の抜けた返事をしてしまった。
お茶ごときで、そこまで重々しい口調になるなんて、さすがご長男様だと内心呆れていた。
けれど、セリオはお茶のことを訴えたかったわけではなかった。
「確かに君の両親が無くなったことは辛いことだと思うよ。僕も不幸な事故だったと思う。でもさ、同情を引きたいからって、こんなふうにツンツンした態度を取るのはやめたほうが良いよ」
─── カチャン
信じられない発言をしたセリオに、唖然としたモニカは、思わず手にしていたカップを滑り落としてしまった。
幸いカップは空で、テーブルにはクロスが敷いてあったおかげで割れることはなかった。モニカはそれを無言で取り上げ、そっとソーサーに戻す。
「……」
(この人、何を言っているの?頭、大丈夫?)
理解の範疇を超えたセリオの発言に、モニカは本気で彼の思考回路を心配した。
でもセリオは、モニカが何も言わないことを良いことに都合良く解釈してしまう。
「君のご両親の葬儀の後、盗賊に襲われたのは砦の警護が甘かったからって村長に詰め寄ったってこと、僕が知らないと思っていた?」
まるで過去の失態を責めるかのようなセリオの口調に、モニカの肩がピクリと撥ねた。
「そんなことをして恥ずかしくなかったの? 村長は優しい人だから、公にすることはしなかったけれど、僕は君の婚約者だからってことで教えてくれたんだ…… まぁ、君の家族は新参者で、村の輪の中に入れて貰えなかったから、将来のことを考えて君が不安になったのはわかるよ。でも気を引きたいからって、砦の兵士を疑うなんてあんまりだよ。あれは不可抗力だったんだ」
「そんなこと、あなたにわかるわけないじゃない!」
激高したモニカの声は震えていた。
いや、声だけでは無い。身体もガタガタと震えている。それほど激しくモニカは怒っていた。
それもそのはず。今、セリオはモニカに対して最大の侮辱をしたのだった。