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YAYOI(下)  作者: 葉月 優奈
四話:忘れ去りたい現実
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数字、頑張る、情報端末、弥生。

僕の頭の中では、いろんなことがよぎっていた。

年が明けて一月、この日は論文を書きに研究所に向かっていた。


四年になると、大学の授業をほとんど受けることはない。

卒研と就職活動、この二本立てがメインだ。

だけど、僕は就職活動する余裕がなかった。いやもう、する必要もない。

奥では夏帆も、パソコンで論文を書いていた。


パソコンに向かって僕が書いていると、いつも通り白衣の男がやってきた。

「やあやあ、草薙君。やっと決心したんだね」

「助教授、ええまあ」

小泉助教授が、笑顔で入って来た。手には美少女フィギュアを持ってご機嫌な顔だ。

そこには、僕なりの考えがあった。その考えを、はっきり口にした。


「僕は、この研究を引き継ぎます」

「おお、ようやく決心したか。嬉しいぞ、嬉しいぞ」

「助教授は、この研究を世に広めたいと。利用者がいて情報端末は初めて意味があると言っていましたね」

「ああ、そうだとも」

「僕なりに考えたのですが、ひっそりと消える人を作りたくないんです」

そう言いながら僕は、ある一冊の文庫本を取り出した。

それは、夏帆に勧められて入った『存在学会』の本。夏帆もそれを見るなり僕の方に近づいてきた。


「人は数字で存在している、人に数字が無くなったら存在できない……」

「なるほど」

「僕の妹は、今もどこにいるか分かりません。義母がずっと探しています、今も。

だけど、そんな人を作ってはいけない。数字をゼロにしてはいけない。

それは、死ぬことよりももっとつらいことだから」

僕は、この研究に対する想いをぶつけた。きっとそれが僕のやりたかったことだから。


「わかった、草薙の気持ちはよくわかった」

「早速だけど、僕についてきてもらえますか?」

「ああ、もちろんだとも。君がこの研究のリーダーだ」

「そうよ」そういいながら、いつの間にか夏帆も僕のそばに来ていた。

自然と僕の前に手を出してきた。助教授も夏帆の手の上に合わせた。


「それじゃあ、草薙君。いや、草薙社長」

「社長としては、未熟だけど」僕は夏帆と小泉助教授の乗せた手に、僕の手も合わせた。


「みんな、僕の夢につき合ってくれ」

「ええ、分かったわ」「もちろんだとも」夏帆と小泉助教授は、同意の返事をしてくれた。


「それより、草薙君。名前は決めてあるのかな?」

「あっ、えと……」助教授の言葉に、戸惑った顔を見せた僕。

「『クサナギエージェント』」

そこに、夏帆がポツリとつぶやく。


「『クサナギエージェント』?」

「ずっと考えていたの。草薙君がリーダーで、エージェントは、『取りつぐ人』。

だから『クサナギエージェント』という組織(サークル)なの。

私もこの卒研で草薙君と繋がれたし、この名前がいいって思っていたの」

夏帆は、すぐさま僕に言ってきた。僕は、その名前を一瞬で気に入った。


「いい名前だ、じゃあ『クサナギエージェント』始動だね!」

それと同時に、僕の掛け声で「オー」とかえってきた。

この瞬間、僕は『クサナギエージェント』の社長になっていた。


「それじゃあ、早速だけど次の段階に行こうか」

「次の段階?」助教授の言葉に、僕は聞き返した。

「専用のソフトだ。これから忙しくなるぞ」

その時の小泉助教授と、夏帆の顔がどちらも明るかった。


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