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あれから二か月、だいぶ暖かく感じられる季節。
僕は、東京郊外のビル内にいた。
今日は、『クサナギエージェント』にとって大事な日だ。
ここは、『ソフトウェア開発会社ナムラコーポレーション』。
そこで、僕はナムラコーポレーションの会議に参加してプレゼンをすることになっていた。
ここに来た目的は、ナムラコーポレーションに専属ネットサイトDEXSYとして契約すること。
僕達のハードの売り込みだ。このナムラコーポレーションは、教授の教え子が幹部になっていた。
コネもあって今日はプレゼンに参加までこぎつけた。
スーツに着替えた僕は、極度の緊張をしていた。
こういう場所は、あまり得意じゃないんだけどな。
不安をかき消すために、徹夜で作ったメモを呼んでいた。
そばにいるのが、小泉助教授。もう違う、小泉助教授ではない。小泉さん、僕の会社の一人の社員だ。
普段着ている白衣ではなく、こちらも白いスーツを着ていた。
なんか、ぽっちゃりしたホストみたい。
「今日は、大一番だな」
「『クサナギエージェント』は羽ばたく。もっと高く」
一点を見据えながら、きのう書いたメモをじっと見ていた。
「草薙、そんなことより今日は大丈夫か?目にクマができているぞ」
「ええ、僕は大丈夫です」
眠くなる目をこすって、小泉さんにアピールした。
「高倉は、遅れて来るそうだ。社長」
「そうか、まあ学会が忙しいからな」
僕は、社長という呼ばれ方はいまだに慣れていない。なんかむずかゆかった。
大学も卒業していないし、社長という言葉に違和感があった。
「それにしても、『存在学会』って?」
「ああ、今度教えますよ。僕も夏帆に学会員ですから。小泉さんも言ってしまえばアニメ学会みたいでしょ」
「まあ、当然。アニメは地球を救うってね」
胸を張って言う小泉さん、やっぱり少し変だ。
でもそうやって小泉さんをいじることで、僕は少し緊張がほぐれていた。
「『クサナギエージェント』さん、出番ですよ~」
そんな時、出番を呼びに若いスタッフが僕に声をかけてきた。
真剣な表情に戻った僕は、それを見て頷いて歩いていた。
会議室には、多くの幹部クラスの人間が僕を見ていた。呑まれそうで、怖かった。
客席にはスーツを着ている企業の幹部クラスが、僕に注目していた。
その視線に少し圧倒されたけれど、僕は軽く深呼吸をした。
中央で、一礼したのち、
「初めまして、『クサナギエージェント』です。平見大学の研究室で、現在活動しています。
現在、情報端末の研究をしまして……」
僕は、メモを見ないでなるべく前を見て話す。
一度話し始めれば不思議と緊張感が無くなって、すらすらと言葉が出てきた。
「この端末は、ネットワークに対応していて、将来的には音声で動きます。CPUは……」
持ち時間は十五分、でも一週間かけて原稿を作った。
このプレゼンは大事だということを、僕は充分知っていた。
成功させて、この端末を売り出すんだ。
だけどそんな演説中、僕は不意に体が重くなるのを感じた。
(あれ、おかしいな)
喋りながら、不意に目の焦点がぼんやりとしていた。
何を言っているのか、だんだん分からなくなって、見えた人間の顔がかなりぼやけていた。
(もう少し、もう少し)
頭の中で、言い聞かせながら口を動かして自分の考えを必死に伝えていた。
だけど、そんな自分の頭の中がぼんやりとしてめまい。そのまま、僕の目の前が真っ暗になった。
最後にドサドサっと音がして、「なんだ、どうした?」と声が聞こえてきた。
そのあとは、意識がなかった。闇だけが、広がっていたから。




