表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
YAYOI(下)  作者: 葉月 優奈
四話:忘れ去りたい現実
10/34

10

あれから二か月、だいぶ暖かく感じられる季節。

僕は、東京郊外のビル内にいた。

今日は、『クサナギエージェント』にとって大事な日だ。

ここは、『ソフトウェア開発会社ナムラコーポレーション』。

そこで、僕はナムラコーポレーションの会議に参加してプレゼンをすることになっていた。

ここに来た目的は、ナムラコーポレーションに専属ネットサイトDEXSYとして契約すること。

僕達のハードの売り込みだ。このナムラコーポレーションは、教授の教え子が幹部になっていた。

コネもあって今日はプレゼンに参加までこぎつけた。


スーツに着替えた僕は、極度の緊張をしていた。

こういう場所は、あまり得意じゃないんだけどな。

不安をかき消すために、徹夜で作ったメモを呼んでいた。

そばにいるのが、小泉助教授。もう違う、小泉助教授ではない。小泉さん、僕の会社の一人の社員だ。

普段着ている白衣ではなく、こちらも白いスーツを着ていた。

なんか、ぽっちゃりしたホストみたい。


「今日は、大一番だな」

「『クサナギエージェント』は羽ばたく。もっと高く」

一点を見据えながら、きのう書いたメモをじっと見ていた。


「草薙、そんなことより今日は大丈夫か?目にクマができているぞ」

「ええ、僕は大丈夫です」


眠くなる目をこすって、小泉さんにアピールした。


「高倉は、遅れて来るそうだ。社長」

「そうか、まあ学会が忙しいからな」

僕は、社長という呼ばれ方はいまだに慣れていない。なんかむずかゆかった。

大学も卒業していないし、社長という言葉に違和感があった。


「それにしても、『存在学会』って?」

「ああ、今度教えますよ。僕も夏帆に学会員ですから。小泉さんも言ってしまえばアニメ学会みたいでしょ」

「まあ、当然。アニメは地球を救うってね」

胸を張って言う小泉さん、やっぱり少し変だ。

でもそうやって小泉さんをいじることで、僕は少し緊張がほぐれていた。


「『クサナギエージェント』さん、出番ですよ~」

そんな時、出番を呼びに若いスタッフが僕に声をかけてきた。

真剣な表情に戻った僕は、それを見て頷いて歩いていた。


会議室には、多くの幹部クラスの人間が僕を見ていた。呑まれそうで、怖かった。

客席にはスーツを着ている企業の幹部クラスが、僕に注目していた。

その視線に少し圧倒されたけれど、僕は軽く深呼吸をした。


中央で、一礼したのち、

「初めまして、『クサナギエージェント』です。平見大学の研究室で、現在活動しています。

現在、情報端末の研究をしまして……」


僕は、メモを見ないでなるべく前を見て話す。

一度話し始めれば不思議と緊張感が無くなって、すらすらと言葉が出てきた。


「この端末は、ネットワークに対応していて、将来的には音声で動きます。CPUは……」

持ち時間は十五分、でも一週間かけて原稿を作った。

このプレゼンは大事だということを、僕は充分知っていた。

成功させて、この端末を売り出すんだ。


だけどそんな演説中、僕は不意に体が重くなるのを感じた。

(あれ、おかしいな)

喋りながら、不意に目の焦点がぼんやりとしていた。

何を言っているのか、だんだん分からなくなって、見えた人間の顔がかなりぼやけていた。


(もう少し、もう少し)

頭の中で、言い聞かせながら口を動かして自分の考えを必死に伝えていた。

だけど、そんな自分の頭の中がぼんやりとしてめまい。そのまま、僕の目の前が真っ暗になった。

最後にドサドサっと音がして、「なんだ、どうした?」と声が聞こえてきた。

そのあとは、意識がなかった。闇だけが、広がっていたから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ