第8話 結局、顔も知らない他人でしたの
先日、お母様が死んだという報告を受け取りましたの。
……昨年5月の魔王軍迎撃戦で死んだのですって。
確かに、手紙のお返事がなかなか帰ってこないなとは思っていましたの。
それにしたって、実の娘に半年以上その連絡をしてこないのもどうかと思うのです。
これが、メリーが来る前のお話だったらわたくし、すごく落ち込んでたんだと思いますけれど……。
「ルテ、大丈夫ですか?」
「んー、わたくし、物心ついた時から手紙でしかやり取りがありませんでしたし……。結局、顔も知らない他人でしたの。特になんとも思いません」
だって、わたくしにはメリーがいますもの!
いつも一緒に居て、いつも一緒に笑ってくれる大好きなメリー。
メリーさえ居てくれれば、わたくしは他に何も必要ありませんの!
だってメリーはわたくしより頭が良くて、わたくしより強くて、わたくしより可愛いんですもの!
それに、どんなに困ってもメリーが居れば全部解決してくれますの!
メリーさえ居れば、《《花眼を持ち》》、《《9歳で魔法が使えるようになった天才》》の兄にだけ愛を注いで娘の存在すら忘れてしまった父親も。
娘との手紙の内容が半分以上その兄がどれだけ素晴らしいかを占めていて、娘のことなんてちっとも気にしていない母親も。
きっとおそらく、妹が居ることすら教えてもらっていない兄も必要ありませんの!
メリーの判断で親にはわたくしが魔法を使えるようになったことを教えてないのですけど、それで良かったと思います。
ああ、大好きなメリー。
ずっとわたしくしの事だけを考えていて欲しい……。
だから、メリーが少しの間お家へ帰ると言い出したので着いていくことにしましたの!
アイゼンヴァルド伯爵家……。
ふふっ、メリーが小さかった頃のお話とか聞けそうで今から楽しみですの!
わたくしの離宮から車で1時間。
メリーのお家へ到着しましたの!
「ではリシェルテ様、お手をこちらへ」
ふふふ、車から降りる時もメリーがエスコートしてくれましたのよ?すごくかっこよかったんですの!
でも……。
「ようこそいらっしゃいました、リシェルテ様。……そして、おかえり。ジェイドメリア」
アイゼンヴァルド伯爵から声をかけられてちょっと嬉しそうにするメリーが、すこしだけ、嫌でした。
「ルヴィエッタもお前が居ない間に練習した手料理を食べてもらおうと朝から張り切っているんだ。……多少好みに合わなくても美味しいと言ってあげてくれ」
「はい、お父様。……お母様、不器用ですものね」
気安い感じで、すごく、仲が良さそうで……。
わたくしの親は《《あんなの》》なのに……。
胸の奥が痛くて、思わずメリーの腕に抱きついてしまいましたの。
わたくし、もう9歳ですのに恥ずかしい……。
「……大丈夫ですよリシェルテ様。私はリシェルテ様を家族だと思っていますから。大事な大事な、私の家族ですから」
でも、そんなわたくしにいつもメリーは一番欲しい言葉をくれるのです。
ああメリー、メリー……。
だから、頑張って色々お勉強して……。
《《何があってもメリーと離れないで済む方法》》をずっと探しておりますの。
どうやら、《《普通の結婚》》は同性同士ではまだちょっと無理なようですし、なにか特別な理由が必要になるみたい。
一応、何代か前のアトランティス王が緊急措置として男性を王妃扱いで結婚したというお話が残っていて、希望は確かにありますの!
もしメリーと結婚できるのでしたら、わたくし王様になったって構いませんの!
王様、危ないお仕事だから怖いってメリーはいいますけれど、わたくしとメリーならきっと大丈夫ですの!
でね?メリーの実家、アイゼンヴァルド伯爵家でしばらく過ごしたのだけれど……。
「まあまあまあまあ、リシェルテ様は大変可愛らしいのね!うちの子とは大違い!ほら、おやつはまだありますよ?たんと召し上がれ!」
「お母様!リシェルテ様にこれ以上おやつを与えると晩ご飯が食べられなくなってしまうのでダメです!」
「……すみません夫人、わたくしメリーの言う事に従いますの。パウンドケーキ、美味しかったのですけど」
「あらあらまあまあ、夫人なんて他人行儀な。メリーちゃんより小さいんだから、もっと甘えていいのよ?アルトシュリア侯爵様達はリシェルテ様の存在を忘れてしまっているのでしょう?なら、うちの子になっちゃいなさいな。お母様って呼んでもいいのよ?」
「ちょっ!お母様!?」
……なるほど。
「わかりましたの!《《お義母様》》!」
「ルテ!?」
これが、外堀を埋めるという事ですのね!?
いえ、そうではなくて。
本当に、実の娘であるメリーと、いえ、メリーよりも大事に大事に可愛がられましたの。
メリーや、離宮の使用人達からは大切にされているのを知っていますけれど、こんな《《遠慮のない優しさ》》は初めてでした。
ああ、本当にいつか、《《お義母様》》と呼べたらいいのに……。
☆★☆
もしもし、私メリーさん。
今、今世の実家にいるの。
……はい、ルテが母親死亡を半年後に知ってショックを受けるトラウマイベントのダメージを軽減するためにですね?
超絶おせっかいで人の良いこの世界でのマイマザーの所へ連れてきたのですが。
なんかこう、その、そもそもあんまりダメージ受けてなかったっぽい様子でして。
しかも、マイマザーとめちゃめちゃ意気投合して私に対する愚痴を言い始めてですね?
やれ年相応の可愛げが無いだの、やれ服のセンスが地味すぎるだの。
しょうがないじゃないですか!こちとら前世と合わせるとマイマザーより年上なんですよ!
今更フリルたっぷりのひらひらお洋服なんて着られません!
っと失礼、動揺してました。
いえ、ルテが私と二人っきりの時とはまた別の、物凄く屈託のない笑みを浮かべているのでとてもかわい……、ではなく、とても良かったです。
これで第二のトラウマはなんとか出来たと思っていいんでしょうか?
まあ、アレだけ無邪気に笑ってくれてるので大丈夫なのだと思いましょう。
無事、あの毒父親の存在がルテの中で小さくなっていってる様子ですし。
離宮の使用人一同と連携してルテが5歳で魔力覚醒した事を親へ伝わらないように仕組んだのはファインプレーだったと思います。
未熟児で生まれると魔法の制御が致命的なほど下手になる、なんて確度の低い情報を信じちゃってそこそこ優秀な息子の方しか目に入らなかった毒親なんてルテの人生に関わるべきではないのです。
……で、これでルテの悪役令嬢化する前提条件となるトラウマは残り1つになりました。
5年後に魔力属性登録と寓話兵装獲得のために登城するイベントですね。
そこでなんやかんやあって第二王子の炎の魔法に灼かれてキズモノにされた挙句、責任を取るとかいい出した王子に無理やり婚約者にさせられるという事件です。
そこさえなんとかクリアすれば、お互いに顔がバチクソ好みな聖女と出会って恋に落ちて百合ハッピーエンドルートに乗るはずですから。
ルート分岐条件はそもそもルテと聖女が出会わないことなので、ここも聖女の行動パターンが私の受けた電波通りなら問題ありません。
シナリオはアホみたいに全部上手くいくハピエンになってるはずなので、ルテの幸せ目指して頑張りますよぉ!
……ところでリシェルテさん?ご自分のベッドは隣の部屋ですよ?
「今日は寒くてしかたがありませんの。わたくしはメリーで暖をとりますの」
左様でございますか。
……寒いなら服を着て寝てくださいよぉぉぉぉぉ!!!!
☆★☆★☆★☆
普通は9歳で魔力覚醒したら天才なんすよ。
通常は10歳以上になってから覚醒ですからね。
5歳で?
……神か悪魔かってとこじゃないっすかね?
ということで、次回は5年後の二人。
更新予定はザンッギョさんに襲われなければ6月11日の21時です。
ザンッギョさんに襲われたら13日の20時ですかね。
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