第97話「起・午前0時」
「あのさオーバーリミッツ、もしかしてストレスを与えれば漫画を描くと思ってない……?」
「え? 違うの?」
「違っげぇー!? 言ったかもしれないけど書いてねえぇ!?」
オーバーリミッツが電車にやってきた。図らずとも、女性陣ばかりになってしまっている、男性陣も有用な役職を任せないとこちら側は回らなさそうである。
「あのね良い? リミッツ、私が欲しいのは内圧、内側から湧き出るストレスの事で。外圧、外側からのストレス的圧力じゃないの。そもそもストレス=気圧じゃないし。イライラしながら全部の作品描いてたらつまらなくなるよ……」
外圧は外側から人意的な意味での圧力であり、主に実在する人物からのプレッシャーが入る。これは最悪の場合、巡り巡って今現在の原稿の破壊をもたらす。標的は実在する人間をイメージしてそのストレスを原稿に叩きつけるので基本的にメタ的になり、それをそのまま自己投影するとつまらなくなる。
内圧は自身の内側から湧き出る自己中心的な圧力、主に実在しないキャラからの感情移入とプレッシャーもある。この場合、ネタの長期保存や未発表の期間が長ければ長くなるほどその圧力は高まる。要するに「速く発表したい」という衝動系が内圧。発表されていないのでキャラが実在しておらず、純粋な悪としてノンストレスでキャラに感情移入できる。……この場合はストレスと悪に限定しているが、別にストレスだけの感情で作画はしていない、色々な感情を原稿に叩きつけて最終的に疲れ果てて寝る、は経験済みである。
「まあだから、SNSのリツイートやいいねは解んないけど。……普通に呟いた発言は仮想の敵として退治するのはありなんじゃないかな? もし外敵を作りたいのならの話だけど……」
「その外敵は〈関係ない〉に入る? ここ重要なんだけど?」
ギリギリの隣人でまた誤射したら隣人としてはたまっったものではない。間接的じゃなく直接的に被害が出てしまう。
「あーえー……、関係ないようにこれから頑張る……??」
SNSでの自身の発言はほぼガス抜きと同じなので、内圧を高めようとするならばそれは悪に入るはずである。ならば作品になる前のネタの放出はガス抜きになるので。ほぼ無意識での発表であり仮想敵としてはもってこいという意味には一応なる。毎日敵を倒したいのならばの話だが……。
「わかった、ふつうの言い方になるけど善処します」
流石に直接的に唯一無二の原稿を破壊してしまったので反省したようである。
◇
クールマにご飯を食べさせたら桃花が反動で2日間行動不能になってしまった。仕方なく亜空間歴で2ターン消費する、ここでは1アクション5秒なので10秒消費して戻ってきた。
「全体で動いちゃうからコピーだと解ってたとしても混乱しちゃったよ……」
コーヒーを飲んでいて、心のリミッターも外れやすくなって興奮状態だったのもいけなかった。
そして解ったこともある。無いも同然の状態だとこの世の写し世は作れない。つまり写し鏡の件だ、写し鏡は有るものじゃないと写せない。特に午前0時に事象全体の回復が起こる性質上、午前0時に有るものじゃないと世を写せない、という文言になる。
「確かに午前0時だとパソコンも消して寝てるから、その状態で写し鏡が自動で発現したら無いものは写せないって事になるね」
だから咲の単行本が1巻2章までになっている。午前0時に確かに咲の原稿の写しは有るが、本じゃない紙なので、コピー本のみが反映された事になっている。
そして、昔はジャンプ雑誌の本が氷みたいになっていて、いきなり無くなる事に対しての混乱状態を徐々に溶かしてゆき、その影響を最小限にしてた可能性がある。
この場合のジャンプ雑誌とはアナログの実際に有る本の事である。デジタルのジャンプ雑誌は午前0時には所持しているが無いので、影響の回復や写し鏡の効果外になってしまった。
だが、桃花が薬を飲んでからというものアナログのジャンプ雑誌には反動がある。デジタルのように無反動という理由にはいかない。
ただし、その恩恵はでかい。
原本である情報源ではなく、コピーされた仮の情報源が現し世を代わりに作ってくれるのだ。よって直接的な邪魔は入らないことになる。あくまでも間接的、その恩恵による反動なら受け入れた方がいい。これは魔術サイドの話だと思われる。
「まあ小難しく話したけど、昔に戻ってアナログのジャンプ雑誌を買えばこの件は治まる訳でしょ? 次の世代は解らないけど、私の世代はそれでいいや」
何より昔に戻るだけなので桃花としては何の抵抗もない。あるとすれば薬による副作用〈反動〉ぐらいだろうか。
で、ここで桃花はある考えに行き着く。
「それってさ、レシートの〈有る無い〉も反映されるってこと? つまり食料・間食のこと」
桃花が言っているのは個室であり心室である元の世界である1室のみの話である。
+ここまで、湘南桃花は自分が家計簿に記帳しないと言う理由でコンビニで買った食べ物などのレシートはいらない、と思って寝室に所持していない+
これがつまりどいう事かというと、レシートが仮にもし午前0時に存在していたのなら、雑誌の法則同様、有る物として反映され現し世にコピーできる、という意味になる。これは桃花が前から深く疑問に思っていた徐々に貯金が下がっていく現象。
本来、最果ての軍勢も今は居る状態で、螺旋の効果もあるのならそれは上昇効果が働いているはずだ。にもかかわらず桃花の生活は下降している。それは〈午前0時に無かったから写せなかった〉ということにも繋がる。
つまり必要なはずの食料〈商品名や値段など〉が欠けている状態で世界がコピーし続けた事になる。だからおかしな価格変動や給料に疑問の差額が発生していることになる。時計はただ淡々と善悪など関係なくコピーし続ける……、そこは聞いていないが、まあ譲れる範囲と判断したとしても。
これまでの情報を繋ぎ合わせると。〈元ネタの世界はここに1つしかなく〉〈午前0時に有るか無いかの判定が行われ〉〈別の場所にコピーしたもの、並行世界はどの世界も同じ〉つまり、桃花が外食・間食して食べた分のカロリー計算や値段計算は〈回復しない〉、何故なら心室に午前0時に無いから……みたいな繋ぎ方になってしまう。
「でなければ、現代日本で未だにレシートが印刷されている意味が解らない。とっくの昔に無くなっているはずなのにいると思われているから印刷され続けている……その何故? がやっと解った。魔術サイド同様、作品とは関係なく、漫画雑誌同様、ただ心室に午前0時にあればコピーできて代わりが作れるから!」
GM姫は一応まとめる。
「えっと、つまり、身代わり……?」
本体に影響が出ないように進行しているのを考えると、その隣、簡単に言うと皆が写せない、みたいなニュアンスになるのだろうか?
「で、いままでの感じからすると。〈これはおかしいよ!?〉って否定するより、姫ちゃんが決めたほうが良いと思う」
GM姫は物理法則の件かと、遠ざかった思考を元に戻してリスタートする。
「ふむ、決めて良いことか……別にいいか……。ただ言いたいことが多すぎたから今回は簡潔に言うぞ。【午前0時に個室である心室で有り無し判定が行われる】、コレくらいなら言ってもいい。だが今回はここまでだ」
で、もう一度回りをよく見渡して……現状、2010年や2012年あたりで混乱が発生しているのだな、と何となく感じる。
「まあ桃花だか群だか知らないがアレだ。お前たちの場合はどれだけ世界の回りを良くしようが、どれだけ作品の品質を上げようが、経験上友達は増えないからな? ゆっくりカードゲームショップに行ったほうが良い」
どれだけ間接的にフォローされようと、直接的に友達が増えなきゃ、この不幸のサイクルからは抜け出せないと思えた。
これが個人の作品を優先した、世界の悪意を善意で回そうとした代償なら。
社会人になってから新しい趣味の友達が一人も出来なかった代償なら、自然に考えてそうなのだろう、と思えた。
「よし、ここらで休憩だ。電車を止める。プラネットコアサーバーも停止する、各自自由時間だ。インターバルに入る」
そう言うと、電車はゆっくりと旅の疲れを癒すように停車した。




