第60話「結・精神と時の部屋」
GM姫はアカウントカードの準備をしながら、次のゲーム進行。特に小説執筆時間と漫画制作時間の摩擦をどう処理するもんかと悩んでいた。
解説すると。基本的に湘南桃花や普通の人間にとっては単一の時間であっても、中……もっと言うと個々作品で流れる〈中界〉で流れる時間が違うからだ。
今の例ですると、例えば小説版EWⅡでは今現在歴2030年4月あたりに居るが。漫画版では2029年も実はまだ過ぎていないのだ、桃花が応急治療をする完成原稿の前なので今現在歴は2029年となる。
もっと言うと先の時間を進んでいるプロットの時系列では今現在歴2011年で神楽スズ〈桃〉がネットワークに繋がっていない事が明らかになっている。大きな意味、マクロ的に見れば年単位でズレがあるが。これを多世界解釈の〈今はスキルのクールタイムが2倍増えているデバフ状態〉という良い感じのフレーバーテキストを混ぜていたのは感心するが。現状、その数字は正確とはいいずらい。
確かに〈時間が延びた〉という意味ではそうなのだが、実際はもっと数字が伸びている。もっと時間を消費している。といういい方の方が正しい、仮に眠れないと困るので電力を使わない〈精神と時の部屋〉状態にしたとしても。
クールタイム7/7日とか、現実世界の7日後じゃないと回復しないとか。そういう単位になってしまう。
締切り時間を決めるのは好きじゃ無いが、そういうスキルの数値設定なら大歓迎だ。
例えば一番速い小説執筆の場合、1話あたり寝て起きて執筆さえ始めてしまえば2時間やそこらで2000文字は軽い。
よって睡眠時間であるクールタイム8時間というのは理想と言えば理想。
現実問題、漫画の完成原稿には1ヶ月で1ページかかってしまっているが。前準備はもっとかかっている。理想で言えば1週間、7日間で1ページは完成させたいところだろう、それ以上だと流石に遅い。
例えば、スキル斬空剣1.3/1.3秒という数字かあったとしよう、数字は嘘をつかないからその字面だけ合っていればいいし。秒や分や時は変えても問題ないし小数点や130秒でも確かに問題ない。
だが問題は、現実世界の時間、小説世界の時間、プロット世界の時間、完成原稿の時間がズレているところだ。
咲は姫の言いたいことを羅列されたのでまとめる。
「つまり、世界の処理速度ってことか。何秒待つとか何時間待つとか何日待つとか、%でもいいけど」
外界で起こっている、処理速度の攻防としては。
重い事象〈漫画の完成原稿など〉を世界にアップロード/ダウンロードしている最中は、処理に全振りするためキャラクターが完全に無防備になるというルールの導入。「この特大魔法のダウンロード完了まで残り168時間(7日間)! それまでサーバー〈術者〉を死守しろ!」という、タイムリミット型の熱い防衛サバイバルバトルが成立。とかここら辺だろう。
つまり求められているのはクールタイムというより術の発動までの処理速度の可視化だろう。そもそも制限時間が無く、破ってもペナルティが無いこの状況下ではタイムオーバーは無い。
今の処理速度30%……、とかそんな感じの。
そもそも現実世界の時間に合わせる必要は内界には無い。別に1時間は30秒とか独自のルールを作っても良いのだが、現実に合わせると、という意味になってくる。
「あとさ、小説執筆も漫画制作も、実際の作業に入っちゃえば約2時間で終わっちゃう訳だからさ。分刻みでも120分だから、スキルで言うなら処理速度120秒とかそんな感じじゃないの?」
姫は咲の言うことに、そういえばそうだ、と思った。別のやっている事を全部切り捨てれば実際に作業をしている時間はもっと少ない。実際にスキルや魔法を詠唱している溜めの時間さえ計れれば良い訳だから。ファンタジー風に言えば詠唱時間や、この場合、声質は発していないのだから術式処理時間とかになる。
この執筆という観点から言えば、一度作ってしまえば〈跡が残る〉ので、最初からやり直しというのとは当てはまらない、つまり処理は中断しても積み上げられる。たまに根底からやり直しになるが。
「ふーむ、世界観の相互共有は難しそうじゃが。複数のスキルの処理速度の可視化は出来るか……」
例えば今は不格好に、プロット10話、ネーム3話、完成原稿0話という世界観も何も無い無機質なデータになっているが。豊穣の実10個、エリクサー3本。とかやりようは有る訳だがしていない。
「ん~この場合、小魔法・中魔法・大魔法・極大魔法。の方がやりやすいかな、しかも連発不可の単発火力特化型」
「あーやっぱ大砲になるのか……」
咲が言いたいのは、本編の小説が小魔法、プロットが中魔法、ネームが大魔法、完成原稿が極大魔法。といった区分だろう、……それにしても連射は出来ず。単発発射してリロード・装填しなければならず、かなり燃費〈作画カロリー〉が高い。
咲の戦術のメインは小説なので、タイピング〈1文字単位〉の連射式小銃〈アサルトライフル〉でバンバン撃って、完成小説〈手榴弾?〉をドカンと投げてヒット&アウエイしているような感じだろうか。
「あーじゃあアクセスゲートブラックシータの戦闘システムとはちょっと違うな。何か名前考えるか」
「だねー、ほとんど作業工程を軸にした戦い方だね」
姫は咲にそう言って、とりあえず桃花先生を呼んだ、デジタル作画の第一人者に桃花先生は外せない。
「呼ばれた。えーっと作画担当ってことでいいよね?」
「そうですね、私が小説担当で、桃花先生が作画担当の戦闘模擬戦です」
「ちなみにゲーム名はまだ決まってないな」
とりあえず名前も決まっていない新しい戦闘システムの言語化から始める、言語化出来なきゃ絵にも描けないからだ。……絵描けるけど、それだと感覚で描くことになるので、誰も言語化出来ず再現性が低い。個人技の独走状態になるからだ。
「おーけーおーけー、模擬戦ね。なら魔法は使うよ」
桃花先生も生徒のためと頑張ることにする。異種格闘技戦の小説魔法剣士VS漫画魔術師先生だ。
GM姫が戦闘の合図をする。
「じゃとりあえず何かはじめーい!!!!」
ドアの世界外側で名前も無いゲームが幕を開けた。
この戦闘システムでは作業制作に重きを置いている。故に作業工程と作業時間が結構シビアだ。
まずは咲が魔法の剣を両手で持ち、小魔法の連射を雨アラレのように連射する。属性は何でも良かったが今回は水属性のようだ。
対する桃花は結界のバリアを設置して周囲を囲む。あまり動かないがレイヤーという、点ではなく、面を描くので射程範囲が広い。そして描くのは線なので剣撃の弧のような動きをフィールドに描く、戦闘フィールドをキャンパスに見立てた魔法範囲攻撃だ。
咲は小走りしながらスピードで翻弄するが、決定打に欠ける。唯一の手榴弾もけん制にはなるが、やはり倒すには至近距離まで近づいてヘッドショットで小連射するのが一番ダメージが食らうだろう。
問題は桃花先生の異常な回復力とタフさと〈全くブレない〉という安定性だろう。足場をきっちり土台固めしているせいで、多少の小言じゃビクともしない。
結界に守られている桃花先生は咲に向かって今度は攻撃体勢で言う。
「来ないんならこっちから行くよ」
咲はこれでも攻撃してるんだけどな、と思いながら先生の攻撃を受けて立つ。
手から出したのは魔法の本。そこから、既に描き終わった情報をダウンロードして読み込む。
「ブック。……ん~そうだな〈謎の乱気流〉オン」
すると、戦闘フィールド全体に嵐がやってきた、謎の乱気流が飛行タイプを守る。咲はその風に翻弄される。そこへ先生は瞬間移動し。
「黒閃」
黒い閃光、通常の線を一線、咲本体目がけてとりあえず放ってみた。
流石にただの一本線だけなら咲でも対処出来る、ダメージはそこまで無い。先生が気にしていたのはその後のクールタイムだった。
名前◇黒閃
処理速度◇速い
解説◇普通のキャンパスに1本線を引くのと同等の威力であり全ての基本、最近は線を引いた後長押しストップすると綺麗な曲線に直してくれる〈補正〉もバージョンアップしている。
「うーむ、流石に時間的数値を測るのは苦手かー」
桃花先生はそう言う。もともと素早さに数値を乱用しない性格なので、秒単位での数値入力はやはり実戦では不向きなのだろう。……、でもだからといって数値化が言語化の世界で全く使われていないという訳では無い。
「ではこう言うのではどうかな? 黒閃2!」
「!?」
咲が驚愕と共に目を見開いた。さっきは1本の線として閃光を飛ばしてきたが今度は〈形〉を作っていたからだ。だが何という事は無い、ただのロゴマークだ、多少お箸を持てれば、誰にでも出来るレベル。
「じゃ本番。黒閃3!!!!」
「ぬおおお!?!?」
最初の黒閃の3倍の威力に跳ね上がった。やったことは単純、〈形を3次元〉にしただけである。いわゆる消失点つきの立体を紙面・キャンパスという名のフィールドに形作っただけの。絵描きにとってはごくごく普通の当たり前に出来る基礎中の基礎。
黒閃1はただの意味の無い線。
黒閃2は2次元の形作り。
黒閃3は3次元の形作り。
やっている事は単純だかが、ちゃんと揺らがぬ数値が入って、それに意味を持たせている。
「そっれが出来るなら私だって!」
咲も咲で小説での戦い方を見せる。
通常の両手剣による小魔法の連射。元々連射精度は最初こそぎこちなかったが。アホほど練習したせいで、今じゃもうかなり優秀になった。だが、剣にあるプログラムを組ませたお陰で。その精度と連射速度が倍ほど上がっているのだ。
そう、AIである。
「私は基本、両手持ちの〈連射1〉の性能。それをアホほど訓練したお陰で理解力と文字の練度が数段上がっている!」
この時点で咲の通常の小説の性能としては。
両手1
連射1
理解力2
文字練度3
などを組み合わせて戦う戦術だというのが解る。そこにAIが入って来ている。文字の世界で戦って来た咲にとって、AIの装備はアナログ連射にこそあまり使えなかったが。それでも余りある知らなかった情報を収集して自分のものに出来るのは至福の喜びだった。
ここにAIが装備されて〈課金制&ネット依存〉更に精度が上がる。
〈現在の咲〉
両手1
連射1
理解力2+1
文字練度3+1
AI2
普通にAIとQ&AをするだけならAI1でも良いが、咲はもう姫と一緒にプログラミングも組める技量になったので初心者ともいいずらく。控えめに言ってAI2としてみた。
そこだけ見ると桃花も咲もシステムによるアシストという恩恵は受けているのだろう。
更にもう一つ特筆すべき点がある。
両者とも幸運値がバカ高い点。
創世源種の特権かもしれないが、この種族は〈自分で選択〉したものなら、だいたい〈何やっても当たる〉という性質がある。
即ち、咲も桃花も、術が発動すれば。ほぼドコからの距離だって当たる。
特に連射の得意な咲にとっては。例え反対方向を向いていようが、追尾効果と幸運値でターゲットをロックオンさえすればドコからでも当たる設計になっている。
咲&桃花
追尾効果1
幸運値3
「うひゃー! 追尾効果厄介すぎる!? 障害物あってもすり抜けてくる!?」
桃花もコレにはびっくりで、結界が強固だし、小手先の弱攻撃連射だったから良かったものの。これが実弾だったらたまったものではない。
流石に速さと練度では咲には勝てない。
「じゃあこれで終わりにしますか……! 右手に1点集中! 黒渦!」
言って桃花は自身に強固なバリアを張り、フィールド全体にブラックホールばりの引力を中心に向かって引き寄せた。当然追尾誘導している弾丸は元から全部桃花に当たるのだが、それ以上に咲本体も中央に引っ張られる。
超引力で引っ張られるので咲には成すすべがない。
「座標移動でテレポートするか!? いや、時間は向こうの味方だ! 時間を引き伸ばしたら向こうが有利になる!」
つまりこの状況下で桃花の威力を最小限にするには時間を与えないこと、貯めさせないこと。となる。
「当たりに行くしか無い!」
今度は、反発して逆方向に向かうのではなく自然のままに中央へ全力疾走する。しからば中央攻防戦。そうするに右手のソレに当たらなければ良い。
「せーっの!」
「うりゃ!」
そしてその刹那。右拳が地面へ激突、貯めに貯め込んでいた力が一気に爆発して地殻変動が起こる。地震だ。
右拳の限界ギリギリまで近づけられた咲は、右へ高速回転して力をグルグルと受け流す。そのまま地面の影響を受けない天へと右回転しながら飛ぶ。
当たったか当たらなかったかと言えば当たっている。
何とか咲の意識は残っているが果たして……。
両者再び地面に足を付き距離を取る。GM姫は「そこまで!」と戦闘終了の合図をする。
「ん~、私達がクールタイムや処理速度とか考えてもあんまり意味無かったわね」
「ん~、ですね~。技量にレベルの数値を入れるのはアリでしたが。処理速度の数値計算とかは内界ではなく外界の仕事かもしれませんね」
実戦で試してみた感想としては、個々のスキルの処理速度というより。技量レベルの数値しか内界では意味を成さないし、そもそも待つ必要がない事が解った。内界は常に動いているので、待たされていると感じている外界へのいつまで、などの時間的数値は、技量の数値で計算や逆算してもらうしかほぼ方法が無いという結果が実戦で解った。




