爆走する最終兵器
「ぶべらっ!?」
そりゃあ、見事に。無様にぶっ飛んだ。そりゃあの脳筋馬鹿の馬鹿力。無茶苦茶な怪力してるのはわかっていた。
「っよし!! いえーい!!」
「いぇい!!」
天羽さんとハイタッチしたそいつを首──あ、思ったほどに痛くもないけど動かない。仕方なしに目だけで見る。
視界良好、頭痛は外傷的な理由で痛い。首はもっとヤバい。だってちょっと分からないんだもん。
「へーきか? 手加減はしたんだけど」
見下すように……いや、見下してはいないが、手を差し伸べたりもしない。腕を組んで上から見ていた。
「ぜんぜん平気じゃねえよ、首が……」
「大丈夫? 記憶とか戻った?」
「寧ろこんなの、記憶が吹っ飛ぶだろ」
「───あら、同感ですわね。わたくしもそう思いますわ」
「芳堂さん……?」
「取り敢えず、貴男は自分の行いを振り返って見ると良いですわ」
「……悪意的な言い回しだ……な………!? そういうことかよ!? ありがとう天羽さん!!」
「いーってもんよ、私がやったんだからな!!」
「君に言ってるんじゃ無いでしょ……」
天羽さんが呆れていた。
「つか! お前! 御守りまた盗んだのかよ!?」
「悪ぃ悪ぃ、ははっ、どーも使いたくもなかったみてーだから盗ってやったぜ?」
「……それ、感謝しづらいと思うよ??」
「取り敢えず……天羽さん、持ってるんだよね」
「あれこの流れで何で私が持ってると思ったの? 凄いね」
そう言って天羽さんは俺に御守りを手渡す。さっき見えた黒い奴はやっぱり御守りだったのだろう。殴られた辺りで視界は正常なものに戻った後は見えなくなったが。
「と言うか芳堂さんなんでいるの?」
「わたくしが聞きたいですわ」
「友達じゃない人には頼めないし……」
天羽さん、それ友達なら実験体にしていいよねって言ってるのかな? あの女が芳堂さん殴ってこの異常状態の解除が出来るかどうか試したんだよね???
「そう……?」
友達という言葉でぼっちは騙されたようだ。少し照れたように顔を逸らす。勿論天羽さんにも悪意はないので、変な受け取り方をしているのは俺だけだろうが。
「まあ、網地さんが本当にそんな事できるのか、分かんなかったんだけどね……てへ?」
てへ、じゃないと思う。
「……良いですわ、別に」
芳堂さんはちょっと不機嫌になった。
「………で、説明してもらえるかな……説明できる人いる??」
「私! 私説明できる!」
「天羽さん? お願いします」
「うんいいよ────」
詰まるところ、あの女性がある物を砕いた後、幽霊が暴走した。そういうことらしい。辺り構わず取り憑いて、高校そのものが霊的障害が起きる空間に早変わり。霊の影響を受けて、生徒の殆どが夢遊病のようになり、尚且つ一日が経過していた訳である。
「───って言うことらしいよ。網地さんの上司さんの話だとね」
「それ、大薙さん?」
「違う女の人だったよ」
「だからオーナギに状況判断が出来るわけねーだろ?」
「網地さんは取り敢えず体ほぐそっか? 重要な仕事があるんでしょ?」
そういって天羽さんはあの女を話し合いから遠ざけた。
「取り敢えず、不気味な状況になってたのは分かりましたわ……何故あなた方はそんな平然と……」
「まぁ、殺しに来なきゃそんなに怖くないからね」
と、俺は言った。
「………ここは安全だって網地さん言ったし」
続けて天羽さん。
「私は仕事だしなー」
「……理解できませんわ……」
芳堂さんが呆れたようにため息を吐く。
「多分芳堂さんが普通でみんなどっかおかしいんだよ」
「平然としている理由が一番物騒な人が何を………」
そうか?
「ま、その人が殴れば解決するんだからあんまり考えたら良くないよ」
「こっから先は網地さんだけじゃ無理だよ?」
「えっ」
そうなの、天羽さん。
「うん。空間自体が……なんかヤバくてね。全員誘い出すか、核たる霊をどうにかしないといけないらしいよ? ほらどっちも網地さん独りじゃ無理」
「あー」
「あーってなんだ!! 私にだって、誘い出す事位できるってーの!!」
「……頭が痛くなってきましたわ」
唯一、一度もこういう事件に巻き込まれたことのない芳堂さんが座り込む。巻き込まれたことのあるけれどその記憶無い天羽さんが平然としてるのがおかしいんだ、普通はそうなるだろう。
まあ、もう普通が何かわからないって言うのは置いておく。
「核って土田さんの事じゃないの?」
「……誰? その人」
「クラスメイト。その人が、土田さんの持ってたもの砕いたの。で、そこで俺は一回気絶して、ってかんじ」
「あー、あの時砕いたのを持ってた奴かー!!」
「……実はまだ他にも居て……ハートの石を全部砕けばって感じなんだけど」
「ハートの石?」
「──アクセサリーとしてクラス所か学校全体、それどころか全国的に流行ってる物ですわ。まぁ、わたくしには関係のないことですけれど、誰が持っているかはうちのクラスに限れば、分かりますわ」
「え? 芳堂さんそれ本当!?」
「ほんとーかっ!!?」
「ええ、当然ですわ」
何でぼっちが知ってるんですかねぇ、とは言わない。
「何故なら私も持っているからですわ!!」
ばっと取り出した物は確かにハート型の石だった。話しかける切っ掛けにしたかったんですか、とか聞いたりはしない。
「何ででしょうね、これ持ってる人に近付くと少し光るのですわ。それを頼りに……」
「ねぇ、危険じゃない?」
「今持ってるって事は、へーきだったんじゃーねーの?」
「あら? 心配してらっしゃるのですか?」
「まぁ、友達が危険な目に遭うのが分かってて行動はさせられないからねー」
「友達……」
さっき君あの女の力の実験台にされてたよね、とか俺は言ったりしない。
「やりますわ、私が! 全てのこの石を持っている生徒を探り当てて見せますわ!!」
「おー! そーかそーか!!」
「ええ、やってみせますわ!」
「取り敢えず、一人警察の人が来るのを私は待つけど、賀田君は?」
「俺は、ついて行こうと思ってるけど」
「おー? カダは待ってろ。すぐ終わるからな!!」
「後30分で開場だからそれまでにけりを付けてねー!」
「頼まれましたわー!!」
これであっさりと行くと良いんだけど………。
………うん。
「───ねぇ、天羽さん、憑かれてるでしょ」
ピクリと、天羽さんの肩が跳ねた。
「うん。別に天羽さんを同行しなきゃあの人に殴らせたりしないよ」
「そりゃよかった。あの女は条理を無視しているからな」
「突然口調が変わったな。で、危険じゃないんだろ」
「暴走してる奴らと一緒にするなよ、あーし。これでも強い方よ? 怨念」
「………そういわれて安心な要素どこにあるよ?」
「見えてるんだろ? なら、それを信じりゃいい」
灰色寄りの白い紐。天羽さんの体からは、白霊の気配がしていた。
「まー、ちょっと墜ち掛けなのは大目に見ろってね」
「……学祭の成功、それがこの一件で動いた霊達の総意なのか?」
「……断言できる。ただ、暴走するのは違う。暴走したのは吹っ飛ばしてかまわんぜ」
「そっか……それでこの件が解決なのか」
「馬っ鹿、そんな暴力で解決して納得できると思ってんのかよ?」
「じゃあどうすりゃ良いんかな」
「多少の問題はあって良い。最後には笑える学祭でさえありゃ、ね」
「確かに力は関係ないけど、そんな緩くて良いの?」
「そんなでいいんさ。私は学祭参加できなかったからな、他にもそう言うんが居るし、毎年成功する姿を見ていれば自然と消え去るさ」
「じゃあ何で、こんなことに」
「自然に消え去るのが爆発するんだ、自然じゃねぇことを起こしたバカが居るんだろ」
「誰だか分かるか?」
「そんなの分かるわけ……っと、もう戻ってくるな。私はもう見てるだけにするから、天羽文乃にだけ話しかけろよ? バレたら恨むからな?」
「分かったよ」
「分かったならよろしい! おーい朔良ちゃーん………!? どうしたの!?」
芳堂さんは真っ青な顔をして、死んだ目を天羽さんに向けた。
「曲芸師のジャグリングの投げられる物になった気分……ですわ……」
「まー、何となく見えた教室に入って石見せて反応を見て持ってそうな奴から奪ってった!」
「恐ろしくすさまじい手際でしたわ……きゃっ!?」
ポイッと、女性が芳堂さんを上へ放り投げる。そして落ちてきた芳堂さんを掲げた片手で受け止める。
「───っふにぅ!?」
「ホウドウ軽いし、楽だった」
「変な声が出ましたわ…………」
「お疲れ様、芳堂さん」
「……別に貴男の為にやった行為ではございませんの。勝手にやったことではあひま……ありますし労われる筋合いは無いですわよ……?」
芳堂さん、噛んだ。まあそのことは極力意識から逸らして僕は話す。
ちょっと天羽さん笑わないの。肩震えてるから分かりますよ?
「………でもさ、一向に学校の変な感じが消える気配がないんだけど」
「まだ砕いてねーからな。また変な現象を起こされちゃ、たまんねーからな」
女性が嫌そうな顔でそう言うので、それに関しては納得。同感だ。
僕は高校の敷地内に目を向けた。
「で、これで学祭成功させろとか、無茶を言うよ……」
「一通り行事を進行する前に倒れる奴が出るだろうなー。まあ知った事じゃねーけど」
「知った事じゃ無いって、どうせなら正攻法で成仏してほしいとか思わねぇの?」
「全く」
「そうかよ」
「私はそう言うの良いと思うよ」
天羽さん──いや、恐らくは憑いている霊だろうか。微笑んで彼女はそういった。
「つか、カダ。おまえあの中に戻るつもりか? 止めとけよ、おまえは特に危ないぞ?」
「俺が特に? 何で?」
「勘」
「………あんたみたいなのがそう言うと、本当に当たりそうだから怖いんだけど」
「あ、ホウドウはへーきだぞ。多分縁がない」
「そうですの?」
「断言できる」
そう言って女性がサムズアップしてみせる。
「御墨付き、貰えましたけれど。怖いものは怖いですわ」
しかし芳堂さんはもう敷地内に戻る気はないようだ。
もうじき人が体育館に集まる頃合いである。俺は高校敷地内に戻ることにした。




