対霊最終兵器かよ
「あっははははははは」
なんだこれ
「ふっはっはっはっは!!!」
なんだこれ
「くっーーーはっはっはははは!!!」
なんだこれぇ!!! すっげえ楽しい!
俺は肩の上に担がれて、女性がダッシュしているのを肩越しに振り返って先を見る。扉の先は無限に続くように思える無限廊下だ。そこにいくつもの黒霊が立ちはだかっていた。本数は一桁代のがほとんどではあるが、俺だったら避けると思う。
それを全力疾走して殴り飛ばす女性。さっきまでの行動には正直怒っていたが、これは凄い。殴られて人みたいに吹っ飛びながら紐が霧散する黒霊──因みに紐じゃないところを殴ったりしてもいるので、おそらく見え方が違うんじゃないか?───をバカみたいに何もせずに眺めていた。
これは無双というに相応しい。俺を担ぎながらこれをやるとか、まあ女性ではないよなこれ。
「いっけぇ!!」
「そーか! 楽しいか!!」
「すげぇ!!」
何というか、今このときだけは俺も凄く頭が単純になっていた。そうか、殴ればいいんだ──って感じで。
「居なくなったなー」
「……無限廊下だったこれ」
「全部殴れば終わると思うんだけどなー。風になったぜ」
「俺はなんか、凄く馬鹿になってた気がする」
「ばかにしてんのかー?」
「してなーい」
まあ、この人すげぇ単純何だろうなぁってのは本当によくわかった。そりゃ、殴れば解決するんだからなぁ。しかも素手。
もう一度言おう。素手だ。
描写少ないからわかんないと思う。素手だ。
対霊最終兵器かよ。
「まあ、取り敢えず引き返そうか」
「なんで」
「行って駄目なら帰るだろ、と」
「そっか!」
「納得した……」
引き返したら一年生の教室が集まる生徒棟一階。その途中を歩いていることに気がついた。
突然、あやしーな、とか言って女性が手を振ったら、もうそこは生徒棟一階だったのだ。
「なんというか、どっと疲れた……」
「そうかー? 私はまだまーだ元気だぜ!?」
「大薙さんが良かったなぁ……」
「オーナギは何も出来ない奴だよ? それのどこが良いんだよ」
「性格だろ」
「はーっ、わかってねーな!!」
「……あ、電話」
道理で携帯が震えていると思った。掛けてきたのは……大悟か。
すぐに出た。
「おいどうした?」
『おいや──って! 何──きてる──わかん──けど!!』
「おいどうした!?」
『は や く に げ ろ っ !!』
プツンと、それだけ言って電話を切られてしまった。
「どうしたって───おい!?」
女性が走り出す。一年六組がある方へと。
さっきまでとは比べ物にならない速さ───というか歩く生徒が邪魔なのか壁に飛んで、壁を走ってたりするんだが、あれは本当に女性なのか?
「って言ってる場合じゃないや、俺も行かないと!」
疎らに歩く生徒の間を縫って女性を追い掛ける。逃げろ、なんて言われたが逃げられるか。
「まったくー、何もないってどういう事さ」
「………誰もいない……?」
教室は、真っ暗だった。お化け屋敷用の暗幕が張られているのだから、当然といえばそうだ。
ただ、人の気配はしなかった。
女性が先に教室に入っていく。心なしか少し震えて……ないか。
「───やっと全員そろっ──」
背後からの声は、土田さんだった。
ただ、振り返る前に女性が土田さんに飛びかかってしまい彼女は台詞を最後まで言えなかった。
「 こ い つ か !!」
飛びかかり、押し倒し、土田さんの体をまさぐって、何かを奪い取ると、それを握りつぶすように砕く。凄まじい速さでそれは行われていた。
「もういらないっ」
ポイッと何かの残骸を投げ捨てた。拾い上げると、それは半透明の桃色をした石だったことは分かる。
「これで解決だっ、かーえろっ!!」
「…………確かに寒気が薄くなってきた」
「なんだー? 寒気なんか感じてたのか? 弱ぇーな」
「……あんたが強すぎるだけじゃないか」
「分かるかー? そうとも言うんだぜっ」
………一件落着か。
あ、やば、目眩だ──────
──────どうも、この目眩、長かった気がする。頭の痛みが現れた、それはもうガンガンと。
「おーい、顔色悪いぞ?」
「いや、もう良くな───はぁ???」
色が反転した景色に、瞠目する。人も建物も空も何もかもがネガになったような、そんな景色に。
「あれ、あの人は?」
気が狂いそうだ。手荷物はない。制服のポケットを探っても御守りすらない。
何よりさっきまでいた女性が消えたのだ。
「学祭当日だって言うのに体調不良か?」
「…………当……日……当日……そうか当日なのか」
そう呟く。あの女性がどこに行ったか……あの女性? 誰だっけ、そんな人が居たのか?
頭痛が強くて、頭が……。視界が馴染んできたけど、どうも、もやもやする。
「そ、当日。取り敢えず当番になるまで暇だろ? 天羽さんさっき来てたから一緒に見て回れば良いんじゃねぇの?」
「…………」
「おい、聞いてんのか?」
「………ああえっと、御守りが何だって?」
「聞いてねぇな……、天羽さんが居るから合流して来いって話をお前にしたんだよ」
「天羽さんもう来てるの?」
「もうって何だ、今日朝一で来るって話してたのお前じゃねーかよ」
「……?」
「とにかく廊下に出ろ、話は本人としろ!」
「わ、わかった……」
言われて、学校の外に出る。まだ開場前なのか誰もいない中ぽつりと居る天羽さんは見つけやすかった。
学校の外に、携帯のカメラを構えている天羽さんは。
「おー、見える見える。顔色悪いね、賀田君! まあともかく、もっちょいこっち来てくれる??」
「良いけど、なんで」
「正門に手なんかおいてないでそこからこっちに、ほら、ほら」
奇妙な事を言う。学校から出ちゃいけないだろ……。
ただ、まあ。天羽さんの服の一部が真っ黒になっているのが見え、それが何とも、気になる。
服のポケットか。何だろ…………。
「シャッターチャーンス!!」
カメラからフラッシュが焚かれる。目がっ!? 人に向けてフラッシュは危険だって!!
「今が、チャンスだな!!」
その声と同時に顔面をひっぱたかれたような衝撃が走る。
その声を聞いただけだというのにあの女性の笑い声が、その瞬間、聞こえてしまったような気がした。




