12月31日のこと
日常回です。
年末。
大学の秋学期が終わってから一週間ほどが経過した。
学期の終わりに近づくにつれて、キャンパスのあちこちで旅行の話題が出ていた。
特にスキー合宿とか、温泉とかをよく耳にした気がする。
前までは私も行かなきゃ…って思って憂鬱になっていた。
みんながやってることができなかったから。
でも、いつの間にか、
「そういう人もいるよね」って思えるようになっていた。
そんな私はというと、ほとんど彼の家で生活していた。
朝早くに家に行って、一緒に朝ご飯を食べる。
天気予報をみて、今日なにするの?って聞いて。
こんな感じ。
とはいえずっと彼にくっついているわけではなかった。
彼は家事をしたり買い出しに行ったりしていたし、
私は私で日中は散歩したり、友人と会ったり、
あとは大みそかに向けて準備したりしていた。
この間のこと
住宅街をのんびりと歩いていたら、
道端で突然、おじいさんに道を聞かれた。
「あのう、すみませんが」
いきなりすぎて、肩がビクっと跳ねたのを覚えている。
どんどん鼓動が早くなって、嫌な汗が背中を伝った。
恐る恐る、おじいさんのほうを見る。
地図に目を近づけながら
「この、公民館の近くにある郵便局に行きたいんですけどね、迷ってしまって」
といい、紙の上の郵便局を指さす。
正直、頭の中は真っ白だった。
どうやって反応すべき!?とか
分かりにくいですよねって共感すべき!?とか、
色んな考えが頭の中に出てきて、パニックになったのを覚えている。
正直、すぐにでも逃げてしまいたかった。
その後、悩んだ末に最初に出た言葉が
「…それは…ひ、左に曲がったところに…あ、ります」だった。
やってしまった。今思うと、どこの左なんだって思う。
「左?それは、そこの交差点を曲がるってことですかな」
「…ぁ、はい」
私がまごまごしているうちに
「ああ、ここを曲がるべきでしたか」
と、何故か地図を見て納得したような様子のおじいさん。
「教えてくれて、どうもありがとうございました」
「…ぁ、え」
にこやかにお辞儀をすると、
私が言葉が詰まっているうちに、交差点を曲がって行ってしまった。
一人になった瞬間、泣きたくなった。
また言葉が出なかった
上手にできなかった
そして、おじいさんに間違った道を教えてしまった。
色んな事が重なって、その場で少し涙をこぼした。
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「…って、いうことがあったの」
私はちょっぴり暗い気持ちで、
私の真後ろにいる彼に告げた。
彼はこたつと協力して私を挟めるポジションにいた。
座椅子にもたれかかってる彼に、さらに私が体重を預けている感じだ。
机の上にはざるに入った山盛りのみかん。
テレビのCMは、格付けチェックのものが多かった気がする。
「そっか」
彼は私の髪を梳きながら、静かに言った。
そのあと、ふっと笑って
「道案内、成功してそうじゃん」
「…全然、またうまく…できなかった」
「おじいさん、まださまよってるかもね」
彼が茶化すように言う
「ん…」
思い出して、胸がじくじくする
「でも、最後まで逃げなかったんでしょ?」
彼の手が私の手に重なる。
「嫌だったけど、逃げたかったけど」
「最後までそこにいた」
私の手が、ぎゅっと握られる。
「よくできました」
顔を少し上げて、瞬きをする。
また、できない私のことを甘やかしてくれる。
「むー…」
褒められるようなことじゃない。
みんなができることを、
私はできなかった。
それでも
「…前より、まし?」
小さく聞くと
「うん、とっても」
静かな、でも力強い返事だった。
その時、ちょうど、新年を祝う声がテレビから聞こえてきた。
去年のことを思い出しつつ、彼のほうに向きなおる。
「…ね」
「ん?」
「……あの…あ、明けましておめでとうございます。…その、今年…も、よろしくお願いします。」
決まり文句じゃなくて、
いっぱい感情を乗せて、言ってみる
「うん。こちらこそ、今年もよろしくお願いします。」
優しく返してくれた。
胸がちょっとあったかくなる。
この人と一緒だったら、
今年も、来年も、
ずっとずっと大丈夫な気がする。




