14. 邪竜
ギンゲイドの死体から出てきた魂をぱくり。
これはどうやら本能のようだ。反射的にやってしまうな。
手に意識を集中すると燃え上がった。
……少し怖かったが、ちゃんとギンゲイドの炎術を使えているようだ。他に燃え移ることもなく、操作できている。
『ゾンさん! ちょっと厄介なことになってます! こちらに上がって来てください!』
アネッサから念話が入った。ここまで侵入してきたオーク達とボスであろうギンゲイドは倒したが……厄介とは?
俺がニムダ達の方をチラリと見やるとエイとシイが遺体を整えているところだった。
短い付き合いだったが、愉快なやつだった。
……問題が片付いたら、後でちゃんと弔ってやるからな。
急いでアネッサがいるはずの領主の部屋まで上がると、眠る領主の傍らには変わらずリッグスがいるが、バルコニーの方から視線を動かさない。
バルコニーからは城下が一望できるようで、アネッサが身を乗り出していた。
「ゾンさん! あれを……!」
アネッサが示す方に目を向けると、巨大な物体がのたうっていた。
「……なんだ、アレは」
思わず呻いた俺の視線の先にあるのは巨大な肉の塊だった。それが芋虫のように暴れて城壁を破壊している。
「ゾンさんが侵入したボスオークを倒した後、オーク達とその死体がくっつき出して……最終的にアレに……」
「オークってあんな能力があったのか?」
「違うな、恐らく魔族の呪いの類だろう。オークのリーダーを倒されたことで、最後の切り札を切ってきたようだな」
俺の疑問にリッグスが答える。
じゃあもう一つの疑問にも答えてくれないかな……
「アレをなんとかする方法は、私には思いつかん。ゾン殿、なんとかしろ」
無茶振りだ。ゾンビにアレをなんとかできるわけないだろう。
考えろ、何かないか。
……オークのリーダー……ギンゲイド。
奴がトリガーになったのなら、生き返らせてみよう。
もし元に戻らなかったとしても対処法を知っているかもしれない。
俺はギンゲイドの死体の元へ走り、急ぎ屍術の詠唱をする。
ギンゲイドはゆっくりと起き上がった。
「……ゾン。貴様の屍術か。俺を使役しようというのか」
ギンゲイドの目に怒りが宿った気がした。あれ、絶対服従のはずじゃ……
ともかく、もはやここからでも見える巨大肉芋虫──いや、手足が生えた姿はドラゴンのようだ──の方を指し示した。
こうしている間にも、肉ドラゴンはオーク達を吸収して巨大化を続けている。
「そういうのは後だ。ギンゲイド、アレが何か分かるか?」
ギンゲイドはそれを見ると大きく目を見開き、次の瞬間、城中に響く声で吼えた。
「……奴め! 魔族、バウメリア! 俺を支配しただけに飽き足らず、同胞達にあのような術をかけようとは!」
「アレはなんなんだ?」
襲い掛かってはこないかとビクビクする俺だが、ギンゲイドは肉ドラゴンの方を睨み、歯軋りするように答える。
「我らオークは、かつて、島を覆うほどの巨大なドラゴンの死体の肉から邪神によって作り出された兵士だったという。今はもうこの世界の一種族となっているが……魔族の呪いはその頃の姿に戻すものなのだろう」
「対処法はあるのか?」
「わからぬ!」
……うーん、困ったぞ。このままでは、バッドエンドだ。
逃げるしかない、か。
城を見捨て、領主を見捨て、皆を見捨て。
そもそもここに来たばかりの俺だ。
思い入れなどなにもない。
逃げてしまおう。
領主……自ら死の王になり、永遠に苦しむ羽目になった領主。
自分のためとは思えない。恐らくは民を守るためか。
アネッサ、リッグス。ガランやトルマルド。
二度と目覚めないかもしれない領主に300年の忠誠を尽くす者達。
誇りを縛られ、同胞を貶められ、怒りに燃えるギンゲイド。彼の魂を喰ったことで、なんとなく理解できる。彼もまた忠義のために生きているのだ。
ビイとデイ。意思疎通も上手くいかないゾンビだが、俺の命令に従って戦って死んだ。
ニムダ。俺によって蘇らせられ、再び死んだ。
…………俺だけ、逃げるのか。
ゾンビの身で、すべての誇りに背を向けて。
ただ、生きるだけ。
いや、生きてすらいないのだ。
「俺は……ゾンビじゃない」
ゾンビだけど、ゾンビじゃない。
「俺は……ゾンだ。ここにいる。存在している」
ならば、戦おう。勝ち目がなくとも。
忠義に応え、誇りに応えるために。
俺の目に生気が宿った時、目の前に人魂が浮遊しているのに気付いた。
領主リアナ=グレンダロフ。
『……ワタシ……ヲ……』
か細い念話で何かを訴えている。
『……クラッテ……』
俺は頷き、リアナの魂を……喰った。




