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13. 炎使い


城内に侵入したオーク達は外壁と内壁の間の迷路のようになっている回廊に手間取っているようだ。各所に罠を仕掛けてある。容易には突破できなかろう。


スロープを転がる岩に弾き飛ばされてオーク達が下に落ちていった。最初は(ロック)


『ゾンさん!』


「アネッサか、どうした?」


アネッサの念話が届く。

侍女としての能力かバンシーの能力かは知らんが、アネッサは城内であれば遠距離念話ができるらしい。


『少数ですが、内壁を越えられてます! オーク側の精鋭のようです!』


「早いな……手練れだな」


内壁をスルーして領主を直接狙ってきたか。

奴らの目的は城の占領ではなく、領主の身柄を攫うことだ。


天守前にはゾンビ4人組を置いてある。

ただのゾンビかと思いきやあいつらもあれで相当強い。が、オークの手練れが先の蟲使いレベルだと少々心許ない。


しかし、内壁の門を破られれば敵が怒涛の如く天守に押し寄せる。そちらも対処する必要がある。


……ここは手分けをするしかないな。

天守の方はリッチのニムダとオークゾンビ達が居れば当面はなんとかなるだろう。


「ニムダ、天守に加勢に行ってくれないか。俺は一旦内壁の様子を見てから行く」


「承知致した。主君、お気をつけて」


「お前もな」


オークゾンビ達の指揮権をニムダに渡して別れ、内壁の門に向かう。

ニムダは天守へのショートカットとなる裏道へ向かった。仕掛け扉などを通る裏道はこの城に元々設けられており、アネッサから説明を受けている。


俺も隠し通路を通り、内壁の内側に入る。

内壁の門を守るのはスケルトンの守備隊長、ガランだ。


「戦況は!?」


『代行殿! 今のところは持ち堪えているが、かなり押されている。まずい状況だ。あれを見よ』


壁上を指すガランの大剣の先に目をやると、壁上のスケルトンが空を飛ぶなにかに襲われているのが見える。

細い体に石の色の皮膚、蝙蝠のような羽根。

あれは……


「ガーゴイルか」


『そうだ、魔族の使い魔だ。やはり裏には魔族がおったようだな』


ガーゴイルは数こそ少ないが、スケルトンが弓を持てば接近し、剣に持ち替えれば離れて投石攻撃を行なう。

制空権を取られている。確かにまずいな。


「なら、こちらも飛行部隊だ。蟲術・蝗群(ローカストスウォーム)!」


肉をも喰らう獰猛な蝗の群れを召喚し、ガーゴイルにけしかけた。

一匹ずつ喰らい尽くすのは時間がかかり過ぎる。

狙うのは羽根の薄い皮膜だ。飛べなくしてしまえば脅威ではなくなる。


ガーゴイルを全て落とすとスケルトン達は弓矢による眼下のオーク達への攻撃を再開した。


『おう、すまぬ、助かった! オーク達が登ってきている。俺も壁上に上がる! いくつかのオークが抜けたようだ、そちらを頼む』


「ああ、こっちは任せたぞ」


その場をガランに任せ、俺は天守に急いだ。



──



隠し階段を駆け登り天守の裏手に出る。

前面に回ると、いくつかの死体が転がっているのが目に入った。


これは……侵入してきたと思しきオーク、そして先に作ったオークゾンビの死体だが、いくつかは黒焦げになっている。


戦闘音のする方へ走ると、配下のゾンビ達が1体のオークと交戦していた。


「ヴァッアァ!」


巨漢ゾンビのエイが丸太を振り回して牽制する合間に短髪女ゾンビのシイが一撃離脱の引っ掻き攻撃を加える。なかなかの連携だが、丸太は上手く捌かれ、引っ掻き程度ではオークの頑健な肉体は物ともしない。


「チョロチョロと、鬱陶しいわぁ!」


叫んだオークは武器を持たず、胸にメダルを提げている。蟲使いと同じようなメダルだが、その図柄は……まずい。


「退がれ!」


命じると、シイが一息で数歩分飛び退き、その跡を赤い筋が薙いだ。

メダルの図柄は炎。こいつは……炎使いだ。


後ろを見やると、数体のオークの死体と共にスケルトンの残骸、焼けた人間の死体が三つ転がっている。

恐らく……ビイとデイ、そして……


「ニムダ……?」


「……主君、申し訳、ありません」


アンデッドは炎に弱い。

これは燃えやすい、といった話ではなく、屍術で呼び戻された魂が浄化されてしまうためだ。

多少炙られる程度ならともかく、完全に浄化されてしまえば……二人はもう、屍術でも蘇生できない。


そして、ニムダも……


「……我輩は、主君にお仕えできて……光栄で、」


そこで、ニムダの動きが止まり……その手が力無く床に落ちた。


「……やってくれたな」


「またゾンビか。しかも喋れるだと? 貴様がこやつらのボスか」


数々の魔法を操るニムダを倒せる炎使い。

俺自身も炎に対抗する手段は持たない。相性は最悪だが……


「エイ、シイ、退がれ。こいつは俺がやる」


「ほう、いい度胸だ。俺の名はギンゲイド。女王の盃(クイーンズグレイル)のギンゲイドだ。名を名乗れ」


「ゾンビのゾンだ」


「……馬鹿にしてるのか?」


そう言われてもな。


「まあ良い。行くぞ、ゾンビ!」


ギンゲイドは拳に炎を纏い突進してくる。

あれに当たればただ熱いだけでは済むまい。

バックステップで下がりながら敵の軌道上に腐毒爆弾を置くように放つ。


「……ぬっ」


ギンゲイドはそれを燃える手で払おうとするが……直前で大きく横に跳ねて躱した。

床に落ちた腐毒爆弾が炸裂し、抉れるように腐り飛ぶ。


「石の床が腐るとは……なんという威力だ」


ギンゲイドは臭いに顔をしかめながら呻く。

……自分の強さに自信を持ちながら、ゾンビ相手にも油断はなし、か。実に厄介な相手だ。


腐毒爆弾の残りは一つ。慎重に使う必要がある。


素手で相手をするのは厳しいな。

スケルトンの残骸の場所に跳び、落ちている剣を足で跳ね上げてキャッチする。


「武器を使っても構わんよな?」


「……今更だな。俺の戦闘スタイルに付き合う必要はない。好きにしろ」


右手に剣を持って敵に向け、左手を敵から隠すように半身に構える。

……戦闘スタイル、か。

無意識に取ったこの構えにどんな意味があるのか……あったのか、俺には分からない。


しばしの対峙。

共に必殺の威力を持つ攻撃があることが分かった。

勝負は一瞬で決まる……かもしれない。


先に動いたのは、ギンゲイドだ。


「はぁッ!」


ギンゲイドは遠間から左拳を突き出す。

当たらない間合いだが……横っ跳びに躱すと俺のいたところを炎の拳が掠めて過ぎる。

当然だが、遠距離攻撃もできるらしい。


横に飛んだ先に追うようにギンゲイドが迫る。

喉を狙って剣を突くが、身を捻りながら避けられると、同時に拳がフック気味に振り抜かれる。

俺は身を屈めてそれを──


胴体に衝撃。

体が宙に浮く。


ギンゲイドが回し蹴りを放った体勢を取っている。

さらに、逆側の拳に纏った炎が激しく燃え盛っている。


まずい。空中では避けられない──


「終わりだ、ゾンビ」


ギンゲイドがニヤリと笑うと、次の瞬間、裂帛の気合いと共に全力の炎が空中の俺を襲う。

視界が炎に包まれた。



「ぐあああッ!?」


くぐもった悲鳴が響いた。

ギンゲイド自身の、だ。

ギンゲイドは予想外に焼かれた顔面を炎の消えた手で抑えている。


無論、その隙を逃す俺ではない。

空中で燻っている炎の下をくぐって飛び出した俺の剣がギンゲイドの腹を突き通した。


「ぐうッ!」


ギンゲイドの巨体がグラリと揺れるが、踏みとどまって振り払うように拳を振るう。

俺は剣から手を離し、バックステップで避ける。


恐るべき闘争心だ。実は既にアンデッドなんじゃないだろうな。


「……どうやった!?」


俺はそれに答える代わりに左手を掲げて見せる。

左手は耳障りな音を立てる羽虫を纏っていた。


「ジラークの蟲術だと?」


右手の剣を注視させ、相手の目から隠した左手で蟲術を発動して羽虫の群れを召喚していた。


ギンゲイドが炎を放つ直前、奴目掛けて羽虫の群れを放った。奴の放った炎は群れを伝い、自身に逆流していったのだ。


そもそもこれも炎とは相性が悪い。数を出す前に燃やされたら意味がなかった。だから隠して召喚したのだ。


「何という……ゾンビだ」


俺自身も炎に巻かれることは避けられたとはいえ、少なからず浴びている。

お陰で全身火傷だらけだ。見た目は大して変わらないが。


ギンゲイドは次第に目から力を失い、やがてその場に倒れ伏した。


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