第9話 リールまでの道のり
「みんな準備は万端か?よし、出発だ!」
そう声をかけた時刻は翌日の午前10時、ギルド前。俺たちは準備を整えてギルドでリールまでの道のりを再確認して出発した。
リールまでの道のりは20キロールほどだったので、相談した結果今日の間に12、3キロール進み残りを明日の朝から進もうという話になった。
外壁を抜け街道沿いを歩いていく。両脇は辺り一面草原で、前方には森が見えている。今日のキャンプは森の中となりそうだ。
幸いこの森には魔物がほとんど生息していない。キャンプに最適な場所だ。
「そういえばみんなはなんで冒険者になろうと思ったんだ?」
道中歩く以外にすることもなかったのでほかのメンバーの話を聞くことにした。
冒険者のことを詮索するのは良くないことかもしれないが、自分のパーティーのメンバーくらいはよく知っていたいからね。
「あたしはね、ヴァードル王国の外れの方にあるタリエの森ってところが出身なんだけど、あたし以外みんなおじいちゃん、おばあちゃんエルフばっかりでね、同年代の友達がいなかったんだ。だから村のみんながもっと刺激のあるところに行ってきなさいって送り出してくれたの」
とルーシーが話し始めた。いつもの感じからは想像できないが感動する話だな。
「まあ、あと70年くらいはみんな生きてるから冒険者として有名になって村の英雄になって戻りたいんだ!そういうタクミは?」
確かに俺も話さないとフェアじゃないよな。
「俺は他国からこの町に流れ着いちゃったんだけど、もう元の場所には戻れないからここで暮らしていくために冒険者になった」
嘘はついていない範囲で言えるのはこれぐらいだな。「異世界からやってきました!」とか言っても誰も信じるわけないし。
「私の理由はタクミのと近いわね。家に兄弟が多いから私がたくさん稼いで楽させたいの」
冒険者は危険も多い分高収入も見込める職業だ。もしかしたらソフィアと同じような理由から冒険者になる人も多いのかもしれない。
「なんかしんみりさせちゃったね、ごめんごめん。ライアンはどうなの?」
「僕は父親が冒険者だったのが大きいね。今は左腕を怪我して引退したけどAランクで、小さいころからいつも魔物との戦いについて話してくれてとても面白かった。だから僕もそんな風になりたくて冒険者になろうと考えたんだ」
なるほど。親の職業として憧れる人もいるわけか。
「わたくしの理由も近いですわ。お父様が魔物学者で、お母様が植物学者ですの。今まで図鑑でしか見てこなかった魔物や植物をこの目で見てみたくて冒険者になりましたの。将来は自分がした冒険をもとに本を出版したいですわ」
ライアンほど直接じゃないけどオリビアも自分の夢のために冒険者になったんだな。
「うちは恩返しって言ったらいいかな。小さいころ家の近所の森で遊んでたら迷子になっちゃってね、森の深いところまで入っちゃって魔物に襲われかけたの。たまたま通りすがりの冒険者が魔物を倒してくれて助かったんだけど、将来大人になったら自分も人を助けられるような存在になりたいって思ったんだよね」
「魔物に襲われたの!?」
「うん、タンカっていう鳥の魔物でDランクだったって後から知った。まだ5歳だったし助けてもらえなかったら命もなかったと思う」
「その冒険者とは今でも会いますの?」
「実は助けてもらった時、安心したら気絶しちゃって顔よく覚えてないんだよね。目が覚めたら家のベットの上で、両親に聞いたら冒険者だって言う男の人が運んできてくれたらしい。でも名前は名乗らなかったみたいでそれ以外のことはさっぱりわからないよ」
めっちゃクールな冒険者だな。俺の想像が正しいのならそいつはイケメンに違いない。
こうして俺たちは今まであまりよく知らなかった互いのことについて話していった。
ーーーーー
「そろそろ日も傾いてきたしここらへんにキャンプを設営しようか」
ライアンの一言で俺たちは歩みを止める。
「いいね。そしたら夕飯も作ろう」
そろそろおなかも減ってきたしちょうどいいな。
「また作業を分担しよう。僕とタクミがテントの組み立てとかするからソフィアとオリビアは料理に取り掛かってくれ」
「分かったわ。ステラは材料を切るのを手伝ってちょうだい。あとルーシーは近くから薪をとってきてくれる?」
「あたしに任せて!エルフの本気見せてあげる!」
「くれぐれもここから離れすぎないでね。危ないし」
「分かってるって!」
食料と調理器具を女子グループに手渡すと俺とライアンはさっそく作業に取り掛かった。
テントは木のそばに3つ協力して建てる。最初の一つを組み立てるのには少し手間取ったがもう二つを作るころには手早くできるようになった。
「おーい!薪をもってきたよ!」
「早いな。よし!こっちに持ってきてくれ!」
ルーシーに薪を組み立ててもらい、俺が炎魔法で(今回の火力調節は大丈夫だった)火をつける。
「こちらも準備が整いましたわ。あとは火を通して煮込めば完成ですわ」
ソフィアとオリビアが交代でかき混ぜること15分。スープが完成した。
「「「いただきます!!」」」
「美味い!」
スープは地球で言うトマトをベースとしていて、ジャガイモそっくりなポタトがたっぷり入って食べ応え満点だった。一日歩き続けた空腹の腹にはいくらでも入るような気がした。
俺たちは夢中になって食べる。
「ごちそうさま!」
「ルーシーもういいの?おかわりは?」
「ポタトがだいぶ入ってたからもうお腹いっぱいだよ!」
珍しく一番最初に食べ終わったのはルーシーだった。今日の昼なんて半端じゃないぐらい果物食べてたけど。
「大丈夫ですの?」
「ちょっと疲れてるのかも。明日に支障出るとまずいし、あたい今日は寝るね!」
確かに装備を身に着けた状態で10キロール以上歩いてるからな。疲れるのも当然だ。
「俺たちも疲れをとるために早く寝ないとな。おやすみルーシー。」
「うん!みんなお休み!」
そういってルーシーは足早にテントへと潜っていった。
俺たちも15分後ぐらいには食べ終わり、寝る支度を整えると、俺とライアン、ソフィアとオリビア、ルーシーとステラの別れ方でテントに入った。
「明日も朝から歩くからな。タクミも体調管理だけは気をつけろよ」
「ライアンもな。お休み」
「ああ、おやすみ」
こうしてキャンプ初日は幕を閉じた。
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