愛しき日々へ
退院の日。
「荷物、これで全部?」
勇気君は、車のトランクに荷物を乗せながら尋ねた。
「うん、ありがとう。ごめんね車出してもらっちゃって。」
私は申し訳ない気持ちになる。
「いいっていいって。」
嬉しそうに勇気君は応える。
「これからもっと慌ただしくなるんだからさ。」と言いながら彼はトランクを閉めた。
「あんまり頼ってばっかりも良くないような…。」
私は躊躇しながら答える。
「僕としては頼ってほしいんだけどね。」
優しい笑顔と声で、勇気君は言う。
「勇気君って、私の前だけ僕って言うよね。」
ルカちゃんと接する時の違いに今更気づく。
「それは、見栄を張りたいからです。」
「見栄?」
予想外の返答に、疑問符が浮かんだ。
「私は普通に接してくれた方が嬉しいよ?」
そう言うと、勇気君は顔を真っ赤にし始めた。
「あぁ、もう。」
私が創りあげた優しい狼さんとは少し違うけど、勇気君が優しくて強い人だっていうのはあの日から今日まででよくわかった。
「しかし、思った以上に退院時間かかったなあ。」
私は少し溜息をついた。
「何言ってるの、こうして元気になったから良かったよ。」
と、彼はマフラーを掛けてくれた。
「え、だ、大丈夫だよ!」
「いや、これはプレゼントの一つだから。」
彼は嬉しそうに笑う。
「プレゼント…一つ…?」
「愛さん、今日は?」
「あ。」
12月24日、病院もそういえば赤と緑と白で埋め尽くされていた。
「で、でも私プレゼント用意できてないよ?!」
慌てふためく私に、勇気君はしばらく考え込む。
「じゃあ…俺欲しいものがあるんだけど。」
「なあになあに?」
私が尋ねる。
「あのね…「ちょっとお兄ちゃん!荷物詰んだらさっさと行くわよ!愛さんも寒いんですから乗ってください!」
後部座席に乗ってたルカちゃんに、怒られてしまった。
「お前、絶対わざとだろ…。」
勇気君は恨めしそうに、ルカちゃんを見つめる。
「だって、今日から愛お姉ちゃん我が家の同居人になるんでしょ?早く帰りたいじゃない!」
ルカちゃんは嬉しそうに答えた。
「というかその節は本当に…お世話になってばかりでごめんね?」
「何言ってるんですか!私も嬉しいし、ママも、あわよくば仕事で忙しいパパですら、
今日は家で待ち構えてるんですから!」
ルカちゃんがものすごい笑顔だ。
「家に帰ったら、色々タイミング奪われそうだな…。」
ルカちゃんが窓を閉めると、勇気君はぼやいた。
「タイミングって?」
私が尋ねると、勇気君は少し真剣な顔をしてつぶやく。
「さっき、俺が欲しいって言ってたプレゼント。」
私は「あぁ」と返した。
「まぁでも、時間はたくさんあるし。」
勇気君は助手席のドアを開けて私を車に乗せてくれた。
「まずは、退院祝いと、クリスマスを堪能しますか。」
運転席に座ると、勇気君は車のエンジンをかける。夕焼けの色が、空一面を染めていた。
黄昏の森で覚えた、優しくてあたたかい時間が、そこには流れていた。
「愛お姉ちゃん!私クリスマスプレゼントは愛お姉ちゃんが良い!お姉ちゃんになってくれないかな?」
ルカちゃんの突然の言葉に私は「もちろん!むしろ私がルカちゃんが妹だったらってずっと思ってたよー」と答えた。
その時の勇気君の顔が若干焦っていた理由を、大上家にお邪魔して、家族という暖かさに触れて、幸せを感じた夜にわかるのであった。
【黄昏の森の優しいオオカミ】これにて終幕でございます。
どうもこうしてご挨拶するのは初めてなので、初めまして 月雲燎と申します。
楽しんでいただけましたでしょうか。連載当初はこんなに長い事、物語を紡ぐことになるとは微塵も思わなかったし、自分の中で「ねえ!これ終わるの?!ねえ!!」と自問自答をしながらも、こうして完結を迎えられたことがとても嬉しくて噛みしめております。
これもひとえに、読んでくださった方々、ブックマークをしてくださった方々、感想を下さった方、そしてこの作品の更新を心待ちにしてくれた友人のおかげであります。
この場を借りて御礼申し上げます。
色々細かな設定を考えたりしてましたが「あまり説明が多いのも難儀だな。」となって最後は若干曖昧な表現になってしまいました。ごめんなさい。
ところでこの話を描いているときに「優しいオオカミ」という絵本に出会い、実況動画では「黄昏の森」に出会い、つくづく「自分の表現もまだまだよのう」としみじみ思いました。
また自分よがりではありますが、こうして作品を綴る機会を作り出していけたらと思います。
その時はまた、お付き合いくださると嬉しいです。
それでは。




