アタシと始まり
お久しぶりです。
今回は真樹視点です。
アタシは幽霊。名前は確か・・・真樹。苗字は思い出せない。というかそれ以前に自分が何故ここにいて、何故死んでるのかもわからない。
分かる事と言えば、自分が死んで幽霊になったことと、生前はいわゆるオタク女子だったこと、そしておそらくアタシはこのマンションの部屋に住んでいたのだろうということだけだ。
自分が何者かを思い出そうとしたけど、やっぱりなぜか思い出せない。いや、もしかしたら思い出したくないのかもしれない。よほど辛い思い出だったのか、思い出そうとすると体の震えが止まらなくなるのだ。だからもう自分のことを知ろうとするのはやめた。
アタシが今いるこの部屋はマンションの部屋だ。当然最初のころは入居者が来た。その中にはアタシと同じオタクもいた。でもその人たちは皆アタシの姿を見た途端、血相を変えてこの部屋を出て行く。そりゃそうだよね・・・。だってアタシは幽霊だから。こんな幽霊と暮らしたくないよね・・・。
こうして最初のころと比べてマンションの入居者が激減した。今では誰もこの部屋に寄り付かなくなった。
ただ一人・・・ある女の子を除けば。
その子はいつもアタシがいるこの部屋の掃除をするために来る。まるでアタシが見えていないかのように。でもある日、以外にも声をかけてきたのは・・・彼女のほうだった。
「こんにちは、幽霊さん。」
まさか声をかけられるとは思わなかったため、あたしは心底驚いた。そしてアタシも彼女に声をかけた。
「・・・見えてるの?」
「うん。この部屋に初めて来たときからね。」
「・・・じゃあ何で今まで・・・。」
「うーん、なんか今まで声を掛け辛かったから。でも、今日こそは声を掛けてみようと思って。」
・・・ああ、典型的な安い同情か情けだろうな。そう思いつつ、あたしはもっともな質問を彼女にした。
「・・・あたしが怖くないの?」
すると彼女は意外な答えを出した。
「怖くないよ。だって・・・」
彼女は安い同情じゃない目をしてこういった。
「家族だから。」
「・・・家族?」
「私のお婆ちゃんの遺言なの。お前は一人じゃない。このマンションに住んでる人たちは皆家族だって。だから当然この部屋に住んでるあなたも私の家族の一人!」
と、目の前の女の子はそう言ってドヤ顔をした。
それを見たアタシは・・・
「・・・ぷっ」
と思わず噴出してしまった。
「あー!何で笑うのー!?」
「だって・・・だって・・・。」
なんだかこの子を見てると・・・心が落ち着く。アタシの心が救われているみたいだ。アタシ達はしばらくお互い笑いあっていた。
「そういえば、名前を名乗ってなかったね。」
「そうだね・・・。アタシは真樹。苗字は思い出せないから名前だけ。」
「そうなんだ。私は天野 美月。このマンションの大家をしています。」
「よろしく、大家さん。」
「うーん、できれば大家さんはやめてほしいな。まだまだ未熟だから。」
「じゃあ・・・、美月にちなんで『ミッチ』って呼んでいい?」
「いいよ!これで私たちも家族だね。これからもよろしく、真樹ちゃん!」
「・・・うん!よろしく」
なんだかアタシはまだまだこのマンションで心地よく暮らすことができる。根拠はないけど、そんな感じがした。
思ったよりも長くなってしまいましたので、前後編みたいにします。
次回は主人公が出ます。