どうやら眠いらしい
ジャンピングスライディング土下座を習得したいです
赤い床に月のような白い壁の廊下をキャスティに先導され付いていく。
・・・のはいいのだがやけに長く感じられる。体感的にはもう3分ほど歩いている気がするが全く果ては見えない。
てか、果てが見えないってどうよ?ここ家の中だよ?
そのままさらに2分ほど歩いたころ、ようやくキャスティが立ち止まった。
「ここです」
と見る限りどれも同じような扉の一つを指す。
「ちなみに、私の部屋は隣です。何かあればどうぞ」
マジで隣なのか・・・親父さんに怒られそうなんだが・・・
「では」
そう言うとキャスティは部屋に入っていった。
「・・・入ってみるか」
木製の漆を塗ったような高級感満載の戸を開けると、俺のような一般ぴーぽーが想像する「高級な部屋」がそこにあった。
広さは特別広いわけではないが、備えてあるベッドの掛け布団にしてある刺繍は見るからに高級そうだし、白く縁取られて青い花が添えられている窓は地味だがどことなく高級感を演出している。
壁は白塗りに木の枝のようなものが気にならない程度に彫られてあり、金がかかってそうな雰囲気を出している。
絨毯は少し暗い赤で、高そうだ。
部屋の中心にある机は黒く、床の赤と絶妙にマッチしている。これは高い(確信
つまり、全体的に高そうなのだ。
ベッドに腰掛けてみるとやはりふかふかで、思わず上半身ごと投げ出してしまう。その柔らかさに思わず眠気を誘われ・・・・
◇◆◇◆◇◆◇
二人で火を囲んでいる時だった。
「隆弘は魔法には興味あるの?」
そう問われた。返事は
「もちろん。使ってみたい程度には」
と返した。
男なら一度くらいは思ったことがあるだろう。
魔法を使いたい。アニメや漫画の主人公のように闘えるようになりたい。俺もそのご多分に漏れず夢見ていた。
「じゃあ、まず、これを覚えてみるといい」
そういうとゴラは地面に足で模様を描き始める。
初めに円を、少し内側にもう一つ円を。さらにその内側に正六角形の頂点になるように点をとる。
その中心にはーーーー
「これ、は・・・・」
ーーーーー「火」と漢字で書かれていた。
◆◇◆◇◆◇◆
「・・・ぁん。・・・さん。・・・タカヒロさん」
聞きなれない幼女の声・・・?
「・・・ぁい?」
「おはようございます」
・・・俺、寝てたんですかそーですか。
「夕食の準備ができました」
さっきの「おはようございます」はいったい・・・?
「・・・俺どのくらい寝てたの」
「部屋に入ってすぐなら2、3時間ってところですかね」
それなりの時間寝てたな・・・。
思いながら窓の外を見るが、日が沈みかけてるところだった。夕焼けに照らされまだ外は明るい。
「え、今何時だよ」
「6時くらいですよ」
この世界も十二時間制なのか・・・
さっきの夢にでてきた魔法陣の「火」という漢字にせよ、いかにこの世界がガバガバかわかるな。
あと、今は夏なんだろうか?それにしては親父さんスーツ着てたしなぁ・・・
「なに呆けてるんですか、付いてきてください」
「あ、夕食まで貰えるのか」
「他に食糧確保の術があるのですか?」
「・・・ないです」
言ってて若干情けなくなってきたが、どうにもならないので素直に付いていく。
また長い廊下を歩くのかと右に曲がろうとするが、キャスティの姿が見えない。
「なにしてるんですか。ちゃんと付いてきてください」
どうやら真逆の方向へ進もうとしていたらしい。
そっちなのか、と見ればキャスティは俺の部屋の3つ隣、つまりキャスティの部屋の2つ隣の両開きの扉に入っていくところだった。
中を見てみると、天井からはシャンデリアが吊られており、部屋の中央にテーブルクロスがかかった長テーブルが一つ。両側に席が4つずつ、前後に1つずつ配置されており、その席にはベルが置いてあった。
キャスティは手前の、ベルとは反対の席に座っていた。
どこに座るか迷ったが対面には親父さんが座りそうなので
キャスティからみて左の手前から二番目の席に座ることにした。
「遅れてすまない」
待つこと数分、親父さんがやってきた。やはりキャスティの対面に座っており、俺の学生服も相まってなんとなくこの場にいることへの疎外感がする。
「さぁ、食事を始めよう」
そういって親父さんが手元にあったベルを鳴らすとメイドさんが食事を持ってきた。
皿を覆っていたクロッシュを外すと、中からは芳しいスパイスの香りとこんがりと焼けたチキン(らしきもの)がでてくる。
森の中にも美味いものはあったが、いずれもちゃんと調理したとは言い難いものだった。
俺はかじりかけた程度の胡乱なテーブルマナーを思い起こしていた。
親父さんが手をつけてから食べ始めた。
見た目と香りから想像できるとおりとてもおいしかったです。
「キャスティ、タカヒロ君に地図を見せてあげなさい」
「はい、地図はどこのを?」
「私の書斎にあるものを使いなさい。一通り揃っているはずだから」
「本当にありがとうございます」
申し訳なさから謝ると礼はいらない、と笑った後に
どうしてもと言うなら、と置いてから
「キャスティの遊び相手になってあげてほしい」
と言った。キャスティは顔を真っ赤に染めて
「別に遊んで欲しくなんか・・・」
と俯いた。かわいい(確信
一通りからかって満足したのか、親父さんが部屋から出ていく。続くようにキャスティも立ち上がり、付いてきてきてください。と俺に促した。
再び親父さんの部屋を訪れる。キャスティは地図を探してきます、と言って書斎の奥に向かっていった。
俺はすることもないので手近にあった本を見てみることにする、が
「よ、読める・・・?」
読める、読めるのだ。読めるが書いてあることがよくわからない。タイトルには
「魔法科学における魔力運用の重要さについて?なんだこれ」
と書かれていた。なかなかに興味を引かれるものだったので開いてみると、中身はほとんど白紙だった。ページを進めていくと、いくつかのページには魔法陣の様なものが描かれており、そのどれもゴラが見せてくれたものとは違っていた。あの時教えてくれたものは試してみたんだが、そもそもどうやって魔法を使えばいいかわからず放置したままだ。
長い白紙の部分を飛ばして最後のページにたどり着くと一文だけこう書かれていた。
難しそうなタイトルから中身に期待した?残念!白紙でした!
「馬鹿にしてんのか!?」
思わず床に叩きつけると、音を聞きつけたのか何枚かの大きな地図らしきものを抱えたキャスティがこちらに戻って来た。
「ちょ、なにしてるんですか!?」
「い、いや、ちょっとムカついたって言うか・・・」
「・・・それは父がそれなりに大切にしているものです」
「まじか!?やばい、どうしよう」(ガクブル
震えているとキャスティは少し笑って
「冗談です」
と言った。
・・・結構ビビったんですが。少し不機嫌なのが顔にでたのか、すみません、と言ってくる。
「ちょっと面白そうなのでからかってみました」
クスクスと楽しそうに笑う笑顔に少し違和感を覚えた。
「・・・・・・」
「どうかしましたか?」
「いや、まだ会って数時間だけど笑ったの初めて見たなって。子供はもっと笑った方がいいぞ?」
「子供扱いしないでください!」
「お、おう。そんな顔真っ赤にしなくても・・・」
「赤くなんてしてません!」
どっからどう見ても真っ赤なんですがそれは・・・
キャスティはそれより、と置いて話を本筋に戻してきた。
「地図、見なくていいんですか?」
そう言って地図を広げ始める。描かれていたのは、こう言っちゃ難だが日本の地図とは比べものにならないほどショボい地図だった。
地形は大ざっぱで縮尺も曖昧、はっきり言ってよくわからん感じだった。
いきますよ、とキャスティが解説を始める。
「まず、私たちが暮らしているアルトの町がここです」
そう言って地図の下の方を指さす。
「何から知りたいですか?」
聞くことは決まってる、俺は即座に尋ねた。
「魔女の森ってのはどこに?」
キャスティは困惑したような表情になる。
「なぜそんなことを?」
一瞬話そうかとも思ったが、反応が予想できない以上下手なことはするもんじゃないと思い直し、誤魔化すことにした。
「いや、ちょっと人づてに聞いただけなんだけど、どこにあるのかなって」
「聞いてどうするんです?」
「ちょっと行ってみようかなって」
「やめといた方がいいですよ、どこの魔女の森に行くつもりか知りませんが」
やっぱ止められるのか・・・、ってちょい待ち
「え、魔女の森って何個もあるの?」
「え、知らなかったんですか?」
「初耳です」
思わず敬語になっちゃう程度には動揺してたんだ。許してくれ。
「・・・魔女の森は東西南北全てにあります」
確かに地図の東西南北の端には森がある。
そして、なにげにこの世界でも東西南北が通じるとわかった瞬間である。
「優しい魔女がいるのは?」
キャスティの困惑が深まる。
「魔女が優しい、なんて話は聞いたことがありませんが」
「どういうことだ?」
「ふつう、魔女には恐ろしい話が付き物です。人が使えないような特異な魔法を使い、人々に災厄をまき散らす」
「・・・は?」
キャスティの話に俺は困惑を隠せなかった。
あいつが魔女だと知ったのは(何となく気づいていたが)家に行った時だ。短かったとはいえそこから、それまでの間にそんな感じは見えなかった。事実、フラビットも「魔女は優しい」って言ってたからだ。
「じゃ、じゃあ喋る魔物がいるのは・・・?」
どもりながら聞くと今度は心配げな顔になり、
「・・・タカヒロさん、あなた疲れてるんです。今日は
ゆっくり寝てください」
と言って、部屋の外に押し出してくる。
「お、おい。ちょっと待て、まだ聞きたいことが」
「それは明日にでも聞きますから」
そのまま書斎から追い出されてしまう。
・・・結局ほとんど分かっていない。そんな風に考えながらあてがわれた部屋に戻り、ベッドにダイブした。
昼に寝てしまったというのに、瞼が「寝ちまえよ」と訴えかけてくる。
まだ寝たくはない、という俺の抵抗も虚しく、視界は気付ば真っ暗になっていた。
間隔が空いて申し訳ないこと限りnothing to do
なのですが、エタることだけはしませんのでどうか
ご容赦を