エピローグ
「で、結局どうなったって?」ソマリは質問に答える。
「そうだな、結局灰色の、あぁ、ロシアンだ。ロシアンが首にかけてたネックレスみたいなのが人気の塊で、その力を使って本部を建て直したんだよ。あれは壮観だったな。瓦礫がフワッと浮き上がってパズルみたいにどんどんもとあった場所にハマっていくんだよ。ものの十分とかからずに元通り。一匹の精霊があんなことできるのかね。あのネックレスのおかげかな。でもさすがに人気も空になっちゃったっぽくて、少しだけ寂しそうにしてたよ。んで、またそのネックレスを首にかけてた。」
今回本部で起きたことの顛末を全精霊に知らせる為に当事者達一匹一匹に、インタビューをすることになった伝書精霊は、シャムの喋った言葉を必死にまとめ、紙に記していた。
インタビューなんて慣れないものだから相手の書くスピードなど考えずに喋ってしまったことが少しだけ申し訳なく感じたが、伝書精霊は特に気にもとめていないようだった。
「ラグド達の処遇について?あぁテロを起こした奴と愚かにもラグドを助け出した奴らのことか。」元ノラの精霊、マンチさんはガラが悪くて緊張する。
「まぁその中には俺の後輩もいるんだけどな。まず俺の事から説明するなら、電車の管轄に戻れたよ。灰色の野郎も罪悪感があったようで、あのリーダー格のやつ、俺にガンくれやがった、何だっけ。マンクスだ。そいつに俺を元の仕事に戻すようお願いしてたらしい。自分でクビにしたくせにな。ホント素直じゃねーよ」
それは良かったですね。
「よくねーよ。いつの間にかオレが後輩になっちまったんだから。よりにのってアメショーと同じ電車にしやがって。アメショー先輩、だなんて俺は呼ばんぞ。まったく。」
その割には嬉しそうなのだから素直じゃないのはあなたもですよ、と言いたくなったが、取材させてもらっている立場なので遠慮しておいた。
そうしたらマンチは、「まぁ、嬉しいんだけどな。」と満面の笑みで付け加えた。
シャムさんはその後どうなったんです?既にあらかたは聞いているので、個々に焦点を当てて取材してみることにした。
「変わらないよ。また退屈な河川敷の管理。いつも通り老人が読書をしているのと、OLが弁当を食べてるのを見てる。あ、そう言えばこの間、面白い二人組がいてな。顛末を見てなかったからなんでかは分からないんだけど長髪の男が川に流されてて、水難の相がぁ~とか言ってて。もうひとりはそんな長髪に興味もなさそうに手を振ってて、思わず笑っちゃったんだよ。」
脱線していた話を引き戻そうと努める。しかし余りに露骨な戻し方だと相手を不快にしてしまう可能性もある。
そこはジャーナリストの腕の見せ所だ。
「その、普段通り河川敷の管理をされてるということでしたが、何か処罰のようなものはなかったのですか?」恐る恐る聞くが話を戻されたことは特に気にしていないようで、あっけらかんと答える。
「それがさ、スコティが、「私が脅して無理やり二人を巻き込んだ。」って庇ってくれて、あれこれ記者相手に言っていい奴なのか、ここは記事にしないでくれよ。
まぁロシアンもあえて見逃してくれてた所もあるんだろう。それでアメショーと俺は、「より気を引き締めて職務にあたること。」という異例なほどの軽罰で元の場所に返されたんだよ。本当優しかったよ。オレもその優しさに甘えずに精進したいな。」とシャムは語った。
「僕のことに関しては秘密だ。」ピシッと言われてしまった。
この冷静なトーンで言われると叱られている気分になってしまう。
「ただ、この首に掛けている数珠、というのだが、これは大切な人に貰った大切なものだ。これのおかげで今回のことも解決できた。感謝してもしきれない。」
懐かしむ目、その涼しげな目には冬の景色が映っているように感じた。
「そんなことを聞きに来たのではないのだろう?」
そうでした。ラグドの処遇についてです。既に色々な人から聞いていますが、今一度ロシアンさんからも聞こうと思っていたんです。まだロシアンさんしか知らないこともあるでしょうし。
「なるほどね。処遇については、本部を破壊したラグドと、そのラグドを逃がそうとした主犯のスコティには罰としてある場所の管轄についてもらった。」
ある場所とは?
「ドッグラン。」
あぁ、それは、気の毒ですね。
「でも、やったことに比べればかなり軽い罰、というかお仕置き程度だろう?」
ニコリとロシアンが笑った。
笑うとなんと愛らしい顔なのだろうか。心に秘めておこう。
「クビにした上級精霊はノラ行きにしたんですか?」言ったあとで踏み込み過ぎたか、と訂正したい気持ちに駆られたが、それにもロシアンは顔色を変えずに答える。
「まさか。ラグドがショッピングモールからドッグランへ移ったから、その代わりでショッピングモールに行ってもらってるよ。
きっと今頃重い体で頑張りながら映画館でも見回ってるんじゃないかな。」
今度は小悪魔のようなイタズラ好きのような笑みを浮かべていた。
「マンチ先輩すごいですよ。僕たちが新聞に乗ってます。」
久しぶりに共に仕事ができてはしゃぐアメショー。
「だからもう先輩じゃないって何度言えばわかるんだよ」呆れるマンチ。
「そもそもまだマンチって呼ばれるのすらもくすぐったいんだよ。」
「でもよかったです。先輩が戻ってこれて。」
「うるせえよ、ほら新聞なんて読んでぼーっとしてると、また事故が起きるぞ?」
「それは笑えないですよ。」尻尾をぶんぶんと振って答える。
やってきた電車に二匹は乗り込む。
大量の人間と二匹を乗せた電車がゆっくりと発車していった。




